目次
はじめに
面会交流とは
未成年の子どもがいる夫婦が離婚する場合、親権者を定めなければなりません。親権者ではない親が子どもに会うことを「面会交流」といいます。面会交流については、夫婦間の協議により具体的な方法などが決まれば望ましいところです。
他方、話し合いでの合意が難しい場合には、家庭裁判所により決めてもらうことになります。
面会交流をめぐる問題
面会交流に関する取り決めがスムーズに決まらないことが、しばしばあります。離婚に至った夫婦間の感情のもつれであったり、親権争いをした結果、親権者が「面会交流を通じて、子どもを奪われるんじゃないか」などと危惧することもあるためです。
とはいえ、面会交流は、非監護親ではない親との交流により「子の健全育成に有益となる」ものと一般に理解されていて、子どもにとっても必要なものとされます。このため、非監護親からの求めがあれば、面会交流は原則として認められるべきものです。
このような事情があり、例えば、「子どもを会わせたくない親」、「子どもに会いたい親」、「親権者の顔色を見る子ども」など、当事者の思いが絡まりあうことにより、面会交流が破綻するケースがあります。よくあるのは、面会交流の方法を決めても親権者側が従わない、といったものです。
紹介する裁判例について
今回紹介する裁判例は、離婚時に父親が親権者となった事案に関するものです(判例タイムズ1435号169頁)。父親は再婚し、子は新たな母と養子縁組していました。父親側は、子どもに無用な混乱を与えるため、実母との面会交流は相当ではないという主張をしていましたが、裁判所は面会交流を認める決定をしています。
なお、決定書中の当事者の記載につき、適宜、「父親」などの注釈を記載しています。
事案の概要
当事者など | 母親から、父親に監護されている子に面会を求めた |
問題 | 面会交流の可否、親権者父は再婚し、新たな母と子は養子縁組している |
子どもの状況 | 小学校2年生の女児と保育園児の男児 |
家裁での審判内容 | 面会交流を認めた |
高裁での決定内容 | 面会交流を認めた |
考慮要素 | 父親の再婚という事情があってもなお、実母との面会交流は子の福祉にかなう |
考慮要素 | 家庭裁判所調査官の調査によると、子どもは実母との面会を別段拒否していない |
特記事項 | 実母は中国籍で、面会交流のためにその都度来日することになる |
特記事項 | 「子はいらない」という実母の離婚時作成書面を重視せず |
決定の要旨
面会交流の意義について(原審)
子と子を監護をしていない親(以下「非監護親」という。(実母のこと))との面会交流は,子が非監護親と交流して,その愛情を確認する機会となるものであり,子の健全な成長にとって重要な意義を有することを考えると,申立人と未成年者らとの面会交流を実施するのが相当であるといえる。
親権者である父親が再婚していることの評価(原審)
早い時期から未成年者らに真実の親子関係を教えることが,長い目で見て家族関係の安定につながると考えられるところであり,非監護親と定期的な交流の機会を持てることで,未成年者らの自尊心を高め,健全な成長を促進するということもできる。そうすると,未成年者らの健全な成長の観点から,一時的な混乱はあっても,幼い時期から申立人(実母)との良好な関係を築かせることは欠かせないと考えられるので,面会交流を禁止することは相当でない。
面会交流の意義について(本決定での追加部分)
未成年者らが非監護親である相手方からも愛されていると認識する機会を持つことは未成年者らの健全な成長に資するものであり,抗告人(父親)と当事者参加人(新しい母親)が未成年者らとともに新しい家庭を構築する途上にあるとしても,相手方(実母)との面会交流を認めることは未成年者らの福祉に適うというべきである。
【中略】
「もっとも,未成年者らが相手方(実母)と面会することにより,その心情に影響を与えることは否定できないが,そのような影響は面会交流を継続していく中で解消していくことが考えられる」
面会交流の具体的方法(要約)
月1回、午前10時から午後5時までの7時間、親権者側の立会は認めない
決定に対するコメント
面会交流の相当性について
親権者が再婚し、子どもにとって新しい母親ができたとなると、実母との面会をすることで、子どもが混乱することが予想されます。それでも、裁判所の判断からは、「面会交流は認めるべき」という一貫した姿勢がうかがえます。子どもが仮に混乱するとしても、その解消は、面会交流の中で行うべきであり、子どもの福祉には反しないという判断です。
このように、裁判所は、非監護親との面会については、基本的に子の福祉に有益であると考えていることがわかります。他方、「子どもに負担になるから面会交流を認めたくない」という監護親の主張は、比較的よくあるものです。とはいえ、そのような主張をすべて通すことは、虐待などにより親子関係が完全に破綻していない場合には、難しいというべきでしょう。
実際の面会交流の方法について
裁判例では、実母は、中国籍の方で、中国に在住しているとのことです。このため、面会の際には毎回来日することが前提とされているようです。父親側は、母親による連れ去りを懸念していたようですが、原審の判断では、「パスポートを持たない未成年者を直ちに中国に連れ去ることは不可能である」という趣旨の判断をしています。理屈どおりに考えればそうでしょうが、仮に連れ去りの事態が生じた場合に回復がかなり困難であることに思いをいたすと、父親側の不安も当然のものであるように思われます。裁判所は、「第三者機関を利用する方法もある」としていますが、連れ去りの懸念を100%払拭することは、難しいと思われます。
今回の裁判例は外国が絡むものであり、事例としては多くないかもしれません。他方で、連れ去りの危惧というのは、面会交流一般にいえる問題です。このような親権者の(同情されるべき)気持ちが、面会交流の実施率を低下させている大きな要因とも解されます。
補足
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