判例紹介・交通事故による外貌醜状につき、逸失利益を否定して慰謝料で考慮した事案(金沢地裁H28.9.15判決)

はじめに

外貌醜状(がいぼうしゅうじょう)とは

 交通事故でケガをした場合、顔などにキズが残ることがあります。この傷が大きい場合には、後遺障害に該当します。以前は顔にキズが残った場合の後遺障害等級に男女差があり、平等原則違反などと言われたこともありました(女性の損害の方が大きいとされていました)。しかし、現在では性差はなく、キズの状況のみで等級を判断することになります。

 このような顔などのキズの後遺障害のことを、「外貌醜状(がいぼうしゅうじょう)」と総称します。

外貌醜状と後遺障害逸失利益

 外貌醜状の場合、「後遺障害逸失利益」が問題になりがちです。後遺障害逸失利益は、「後遺障害になったことにより、稼働能力が落ちた分を金銭評価する」というものです

 しかし、外貌醜状となると、労働能力がどの程度下がったのか、評価が難しいものです。例えば、外貌醜状の等級の一つである12級につき、他の受傷内容と比較すると、以下の通りです。

12級9号 一手のこ指を失ったもの
12級14号 外貌に醜状を残すもの

 顔などにキズが残ったとなれば、事故の被害として大変なものであることは、間違いありません。しかし、例えば、手の小指を失ったケース比較すると、労働能力の喪失の程度が全く同じかどうかには、疑問の余地があり得ます

 以上より、外貌醜状のケースで後遺障害逸失利益を請求した場合に、他の損害で同等の等級に該当し場合と同列に損害が認められるかどうか、問題になります。そして、相当数の事例において、「外貌醜状の逸失利益を否定する」という傾向があります

紹介する裁判例について

 今回紹介する裁判例は、交通事故により左前額部から左頭部にかけての線状痕が残ってしまったという事案です。判決の損害評価では、外貌醜状による後遺障害逸失利益を否定し、後遺障害慰謝料を増額認定するという判断を行っています(自保ジャーナル1998号30ページ)。

 なお、判決文中、「原告」などの表記を、「被害者」などと適宜変更しています。

 ちなみに、本サイトに掲載されている同種事案でも、同様の判断方式(逸失利益否定、慰謝料を増額認定)が取られています。ちなみに、以下の事案は、9級16号に該当する、比較的ケガの大きい外貌醜状が問題となったものでした。

判例紹介・交通事故による外貌醜状につき、後遺障害逸失利益を否定した裁判例(東京地裁H28.12.16判決)

判例紹介・交通事故による外貌醜状につき、逸失利益を否定して慰謝料で考慮した事案(京都地裁H29.2.15判決)

事案の概要

事故日 H23.6.21
事故態様 交差点での自動車同士の衝突
主張された通院期間 23日、約1年8月の通院
主張された症状 前額部・頭部挫創、腰部打撲傷
後遺障害 12級14号
争点 外貌醜状による後遺障害逸失利益の有無、など
裁判所の認定 後遺障害逸失利益を否定した
考慮要素 線状痕は前髪を下ろすことで隠すことが可能と評価
特記事項 後遺障害慰謝料につき、外貌醜状の事情より増額した
特記事項2 治療内容につき、一部相当因果関係を否定
特記事項3 運転者である同居の父親の過失25%につき、過失相殺を受けている
特記事項4 自賠責保険からの既払金等で損害は全額補てんされていると評価した(原告(被害者)の請求棄却)

判決の要旨

後遺障害逸失利益の有無について

 被害者は、本件事故により、左前額部から左頭部にかけて、0.5センチメートル×4.5センチメートル大の線状痕が残存し(平成24年6月8日症状固定)、後遺障害等級12級14号(外貌に醜状を残すもの)に該当する後遺障害を負ったものと認められるところである。

