目次
はじめに
整骨院の施術が問題となる事案
交通事故の被害者が、整形外科のほかに、整骨院を併用するケースがあります。整骨院では、医師ではなく、柔道整復師による施術を受けることになります。昼間は仕事があるなどの事情で、平日日中に整形外科に通院することが困難な被害者の場合などに、整骨院が利用される傾向があります。
ただし、法律上、医療行為は医師でなければ行うことができません。病院への通院が乏しい状況で、整骨院への通院が多い事案の場合、事故状況によっては、通院の必要性を否定されるケースもあります。
紹介する裁判例について
今回紹介する裁判例は、整形外科に3日しか通わず、その他は、交友関係がある者が経営する整骨院で115日の施術を受けたという事案です(自保ジャーナル1995号155ページ)。
結論としては、整形外科への通院を医師から指示されているにも関わらず整骨院へ通院を繰り返したなどの事情より、交通事故と整骨院の治療費との因果関係を否認しています。
この事案は、原告が他の偽装事故に関与していた可能性を指摘するなど、やや特殊であったといえるものです。とはいえ、整骨院の治療費を否認した判断枠組み自体は、参照されるべきものといえます。
事案の概要
事故日 | H26.4.25 |
事故態様 | 交差点で一方通行逆走車との接触 |
主張された通院期間 | 整形外科3日、整骨院115日の通院 |
主張された症状 | 左足関節打撲、頸椎捻挫など |
後遺障害の事前認定結果 | 非該当(申請をしていないものと解される) |
争点 | 事故と整骨院の治療費の相当因果関係、など |
裁判所の認定 | 整骨院の治療費を否認した |
考慮要素 | 医師は整形外科の受診を指示したものの、受診が少ない |
考慮要素2 | 原告と交友のある整骨院への通院がほとんど |
考慮要素3 | 診療録によっても、整骨院への通院が有効かつ相当とはいえない |
特記事項 | 原告運転車両は別件の偽装事故に使用されていた |
特記事項2 | 相手方保険会社は、本件事故は原告が故意に発生させたものと主張(裁判所は採用せず) |
特記事項3 | 車両損害及び代車代についても否認 |
判決の要旨
病院の治療費について
原告が、B病院に支払った6,120円については本件事故による損害として認めるのが相当である。
整骨院の治療費について
原告が、F整骨院から請求されていると主張する126万2,050円については、原告が、B病院において整形外科の受診を指示されているにも関わらず、整形外科の受診をせずに、原告と個人的な交友関係にあることがうかがわれる者が経営する整骨院にばかり頻繁に通ったと主張していること、原告の症状につき、B病院における診断書及び診療録の記載からして、整骨院における施術が有効かつ相当な症状であったことをうかがわせる事情はないことからして、本件事故による損害として認めることは相当ではないというべきである。
判決に対するコメント
治療費の扱いについて
判決での治療費に関する認定は、立証責任どおりといったところです。事故と通院の相当因果関係については、本来は請求側で立証すべきものです。この点につき、整形外科が整骨院への通院を指示したわけでもなく、むしろ整形外科への通院を指示していたとなれば、整骨院への通院の相当因果関係を示すことは、困難というべきです。
通院の必要性について、診療録を参照するにも、全体で3日しか通院していません。となれば、診療録の記載から整骨院への通院の必要性を見出すことは、容易ではないでしょう。
加えて、整骨院が原告と交友関係があった者の経営であったとなれば、通院の必要性が疑われたとしても、無理からぬところです。
望まれる対応について
交通事故で受傷した場合には、まずは整形外科に定期的に通院し、医師による経過観察を受けることが重要となります。そして、整骨院を併用したい場合には、医師から同意を受けておくことが無難です。
また、知人の医療機関に通院したいという場合には、過剰な診断とならないよう、特に注意するべきといえます。
今回の事案の特殊性について
今回の事案では、原告の保有車両が偽装事故で用いられているという、かなり特殊な状況がありました。また、被告側から、原告が短期間で複数回の保険金請求をしていた事情が明らかにされています。そのような事情からしても、原告の主張の信用性というのは、どうしても低い評価を受けやすかったといえます。
ただし、事故と通院の因果関係についての判断枠組みは、偽装事故の経緯とは直接関わりない、一般的なものです。直接言及されている考慮要素を再度記載すると、①整形外科の指示内容、②整形外科と整骨院の受診頻度の状況、③整骨院と原告の関係、④診療録の記載の評価、といったものです。
このため、事故と通院の因果関係が争われたような事案では、参照されうる判断であるといえます。
認定内容一覧表
請求額(円) | 認定額(円) | |
治療費 | 1,268,170 | 6,120 |
交通費 | 13,800 | 0 |
傷害慰謝料 | 1,200,000 | 200,000 |
弁護士費用 | 248,970 | 30,000 |
物件損害合計 | 849,640 | 0 |
合計 | 3,579,807 | 236,120 |
補足
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