はじめに
自動車保険ジャーナル1984号102ページより、交通事故前のヘルニアと賠償額の関係について、興味深い事例が掲載されていました。以下で、ご紹介します。
事案の概要
事故日 | H25.1.30 |
事故態様 | 側面部衝突(車両接触の明確な痕跡なし) |
通院日数 | 272日 |
症状 | 腰椎捻挫、不安障害等 |
後遺障害等級 | 14級9号 |
主たる争点 | ヘルニアによる素因減額の有無 |
裁判所の判断 | 4割の素因減額を認定 |
考慮要素 | 事故が軽微 |
判決要旨抜粋
ヘルニアについて
被害者には平成18年当時から既にヘルニアによる腰痛があり、平成19年の前件事故により再発したこと、前件事故時も椎間板の膨脹、左椎間孔の狭小化が存在したことからすると、本件事故により腰椎捻挫を発症したのは、被害者のこれらの器質的素因による影響を否定できないのであり、上記(1)認定のとおり腰椎捻挫の受傷機転が極軽微であるにもかかわらず、本件事故により腰椎捻挫の後遺障害が残存したことを考慮すると、被害者の身体的素因が腰椎捻挫に及ぼした影響は、少なくとも4割を下らないと認めるのが相当である。
過失割合について
本件事故は、第1車線を進行していた被害車の側面に後方から第2車線を進行してきた加害車が、第1車線に進路変更しようとして生じた事故であり、もっぱら反訴被告の前方注視を欠いた車線変更に起因するものであるから、反訴原告の本件事故発生に係る落ち度を認めることはできない。
そうすると、本件事故については、反訴原告の責任割合を認めることはできず、過失相殺をすることは相当ではない。
後遺障害について
省略
判決の捉え方
ヘルニアについて
平成25年の交通事故による受傷状況を認定するうえで、過去の平成19年の交通事故が参照されています。結果として、4割の減額が認定されているため、請求する側からすると、やや厳しいようにも思われるところです。とはいえ、その要因としては、「平成25年の事故が、車両損傷などが不明確でどうしても軽微と評価せねばならず、長い治療期間が必要とは考えにくかった」という事情があったように思われます。
裁判までの交渉経緯は不明です。ただし、相手方保険会社が「軽微事故」と考えて、一括対応の打ち切り(相手方保険会社が治療費を被害者に立て替えて支払う方法を終了させること)など厳しい対応を取っていたとすると、症状を抱えた被害者は大変だったのではないかと予想されるところです。
過失割合について
動いている車同士の事故だと、追突の類型でない限り、裁判所を入れない交渉の局面では、被害者の過失ゼロという主張は認められないことが多いところです。本件は側面衝突の事案のようですが、回避できなかったことは無理からぬことである、ということで、過失がゼロとされています。この点は、被害者の感覚にマッチした判断だったように思われます。
解決までの期間について
平成25年1月30日の事故で、判決が平成28年7月15日であるため、事故から解決まで、約3年半の時間がかかっています。治療のことも考えると、裁判までもつれた場合には、どうしても年単位の時間がかかることはあるものです。
認定内容一覧表
請求額(円) | 認定額(円) | |
治療費 | 304,390 | 304,390 |
通院交通費 | 880 | 880 |
休業損害 | 515,073 | 515,073 |
通院慰謝料 | 1,092,667 | 1,092,667 |
逸失利益 | 1,369,521 | 767,880 |
後遺障害慰謝料 | 1,100,000 | 1,100,000 |
小計 | 4,382,531 | 3,780,890 |
素因減額4割 | – | ▲2,268,534 |
弁護士費用 | 430,000 | 200,000 |
既払金 | ▲1,950,000 | ▲1,950,000 |
確定遅延損害金 | 286,232 | 132,175 |
合計 | 3,148,763 | 650,709 |
補足
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