 しかし、被害者の上記線状痕は、髪を上げて額を出した髪型にした場合には白い傷跡を見て取れる状態にあるものの(目立つというほどではない。)、前髪を下ろした髪型とすることでこれを隠すことが可能な位置・状態にあるということができる。

 そして、被害者は、本件事故以前から現在に至るまで、Q会社で電話オペレーターとして勤務しており、接客などを行っているわけではないし、過去、市役所での窓口業務や飲食店での接客業務などを行ったことはあるとのことであるが、今後、接客業に転職することを具体的に予定しているとまでは認められないし、被害者につき仮に転職の機会があるとしても、前記のとおり、額の線状痕を隠す髪型とすることができることなども踏まえると、同線状痕があるがゆえに転職に具体的な支障が生じるということも想定しにくい。

 そうすると、被害者の前記線状痕は、同人の労働に直接的な影響を及ぼすものであるとはいえず、労働能力を低下させるものであるとは認められない。

 したがって、被害者につき後遺症逸失利益を認めることはできない。

後遺障害慰謝料の増額評価について

 被害者は、本件事故によって、前額部・頭部挫創、腰部打撲傷の傷害を負い、のべ15回、約1年間にわたって医療機関への通院を余儀なくされたものである【中略】。

 また、被害者には、【中略】、後遺障害等級12級14号(外貌に醜状を残すもの)に該当する後遺障害たる線状痕が残存したものであり、かかる線状痕は被害者の労働に直接的な影響を及ぼすものであるとはいえないものの、被害者において、周囲の視線が気になるなどして、対人関係等に消極的になり、間接的に労働ないしは日々の生活に影響を及ぼすおそれがあることは否定できない。

 そのほか、本件に表れた一切の事情を総合考慮し、被害者が本件事故によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料(傷害慰謝料、後遺症慰謝料を含む。)として合計450万円を認めるのが相当である。

判決に対するコメント

外貌醜状と後遺障害逸失利益

 後遺障害逸失利益は、神経症状以外の後遺障害が残存した事案の場合には、最も高額な損害項目となることが多くあります。これは、後遺障害逸失利益は、生涯にわたって稼働能力が低減するという前提での損害評価になるためです

 しかし、逸失利益の算定というのは、将来にありえた所得を概算するという、「一種のフィクション」と評価されます。このため、画一的な算定が可能なようでありながら、実際には事案ごとに大きな変動がありうるものです。

外貌醜状に関する損害評価の方法について

 外貌醜状の場合は、「現実に労働能力を喪失した状況がある」という立証に相当程度成功しない場合には、「逸失利益否定、慰謝料増額」という枠組みが出来上がりつつあるように解されます。後遺障害逸失利益を、他の後遺障害同様に認めた事案も存在しますが、「現に接客業をしていて、事故後に望まない配置転換をされた」といった事実関係が存在したケースであったようです。

 なお、慰謝料を増額させる場合の増額幅としては、100万円から200万円の範囲であることが多いようです。ただし、ケガの部位等によって評価は変わるようです。

 昨今では、交通事故の賠償額につき、インターネットの早見表などで概算することも可能です。とはいえ、形式的な算定になじまない事案もあるという点が重要といえます。

 なお、簡易な損害賠償額計算プログラムについては、本サイトにも用意されています。よろしければご利用ください。

損害賠償額自動計算機(傷害+後遺障害の場合)

認定内容一覧表

  請求額(円) 認定額(円)
治療費 284,961 226,801
交通費 30,140 3,340
その他費用 38,408 0
休業損害 126,965 126,965
傷害慰謝料 650,000 4,500,000
後遺障害逸失利益 5,777,364
後遺障害慰謝料 2,900,000
人身損害小計 9,807,838 4,857,106
過失相殺考慮 8,827,054(10%) 3,642,829(25%)
既払い金 ▲5,281,688 ▲4,788,439
弁護士費用 580,000 0
人身損害合計 6,401,688 0

補足

 以下のページも、よろしければご覧ください。

交通事故

平成27年ころ以降の交通事故判例