判例紹介・特殊詐欺事件(オレオレ詐欺の類型)で、受け子の少年につき、少年院送致を不当とした決定(東京高裁H28.6.15)

はじめに

特殊詐欺事件と少年

 「オレオレ詐欺」や「振り込め詐欺」など、特殊詐欺事件には、いろいろな呼び名があります。共通する特徴としては、複数人が関与して、高齢者を主としたターゲットに向けて、組織的に犯行が行われていることが多い、といったものです。

 この「複数人の関与」に、未成年の少年が含まれることがあります。判断能力が乏しいことの多い少年の場合、詐取するお金を実際に受け取る「受け子」など、末端でありながら危険が伴う犯行の一部に関与させられることが多いものです

 なお、以下では、いわゆる「オレオレ詐欺」や「振り込め詐欺」の事案について、「特殊詐欺事件」と呼称します。

特殊詐欺事件と家庭裁判所の判断

 少年の場合、特殊詐欺事件に誘われた場合、交流している大人や友人などの関わりから、これを断れないケースが多くあります。嘘の勧誘を受けて、当日現場に行って初めて特殊詐欺事件の片棒を担がされることを知るケースもあります。

 他方で、特殊詐欺事件の場合、被害金が数百万円単位に上ることは、決して珍しくありません。被害者の心情に付け込む犯行態様であり、犯罪として悪質であることは、間違いありません

 特殊詐欺事件の受け子などで関与した少年が、その後に逮捕等されることがあります。特殊詐欺事件の場合、まず間違いなく家庭裁判所の審判手続となり、裁判官により処遇を判断されることになります。この処分につき、少年院送致が相当と判断されることは、決して珍しくありません

 特に、実際に被害者がお金をだまし取られ、犯罪が未遂ではなく既遂となった場合は、一般的にその可能性が高くなるといえます。受け子という末端の役割であったとしても、明確に詐欺の片棒を担いでいて、被害が発生しているためです。

今回紹介する決定例について

 今回紹介する事件は、「特殊詐欺事件(オレオレ詐欺の類型)の受け子」が少年審判を受けた事案です。当初の家庭裁判所の審判で、「第1種少年院送致が相当である」と判断された事件に対して、少年側が「処分が重すぎ、不当である」と異議申立てを行ったものです(判例タイムズ1437号144ページ)。

 裁判所の結論としては、第1種少年院送致は処分としては重すぎるという判断でした。最終的な判断は、保護観察となったようです

 決定文では、かなり詳細に、少年の状況や立ち直りの可能性などについて評価されています。

事案の概要

犯行態様 「オレオレ詐欺」の受け子
家庭裁判所の判断 第1種少年院送致
高等裁判所の判断 少年院送致は不当である(取消差戻)
最終的な処遇 保護観察
考慮要素 少年がすぐ逮捕され被害金400万円が還付されていて、犯行の実質は未遂に近い
考慮要素2 少年の報酬は3万円の予定であったなど、共犯者中で末端の地位にある
考慮要素3 高校中退も、通信制高校に再入学して定期的に通学している(今後も通学可能)
考慮要素4 前歴は審判不開始の窃盗保護事件1件のみ
考慮要素5 親などによる監督も期待できる
特記事項 詐欺の故意を否定する少年側の主張は採用されなかった
特記事項2 犯行自体の悪質性については、繰り返し言及されている

決定の要旨

詐欺の故意について

 詳細略、受け子として犯行に関与した状況などから、故意がなかったとは到底評価できない、という結論である。

犯行が実質的には未遂であることについて

 被害額が比較的多額であることは原決定が指摘するとおりであるが,少年がすぐに逮捕されたため,被害金は被害者に還付されており,実質的には未遂に近い事案である。

少年の犯行への関与について

 本件非行は役割分担がなされた組織的計画的犯行に加担したものであること,少年が担った現金受取役が重要であることは原決定が指摘するとおりであり,オレオレ詐欺は重大な犯罪であり,それに関与した非行もまた軽視できないが,常に施設内処遇が必要であるとはいえないところ,少年は,共犯者の実名や詐欺の方法などの犯行の全容を知らされておらず,約束されていた報酬は3万円の低額(引用者訂正)にとどまっていることなどからすれば,共犯者の中では末端に位置するものと評価される。

少年の非行性について

 事実認定一部省略,少年には中学2年後期や最初の高校を中退した時期にある程度の生活の乱れがあったものの,それ以外は学校に通学し,補導されることもなく通常の生活を送っていたのであって、上記のほか,中学時に菓子等の万引きをしたことがうかがわれることを考慮しても,少年の非行性が深まっているとは見られず,今後,本件のような悪質な非行を繰り返す危険性があるとはいえない。

少年の現状について

 少年に調子が軽く深く考えることなく物事に飛びつきがちであるという傾向があり,それが本件を含む仕事を安易に引き受けたことにつながっているとみられることや,失敗しても回避的に振る舞いやすい傾向があり少年が故意を否認するなど本件非行について内省が深まっていない面があることは否定できないが、一定程度反省の態度を示していることなどから見ても、このような資質・性格上の問題点が深刻なものであるとまではうかがわれない。

結論、望ましい処遇について

 (少年について,)その非行性の程度等から見て,社会内資源を活用し,自己の性格上の問題点や本件非行の問題点について認識を深めさせることによって,一定程度再非行を防止することが期待できると考えられ,現段階で社会から隔離して矯正教育を施す必要性が高いとまではいい難い。

 そうすると,保護環境が整っているにもかかわらず,在宅処遇の可能性を十分検討せず,少年を第1種少年院(引用者訂正)に送致した原決定の処分は著しく不当であるというべきである。

決定に対するコメント

特殊詐欺の特徴について

 本決定では、少年の犯行の内容(オレオレ詐欺の類型)について、以下のとおり評価されています。

  1. 役割分担がなされた組織的、計画的な犯行である
  2. 子を思う親の心理に付けこむ犯行態様は悪質である
  3. 被害額は400万円であり、比較的高額といえる
  4. 現金受取役という犯罪完成のために欠くことのできない役割を果たした少年の犯情は不良である

 以上の内容は、反論の余地がないものと思われます。何の落ち度もない被害者が、400万円もの大金をだまし取られるおそれがあった本件につき、重大な犯行であることは疑いありません。

 他方で、よく知られた話ですが、特殊詐欺事件は組織的に行われています。最も悪いのは犯行を計画し、被害金の大部分を取得しているであろう上層の人間といえます。いかに共犯であるとはいえ、末端の者(特に少年)にまで厳罰で臨むべきかというと、若干の違和感もあります

実際の処分について

 本件につき、被害金が還付されず、少年自身も報酬を取得していたといった事情があったとしたら、同じ結論にはならなかったかもしれません。実質的に金銭的な被害が生じなかったというのは、少年にとっては非常に幸運だったと考えます。

 そのような状況に加えて、決定書にて詳細に説明されているとおり、少年の非行性がそこまで進行していないことを思わせる事情も複数ありました。親などによる監督環境も存在していたことなども考慮され、最終的には保護観察となったようです。

 とはいえ、決定書を読むと、ギリギリの判断であったこともうかがえます。「特殊詐欺事件に巻き込まれた状況」や、「そのような事件以外には、少年は基本的には良好な環境にいる」といった事情を、かなり具体的に示すことができなければ、特殊詐欺事件一般の悪質さに照らすに、少年院送致を避けることは困難なことも多いと解されます