はじめに

軽微事故の事案

 交通事故による受傷で、事故の規模が小さいとされる場合があります。このようなケースだと、事故と受傷の因果関係が疑われることがあります。

 受傷自体が疑わしい場合でも、交通事故の被害者となると、受傷したような通院態様となることがあります。医学的な分類は難しいところですが、心理的な要因で通院期間が長くなるケースもあります。他にも、高齢者の場合には、それまでに負っていた首や腰の症状が影響して、通院が長期化することもあります。

 このような場合だと、事故との損害の因果関係をどの程度認めるかは、困難な問題となりえます。

素因減額による調整

 上記のように、軽微事故と認定されるものの、事故後の継続的な通院が認められるような場合で、医師の診断書も別段問題がないというケースがあります。そのような場合に、被害者の属性によっては、「素因減額」により認定額の調整が図られる事案があります。

 この場合には、既往歴と受傷状況の比較などが主要な争点となりえます。一般的に、事故前の通院歴がある場合には、被害者に厳しい判断となることもしばしばあります。

紹介する裁判例について

 今回紹介する裁判例は、事故態様が軽微損害と認定された事案で、事故と受傷の因果関係は認めつつ、5割の素因減額を行ったものです(自保ジャーナル2000号48ページ)。被害者が高齢者であり、腰部脊柱管狭窄症で長期間治療を受けていた経緯があったものです。

 なお、判決文中、「反訴原告」などの表記を、「被害者」などと適宜変更しています。

事案の概要

事故日 H27.2.17
事故態様 停車中の車両に追突
主張された通院期間 約4月、約40日の通院
主張された症状 頚椎捻挫、腰椎捻挫など、後遺障害12級13号相当であるとの主張
事前認定による等級 なし(申請をしていない?)
争点 受傷の有無、損害額の評価
裁判所の認定 軽微事故としながら、事故による受傷は認定した
裁判所の認定2 後遺障害には該当しないととした
裁判所の認定3 脊柱管狭窄症の治療歴などより、5割の素因減額を認めた
考慮要素(受傷) 鑑定結果や車両損傷状況によると、事故の衝撃は軽微である
考慮要素2(受傷) 事故後に約3月間通院し、両手両足のしびれを訴えた
考慮要素3(素因減額) 10年来の頚部・背部の痛みの症状あり
特記事項 自営業の休業損害を認めず、損害額が圧縮された

判決の要旨

軽微事故と認定する根拠

 被害者は、【中略】、本件事故は停止中の被害車両に加害車両が一定の速度で衝突したものであると主張し、被害者本人も、被害車両が衝突の衝撃で前方に5メートル程度動き、被害車両にも大きな損傷があることなどから、加害車両がクリープ現象で追突したかには疑問があるなどと述べる。

 しかしながら、仮に停止中の被害車両が衝突の衝撃で5メートルも前方に動いたのであれば、被害車両には相当強い衝撃が及び、被害車両及び加害車両には相当程度の損傷が生じるはずであるが、少なくとも、【中略】、加害車両の損傷はフロントバンパカバーの接触痕といった軽微なもので、内部の部品には損傷が及んでおらず、被害者の供述は、加害車両の損傷状況という客観的な証拠と整合しない。

 また、被害車両についても、【中略】、外装部品の損傷はリヤバンパカバーの接触痕にとどまっている。

【中略】

 被害者本人の説明を踏まえて被害車両の写真を検討しても、被害車両の内部の部品の損傷は明らかでないか、損傷があるとしても軽微なものというべきであり、被害車両の損傷状況も、被害者の主張を裏付けるものとはいえない。

 以上によれば、本件事故の発生状況に関する被害者本人の供述は採用できず、これに基づく被害者の前記主張も採用できない。

事故と受傷の因果関係、既往歴への言及

 本件事故による衝撃は、加速度1.52G程度のもので相当に軽微であったとはいえ、被害者の身体に一定の衝撃が及んだこと自体は否定できない上、被害者は、【中略】、本件事故当日、両足の痩れと腰痛を訴えてB病院を受診し、平成27年3月2日以降、3ヶ月余りにわたってC整骨院に通うとともに、同年5月14日以降、D病院を受診し、本件事故以降、両手・両足の痺れがあると訴えており、かかる診療経過は、被害者が本件事故により一定の傷害を負ったことを推認させる事情といえる。

