判例紹介・交通事故による治療に関して、整骨院の施術につき、2分の1に限り必要性を認めた事案(横浜地裁H28.10.31判決)

はじめに

整骨院の施術が問題となる事案

 交通事故の被害者が、整形外科のほかに、整骨院を併用するケースがあります。整骨院では、医師ではなく、柔道整復師による施術を受けることになります。昼間は仕事があるなどの事情で、整形外科に通院することが困難な被害者の場合などに、整骨院が利用される傾向があります

 整骨院の施術により治療効果が上がることは望ましいことです。相手方保険会社が施術費を一括対応をするのであれば、慰謝料算定の通院日数にも算入されることが通常であるため、賠償額の算定にも有効になります。

 他方で、整骨院の施術部位が、整形外科の診断書と食い違う場合があります。また、受傷部位と施術の部位が異なるケースもあります。このような場合で、交通事故の規模が必ずしも大きくないようなケースになると、加害者側の保険会社が整骨院での施術の必要性を否定することがあります。

紹介する裁判例について

 今回紹介する裁判例は、整骨院での施術につき、必要性が争われた事案です(自保ジャーナル1991号79ページ)。結論としては、整骨院の施術費用については2分の1に限り、施術の必要性を認めています。。

 なお、判決文中、「原告」などの表記を、「被害者」などと適宜変更しています。

事案の概要

事故日 H26.1.26
事故態様 高速道路上で加害車両が被害車両に追突したもの
主張された通院期間 約5月半で、110日の通院
主張された症状 頸椎捻挫、腰椎捻挫等
後遺障害 非該当(申請をしていないものと解される)
争点 事故と受傷の因果関係、事故と通院の因果関係、素因減額の有無
裁判所の認定 事故と受傷の因果関係を認定した
裁判所の認定2 整骨院の治療費は2分の1に限り必要性を認定した
裁判所の認定3 素因減額は認めなかった
考慮要素 整骨院の施術は頻繁で、受傷していない箇所にも及んでいるなどの事情あり
特記事項 事故から8日後の通院、同乗者の家族2名の受傷はなかったとしても、事故と被害者の受傷の因果関係を認めた
特記事項2 物件損害は約13万円だが、事故と受傷の因果関係は認めた

判決の要旨

事故の内容の評価

 本件事故の衝突状況、両車両の損傷状況からすれば、本件事故の衝突は決して軽微なものではなく、被害者の頸部と腰部には頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害を生じさせる程度の衝撃が加わったといえる。

事故と受傷の因果関係

 被害者は、医療機関等を受診した際には頸部痛や腰部痛を訴え、治療のために通院を続けていたことが認められる。以上の事情からすれば、本件事故後に医療機関を受診したのが本件事故日から8日後であったことや、被害者の夫と長男は受傷していないこと等の事情を考慮しても、被害者が、本件事故の翌日から首、肩、腰に痛みが出てきた旨の被害者本人の供述は、信用することができる。

 以上から、被害者が、本件事故によって、頸部捻挫、腰部捻挫の傷害を負ったことは認められる。

素因減額について

 「本件事故以前に頸椎椎間板ヘルニア、腰椎椎間板ヘルニアによって頸部痛や腰痛が生じていたことは認められ」

ないなどとして、素因減額を否定した。

整骨院の治療費について

 被害者は、平成26年2月14日から同年7月31日までの間、C整骨院で90日施術を受け、その施術費が804,830円であったこと、被害者は本件事故で受傷していない右膝、左膝、右第3中手指の施術を受けていることなどを考慮すれば、C整骨院の施術は頻度や範囲等からすべてに必要性が認められるものではなく、本件事故で負った障害の治癒という目的に照らして認めることができるC整骨院の施術費は、2分の1に限られるものとするのが相当である。

判決に対するコメント

事故と受傷の因果関係について

 事故の物件損害の金額が約13万円だったことにすると、加害者の保険会社に「軽微事故案件」と捉えられても、やむを得ないところもあります。とはいえ、事故から8日後には整形外科を受診したという事情や、高速道路で加害車両の速度が時速30キロと認定されたことなどの事情から、事故と受傷の因果関係という大元部分の否定は避けられたものです。

 この認定自体は妥当と解されます。他方で、事故から医療機関の受診までさらに日数が空いてしまった場合などを考えると、因果関係自体が否定されるおそれもあったといえます。やはり、事故後に異状を感じた場合には、早期に医療機関を受診することが、とにかく重要といえます。

交通事故に巻き込まれたら、まずは整形外科に行くこと

整骨院の治療費の認定について

 整骨院での治療の詳細は定かではありません。とはいえ、受傷部位と異なる部位を施術していた等の事情があると、医師の同意があった場合でも、因果関係を否定されるおそれがあることが示されています。

 本件ではざっくりと2分の1とされていますが、このような割合的な施術費の削減を求められるとなると、必要な治療部分の治療費まで割を食うおそれがあります。加害者側の保険会社に受傷していないと主張されている部位の施術を受ける際には、気を付ける必要があるといえます。

認定内容一覧表

  請求額(円) 認定額(円)
治療費 359,941 359,941
施術費 804,830 402,415
交通費 4,730 4,730
休業損害 528,994 397,604
傷害慰謝料 890,000 890,000
小計 2,558,495 2,054,690
既払金 ▲1,233,171 ▲1,233,171
弁護士費用 135,532 80,000
合計 1,490,856 901,519

補足

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交通事故

平成27年ころ以降の交通事故判例