目次
はじめに
面会交流
離婚する夫婦に子どもがいる場合、親権者を決める必要があります。そして、(元)夫婦で、実際の子どもの監護に当たらない非監護親(非親権者が典型)と、子どもの定期的な面会について決めることがあります。これが「面会交流」と呼ばれる手続です。
面会交流について当事者間の話し合いで決まらない場合は、家庭裁判所の調停などでこれを協議することがあります。離婚する夫婦の場合、感情的な対立が激しくなっている場合もあり、面会交流の協議が難しいこともあるものです。
この場合は審判となることもありますが、裁判所が決めることですので、双方が納得できる内容にはならないおそれもあります。
紹介する裁判例について
今回紹介する決定例は、婚姻中の夫婦につき、監護親(妻)から非監護親(夫)に対する面会交流請求が問題となった事案です(判例タイムズ1437号127ページ)。
面会交流を求めるのは、親権者にならなかった父親など、非監護親からというのが典型です。妻から、「父親なんだから子どもに会ってほしい」という請求があった、というのが、今回の事案のイメージといえます。このような請求は珍しく、事例としても少ないように思われます。なお、夫婦の離婚協議がかなり難航していて、感情的な対立が相当あったように解される事案です。
原審では、夫婦間の感情的対立から面会交流が不可能であるとの考えから、面会交流請求を却下しました。しかし、高裁の決定では、原審の決定を取り消し、「面会交流の実施に向けてさらに審理せよ」という判断となっています。
事案の概要
争点 | 面会交流請求に対する判断 |
原審の判断 | 面会交流請求を却下 |
高裁の判断 | 原審の判断を取消、差戻 |
考慮要素 | 離婚に関する夫婦間のトラブルあり |
考慮要素2 | 夫婦ともに面会交流自体には前向きと解される |
特記事項 | 監護親(妻)から非監護親(夫)に対する請求 |
特記事項2 | 妻からの面会交流を求める調停につき、夫は出頭せず |
決定の要旨
面会交流についての裁判所の考え方
未成年者と非監護親との面会交流が,未成年者の健全な成長と発達にとって非常に重要であることはいうまでもなく,未成年者は,別居当時には生後10か月で,現在1歳7か月になったばかりの乳児期にあって,母親である抗告人の身上監護を受けているとはいえ,できるだけ速やかに父親である相手方との定期的な面会交流の実施が望まれるところである。
夫婦間の対立と面会交流の関係についての言及
抗告人と相手方との間には,離婚をめぐって厳しい対立関係にある様子がうかがわれ,相手方において,未成年者との面会交流の実施につき,抗告人が離婚交渉に応ずることを条件とするようであるが,そもそも面会交流は,上記のとおり未成年者の健全な成長と発達にとって非常に重要であり,その未成年者の利益を最も優先して考慮して実施すべきものであるから,監護親及び非監護親は,その実施に向けて互いに協力すべきもの
であるとした。
当事者の面会交流に関する意向について
本件においては,監護親である抗告人が面会交流の実施を強く望んでいることは上記のとおりであり,一件記録によれば,非監護親である相手方も未成年者との面会交流自体には必ずしも否定的な姿勢ではなく,第三者機関を利用した方法による実現の可能性も考えられるところである。
監護親(妻)からの面会交流請求を却下した原審についての評価(結論)
なお当事者に対する意向調査等を通じて,面会交流の趣旨の理解とその実施への協力が得られるように働き掛けを行うなど,面会交流の実施に向けての合意形成を目指して両当事者間の調整を試み,これらの調査や調整の結果を踏まえた上,で最終的に面会交流の実施の当否やその条件等を判断する必要があるというべきである。
決定に対するコメント
面会交流の重要性について
今回の事案自体は、監護親(妻)から別居中の非監護親(夫)に面会交流を求めるという、特殊なものでした。とはいえ、高裁の認定では、子どもの健全な成長及び発達に面会交流が重要であることに言及するなど、面会交流制度一般に対する裁判所の考え方が分かる内容となっています。
なお、夫婦間のトラブルにより面会交流の実施が困難になっていて、夫が、離婚成立を条件に面会交流を実施するかのように主張していた点につき、「面会交流とは子どものための制度であり、夫婦は協力せよ」と述べている点も、注目すべき内容と解されます。
家庭裁判所の努力など
夫婦間の感情的な対立があると、家庭裁判所が調停などの手続を進めることは、非常に大変になります。そもそも、本件のように、当事者が調停に来てくれなければ話し合いになりません。調停が不成立になり審判になっても、調停で話し合いの積み重ねがなければ、判断材料が乏しくなってしまいます。
本件では、高裁から家庭裁判所に事件が戻されています(差し戻し)。こうなると、家庭裁判所は再び当事者に意見照会するなどの手続を取ることになります。家庭裁判所調査官の適切な調査などが行われることが望まれますが、難しいこともあるかもしれません。
当事者の感情的な対立により、子どもが不利益を受けることは、あってはならないことです。当事者が直面することでトラブルが避けられないのであれば、家庭裁判所の調停を利用する他にも、代理人弁護士を入れることも検討すべきでしょう。当事者が直接コミュニケーションを取らずに済めば、無用なトラブルを避けられることもあるためです。
補足
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