判例紹介・中心性脊髄損傷による12級の後遺障害主張に対して、併合14級の認定とした事案(東京地裁H28.9.2判決(H27(ワ)27712号))

はじめに

後遺障害のおおまかな分類

 交通事故による受傷で、後遺障害の認定について争いとなることがあります。事案の数が多い頚椎捻挫及び腰椎捻挫の場合、概略、以下のような基準で後遺障害は分類されています。

  1. 他覚的所見がないものの、神経症状が残存している→14級
  2. 他覚的所見があり、神経症状が残存している→12級
  3. 神経症状がの訴えがある場合でも、医学的に症状が残存しているとは評価できない→非該当

 多くの場合は、まずは加害者の自賠責保険会社を通じて損害料率算出機構から後遺障害について認定を受けることになります。その結果をもとに加害者加入の任意保険会社と協議をするなり、裁判所の判断を受けるなりといった手続の分岐があります。

後遺障害の認定をめぐる争い

 後遺障害の等級の違いにより、賠償金額は大きな差が出ます。このため、後遺障害に認定されなかった場合はもちろん、14級に該当したものの、実際には12級相当の障害が残存しているなどとして、損害料率算出機構の認定の後であっても、裁判で等級が争われることがあります。損害料率算出機構により医学的な評価をも含んだ判断がなされた後に、それを覆すべく主張立証する必要が出てくるため、困難が想定されることが多いものです

紹介する裁判例について

 今回紹介する裁判例は、損害料率算出機構の判断では併合14級と認定されたものの、実際には12級相当の障害が残存しているとして、提訴されたものです(自保ジャーナル1987号80頁)。結論としては、併合14級の損害料率算出機構の認定を是認するもので、12級への該当性を認定していません。判断のポイントは、医学的に他覚的所見が認められるかどうかという点でした(他覚的所見として認めず)

 また、併合14級の事案で、後遺障害による逸失利益をどのように評価するかという点にて、やや柔軟な認定を行なっている事案とも理解されることも、特筆すべき内容です。

 なお、当事者の表記を、適宜「原告」から「被害者」としています。

事案の概要

事故日 H23.3.19
事故態様 普通自動車同士の追突
入通院期間 3日の入院、約2年の通院
主張された症状 中心性頸髄損傷、頸部痛、しびれなど多数
機構による後遺障害の認定 併合14級
裁判所の認定 併合14級
その他の認定 後遺障害につき、7年の労働能力喪失期間とした
その他の認定2 労働能力喪失率につき、7%とした
考慮要素 中心性脊髄損傷を裏付けるMRIの所見なし(他覚的所見を否定)
考慮要素2 椎間板ヘルニア及び頸部脊柱管狭窄症が認められるも、医師の判断では症状との因果関係を示さず

判決の要旨

中心性頸髄損傷の認定について

 中心性脊髄損傷とは、脊髄の灰白質及び白質内側部が損傷することをいうところ【証拠等略】、平成23年4月18日及び平成24年4月16日の頚椎MRI検査において、頸髄内の輝度変化は認められていないことに加え、平成24年10月31日にE大病院で実施された頸椎MRI検査においても、脊髄内の輝度上昇はないとされていることに照らすと、本件事故によって被害者が中心性頸髄損傷の傷害を負ったと認めることはできない。

その他の症状について

 被害者には、本件事故後、第5/6頸椎椎間板ヘルニア及び頸部脊柱管狭窄症が認められており【証拠略】、平成24年10月31日にE大病院で実施された頸椎MRI検査の結果によれば、被害者は後屈時に脊柱管の前後径の狭窄が増強することが確認され、被害者は後屈時に頸部の周りが辛いと訴えている。

 しかし、本件症状は、頭痛、頸部痛、肩まわりのだるさ、両上肢の痛み・しびれ・筋力低下、両手の知覚過敏、手指先のしびれ、腰痛、背部痛、股関節痛、両下肢の痛み・しびれ・筋力低下、右下肢の知覚過敏、歩行障害等と多岐にわたるところ、E大病院は、本件症状の原因を第5/6頸椎椎間板ヘルニア及び頸部脊柱管狭窄症にあると診断しておらず、同病院整形外科の辛田七郎医師は、平成25年4月12日、傷病名を「外傷性頸部症候群」、主たる検査所見を「外傷性の変化は明らかではない」とする診断書を作成していることに照らすと、第5/6頸椎椎間板ヘルニア及び頸部脊柱管狭窄症をもって本件症状の他覚所見と認めることも困難である。

逸失利益の評価について

 本件事故による後遺障害の内容・程度(併合14級)を勘案すれば、本件事故と相当因果関係のある逸失利益は、労働能力喪失率を7%、喪失期間を7年として算定するのが相当である。

判決に対するコメント

中心性脊髄損傷について

 脊髄損傷の立証では、MRIの所見が必須と解されるところです。とはいえ、画像上明らかな所見は存在しなかったようです。画像に対する医学的評価は一つではありませんが、複数回の検査で所見なしとされると、これを裁判で覆すのは、容易ではないように解されます

その他の神経症状について

 ヘルニアによる神経症状となれば、12級に該当される可能性はあります。判断経路としては、以下のとおりと解されます。

  1. ヘルニアの所見がある
  2. ヘルニアと事故の因果関係がある
  3. ヘルニアと自覚症状につき、医学的に説明がつく

 本件では、1については問題なかったと解されます。他方、2と3は認定されていないようです。この辺りは、医師の診断書で踏み込んだ因果関係の言及がない場合には、裁判所で積極的に認定を受けることも、また難しいことが多いように解されます。

逸失利益の評価方法について

 典型的な14級9号の後遺障害の場合、労働能力喪失率は5%とされ、労働能力喪失期間は、5年程度と解されています。強度のむちうち症にて認定される14級9号の後遺障害では、労働能力喪失期間の制限は5%程度であり、5年くらいでは完治するだろうと考えられている、ということです。

 本件では、通院期間が長かったことや、症状が強度だったこと、後遺障害が併合14級であり、複数の部位について認定されいることから、上記の原則的な認定とは異なる数値を採用しています。原則的な認定と比較すると、70万円程度の増額となるため、被害者からすれば、軽微な数値変更とはいえません。

 このような増額は任意交渉段階では難しいことが多く、この実現だけを取っても、裁判にした価値があったといえるかもしれません。

認定内容一覧表

  請求額(円) 認定額(円)
治療費 2,311,345 2,311,345
通院費 3,852,000 3,852,000
休業損害 3,095,429 3,095,429
傷害慰謝料 2,000,000 1,500,000
後遺障害慰謝料 2,900,000 1,100,000
後遺障害逸失利益 6,326,977 1,763,558
その他 32,490 32,490
小計 20,518,241 13,654,822
既払い金 ▲9,291,264 ▲9,291,264
弁護士費用 1,100,000 430,000
合計 12,326,977 4,793,558

補足

 以下のページも、よろしければご覧ください。

交通事故

平成27年ころ以降の交通事故判例