判例紹介・約4年10月別居の夫婦につき、離婚請求を認容したもの(東京高裁H28.5.25判決,H27(ネ)1064号)

はじめに

 離婚を求める裁判で、夫婦の一方がどうしても離婚に応じないというケースがあります。夫婦は別居していて、やり直すことが現実的ではないという場合でも、離婚請求に対して「修復可能性がある」などと主張して、請求棄却を求めることがあります。

 そのような事案の一つで、約4年10月の別居期間を基礎に、判決で離婚を認めた事案があります。判例タイムズ1432号に掲載されたものを、簡単に紹介します。

 なお、判決文中、当事者の表記を、便宜上「妻」、「夫」などとしています。

事案の概要

婚姻時期 H14ころ
別居時期 H23ころ
子について 未成年子1人(妻と同居)
別居期間 高裁口頭弁論終結時で約4年10月
離婚請求の方向 妻→夫
紛争の要因 夫に離婚意思なし
第1審の判断 請求棄却(離婚を認めない)
控訴審(紹介判例)の判断 控訴人用(離婚を認める)
考慮要素 妻の離婚意思が強固

判決要旨抜粋

別居期間の評価について

 本件別居の期間は現在まで4年10か月間余りと長期にわたっており 、別居期間の長さはそれ自体として夫婦の婚姻関係の破綻を基礎づける事情といえる。

婚姻関係の破たん状況について

 別居期間が長期に及んでおり,その間,夫により修復に向けた具体的な働き掛けがあったことがうかがわれない上,妻の離婚意思は強固であり,夫の修復意思が強いものであるとはいい難いことからすると,夫婦の婚姻関係は,既に破綻しており回復の見込みがないと認めるべきであってこの認定判断を左右する事情を認めるに足りる的確な証拠はない。

判決についてのコメント

離婚原因について

 本件では、離婚原因について、いろいろと夫婦間のやり取りなどについて、具体的に主張立証がなされていたようです。とはいえ、長期間の別居の事実以外には、客観的な事情はなかなか立証が難しかったように読めます。原審ではいろいろな事情に関する認定がなされていますが、細かい内容になると、「これに足りる証拠はない」という判断が見られます。メールやLINE、実際の録音などがないと、夫婦間のやり取りを具体的に立証することは非常に困難であり、やむを得ないところと思われます

 このため、控訴審の口頭弁論終結時点での約4年10月の別居期間の評価が、まさに問題になったといえます。

別居期間について

 別居が約4年10月で、これに先立つ同居・婚姻期間が約9年ということになると、直観的には夫婦関係の実質は失われているように思われます。このような事情は、立証の難しい夫婦間の暴力などに比較しても、関係修復の不可能性を雄弁に語っているように思われます。

本判決の実務上の意義

 私が離婚の相談を受ける際に、相手方が離婚に応じる意思が全くない(またはそのような対応が予想される)場合には、以下の助言をすることが多くあります。

  1. とにかく別居すること
  2. 婚姻中の相手方の問題行動に関する客観的証拠があれば、別居までにできるだけ収集しておくこと

 このような対応の重要性がわかる判決のように思われます。

補足

 以下のページも、よろしければご覧ください。

離婚

離婚等に関する裁判例