面会交流の強制執行の事案で、月額30万円の間接強制金を定めたもの(東京高裁平成29年2月8日決定(平成28年(ラ)1879号))

はじめに

面会交流の審判と強制執行

制度の簡単な説明

 子どもがいる夫婦が離婚する際に、面会交流の取り決めを行うことがあります。単純化して説明すると、子どもと同居していない親が子どもに定期的に面会する手続です。

 面会交流の実施の有無や方法につき、当事者間の話し合いで決まらない場合は、家庭裁判所の調停手続で協議したり、審判を求めることもあります。

適正な面会交流の実現のために

間接強制による「義務付け」

 現在の裁判所の実務では、面会交流に関する調停条項や審判の文言がある程度具体化していれば、「面会交流の間接強制が認められる」という状況です。

 以下のような考え方で、裁判所として関与できる枠組みを決めているように解されます。

  1. 嫌がる子どもや監護親(親権者)の方針を無視して、を無理矢理面会交流を実施することは望ましくない(「直接強制」は認めない)
  2. 面会交流が全く実現しないことは、子どもの健全な発達という観点からも望ましくない
  3. 面会交流を怠った場合に、間接強制金を支払わせることで、監護親(親権者)が自発的に面会交流を行うことに期待する(「間接強制」の枠組み)

判例紹介・面会交流を認める審判による間接強制を認めた事案(最高裁第一小法廷H25.3.28決定(H24(許)48号))

面会交流の間接強制の「現在」

 面会交流の間接強制が認められることが明確にされて以降、いろいろな決定が出されています。子どもの強固な拒絶から、間接強制を認めなかった事案もあります。また、間接強制金の金額が問題にされた事案もあります。

 実務の傾向は定まりつつありますが、まだ事案により判断の変動もあるという状況といえます。

紹介する裁判例について

 今回紹介する決定例は、面会交流の間接強制を認めた案件で、家裁の審判と高裁の決定とで、間接強制金の金額が変動したものです(判例タイムズ1445号132ページ)。

事案の概要

争点 面会交流の間接強制の内容
原審の判断 不履行1回につき100万円の間接強制金とする
高裁の判断(本件) 不履行1回につき30万円の間接強制金とする
考慮要素 面会の実現のため、間接強制は認める
考慮要素2 100万円の間接強制金は高額に過ぎる
考慮要素3 親権者父の年収は年額約2600万円
特記事項 母が親権者父に面会を求めた事案である
特記事項2 面会交流の取り決めも調停でなく、審判によっていた

決定の要旨

子どもの意思と間接強制の可否

 子の面会交流に係る審判又は審判に代わる決定(以下「審判等」という。)は子の心情等を踏まえた上でされているから,監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判等がざれた場合,子が非監護親との面会交流を拒絶する意思を示していることは,これをもって,上記審判等がされた時とは異なる状況が生じたといえるときは上記審判等に係る面会交流を禁止し,又は面会交流についての新たな条項を定めるための調停や審判を申し立てる理由となり得ることなどは格別,上記審判等に基づく間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではない

 として、間接強制自体は認めた。

間接強制金の金額について

 相手方(非監護親)は,原決定が不履行1回につき100万円の間接強制金を定めたからこそ相手方と未成年者との面会交流が実現したのであり,原決定がなければ面会交流は実現しなかったから,上記間接強制金は相当であり,原決定は維持されるべきであると主張するが,上記間接強制金が余りにも過大であり相当でないことは前記説示のとおりであり,不履行1回につき30万円の問接強制金では抗告人による本件義務の履行が期待できないと直ちに認めるべき事情はない

 として、間接強制金を30万円とした。

決定に対するコメント

間接強制金の相場観

 間接強制金の「相場」というのは、確定的なものはありません。ただし、養育費や婚姻費用が参照されているのではないかと言われることが、しばしばあります。

 ただし、今回の事案は、面会交流を求めたのが母親側です。父親がいわゆる高額所得者だったこともあり、養育費の取り決めなども行っていないことが予想されます。よって、典型的な類型(養育費を支払っている父親側が、子どもを養育している母親側に面会交流を求める、というもの)とは異なります。

 この場合、養育費相当額で間接強制金を算定することは、意味がありません。母親の収入を確定してあえて算定しても、母親の年収が200万円程度であれば、約1万円といった金額になるでしょう(子1人の場合)。父親が面会交流を拒絶したいのであれば、容易に支払えるでしょう。

 他方で、認定された30万円という金額を取り出してみると、「仮に母親が監護親(親権者)だった場合に、父親に支払義務が認められたであろう養育費の金額と近い」との解釈は可能です。

 養育費や婚姻費用の算定方式は、一般的な家庭の生活費を考慮したものです。やはり、「現実的な金額で、支払を強制された厳しい」という間接強制金を算定する際に、参考になるものとは言えそうです。

本件の位置づけ

 東京家裁の本件の原審は、100万円もの高額な間接強制金を認めたもので、例外的な決定ともいわれていました。監護親(親権者)である父親の所得が高額だったとはいえ、強制金としてはあまりに高額であるという批判もあったところです。

 高裁は、この高額な強制金を修正したものです。間接強制金の振れ幅につき、裁判所の考え方がうかがえる事案と解されます。

補足

 以下のページも、よろしければご覧ください。

離婚

離婚等に関する裁判例