 また、被害者の本件事故前の医療機関等への受診歴としては、平成16年及び平成21年にD病院で腰椎症や腰部脊柱管狭窄症と診断されたというものや、平成23年から平成24年にかけてC整骨院で施術を受けたというものがあるが、これら以外に、より本件事故に近接した時点で被害者が医療機関等で治療を受けた事実は認められない。

 そうすると、既往症の影響という点で大幅な素因減額は免れないが、以下の加害者の主張する事情を考慮しても、被害者は、本件事故により頸椎捻挫及び腰椎捻挫の傷害を負ったと認められる。

素因減額について

 被害者は、本件事故当日に受診したB病院で受けた頸椎、胸椎及び腰椎のレントゲン検査で変形性脊柱変化が認められた上、平成27年5月15日のMRI検査では第3ないし第7頸椎問に強度の脊柱管狭窄が認められ、頸髄症性脊髄症で、歩行障害、巧緻運動障害を治すためには早急に手術を受ける以外に治療がないとも診断されている。被害者が本件事故の10年以上前の平成16年から1度ならず腰部脊柱管狭窄症の治療を受けていたことや、被害者には、被害者が自らB病院やD病院の医師らに申告したように、10年来の頸部や背部の痛みなどの症状に加え、歩行困難の症状まで現れていたことなども考慮すると、本件事故前から、被害者の頸椎及び腰椎の脊柱管狭窄や変性はかなり進行していたと考えられ、本件事故後、症状固定まで4ヶ月余りの治療を要したのには、これらの既往症が相当程度影響したとみるのが自然である。

 さらに、D病院においては、頸部及び腰部の精査のための検査等、本件事故による傷害に対する治療が行われるとともに、頸椎症性脊髄症に対する治療方針の検討も行われていたが、後者は、本件事故前からあった歩行障害等の症状に対する治療の側面が強いものであったといえる。

 以上の事情を併せ考慮すると、被害者が本件事故当時75歳と高齢であったことなどを踏まえても、損害の公平な分担の見地から、【中略】被害者の損害については、5割の素因減額を免れない。

判決に対するコメント

事故の規模の認定について

 本件について、加害者側の保険会社には、「軽微事故である」という認識があったものと解されます。このため、わざわざ実験などによる鑑定まで行い、事故による車両への負荷が小さかったことを示しています。

 また、加害者側で先行して、「債務不存在確認請求訴訟」を提起しているようです。これは、加害者側から、「加害者ではあるが、損害は〇円に限られる」とか、「加害者ではあるが、被害者には具体的な損害は発生してない」といった確認を求める訴訟類型です。被害者は「反訴原告」となり、加害者側の請求を受けて、損害賠償請求訴訟を提起しています。

 通常は、加害者側から訴訟提起するという事案は、多くありません。まずは交渉を継続するなり、被害者側からの訴訟提起を待つということが一般的です。それだけ、事故による損害につき、加害者側の保険会社と被害者の間で見解の相違があり、加害者側としては受傷の有無を早期に確定させたいという意向があったことがうかがわれます

 事故の規模を確定する際には、鑑定の結果は重視されているように読めます。また、実際の損傷状態が軽微と評価されたことより、判決において「軽微事故」と評価されています。

 軽微事故となると、受傷していなかったとか、傷害の程度は軽度だったといった判断に繋がっていくことになります

素因減額について

 本件の被害者には、かなりはっきりとした通院歴がありました。約10年、頚部や腰部の症状を抱えていたとのことで、損害評価においてマイナスの評価を受けることとなりました。

 実際の判断方法としては、事故による受傷自体までは否定しないものの、5割という高い割合の素因減額を認めることになりました。請求認容額は、休業損害が否定されたこともあり、請求額からは相当に圧縮され、「治療費+α」といった金額に落ち着いています。

 請求棄却とはしないまでも、あまり損害実額を認めることをしないという、調整的な判断であったのかもしれません。

認定内容一覧表(人身損害のみ)

  請求額(円) 認定額(円)
治療費 227,873 160,229
休業損害 1,258,167 0
後遺障害逸失利益 1,442,031 0
通院慰謝料 950,000 600,000
後遺障害慰謝料 2,600,000 0
小計 6,478,071 760,229
素因減額(50%) 0 ▲380,114
既払い金 ▲49,453 ▲49,453
弁護士費用 642,000 33,000
人身損害合計 7,070,618 363,661

補足

 以下のページも、よろしければご覧ください。

交通事故被害者の方へ

平成27年ころ以降の交通事故判例