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死亡慰謝料とは
交通事故の被害に遭って、不幸にも被害者が死亡してしまった場合には、死亡慰謝料が認定されることになります。
不幸にも被害者が死亡してしまったことによる精神的苦痛を金銭評価したもの、ということになります。
死亡慰謝料の金額
被害者の地位による金額の分類
裁判所基準の死亡慰謝料は、被害者の地位により変動することになります。この算定方法は、自賠責保険基準にも似ています。ただし、実際の支払金額は、全く異なることになります。
この一覧表は、以下のとおりです。「一応の目安」とされていますが、裁判となるとこの金額が参照されることが多いものです。
被害者の地位 | 金額 |
一家の支柱 | 28,000,000円 |
母親、配偶者 | 25,000,000円 |
その他 | 20,000,000~25,000,000円 |
「その他」には、独身の男女、子ども、幼児等が含まれます。
民法の規定と一覧表の関係
上記一覧表の金額は、死亡慰謝料の総額であると理解されています。このため、死亡した被害者本人の慰謝料に加えて、民法711条所定の被害者遺族固有の慰謝料も含まれているとされます。
ただし、遺族間の具体的な分配については、裁判所基準では明言されていません。個別事案により遺族の状況がかなり異なり、一般化が難しいためと解されます。
民法第711条(近親者に対する損害の賠償)
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
平成27年版赤い本からの相違点
裁判所基準を記載した「赤い本」の平成28年版から、死亡慰謝料の金額が、一部変更されています。
変更点は、以下のとおりです。
- 母親、配偶者:2,400万円→2,500万円
- その他:2,000~2,200万円→2,000~2,500万円
特に重要な点は、「その他」の変化といえます。この上限額が2,200万円から2,500万円とされたのは、主に若年者の慰謝料評価額につき、2,200万円を越えた認定をする裁判上の傾向があったためとされています。「人生を享受できなかった若年被害者の精神的苦痛」、「核家族化の中で子どもを失った両親の苦痛」といった内容を評価したようです。
実際には、若年者に限らず、被害者の状況や被害者遺族の状況によっては、被害者が「その他」の範疇であっても高額の慰謝料認定がなされうることになったと理解すべきものでしょう。
具体的事例による調整
具体的事例により、上記基準よりも高額な死亡慰謝料の認定を行うことがあります。遺族固有の慰謝料を追加的に認めたり、慰謝料全体の金額を多額に認定したりと、いろいろな方法があります。
事例としては必ずしも多くはありませんが、基準がすべてではない、ということは言えると考えます。
判例紹介・交通事故で両親を失った遺児2名に、各2800万円の慰謝料を認定した事案(東京地裁H7.6.20判決(H4(ワ)17606号)(赤い本掲載判例))
自賠責保険基準との違い
自賠責保険基準での死亡慰謝料算定方法
自賠責保険の死亡慰謝料の算定方法は、以下のとおりです。
自賠責保険基準では、本人慰謝料に、遺族慰謝料を加算して全体の金額を決定します。遺族慰謝料は、請求権者の数などにより変動します。
金額 | 備考 | |
本人慰謝料 | 3,500,000円 | |
遺族慰謝料(請求権者1名) | 5,500,000円 | 被害者の父母、配偶者及び子を請求権者とする |
遺族慰謝料(請求権者2名) | 6,500,000円 | |
遺族慰謝料(請求権者3名以上) | 7,500,000円 | |
追加加算 | 2,000,000円 | 被害者に被扶養者がいる場合 |
自賠責基準の死亡慰謝料は、かなり低額である
上記の表のとおり、自賠責保険基準と裁判所基準では、死亡慰謝料の算定方法が異なります。裁判所基準は「被害者の属性」だけを根拠にまずは一定の金額を決めるのに対し、自賠責保険基準では、被害者遺族の人数により慰謝料を加算するという方式を取ります。
そして、自賠責保険基準の死亡慰謝料は、裁判所基準よりも相当低額です。自賠責保険基準の死亡慰謝料は、「請求権者3名、被害者に被扶養者がいる」という最大値を取った場合でも、1,300万円です。他方、裁判所基準では、前記のような場合の被害者は「一家の支柱」に該当する可能性が高いところ、その場合の慰謝料基準額は2,800万円となり、自賠責保険基準とは1,500万円もの差があります。
自賠責保険には支払限度額がある
死亡事案の場合、自賠責保険の支払限度額は、3,000万円です。被害者が死亡した場合、逸失利益と慰謝料を加算すると、多くの事例で3,000万円を超える損害となります。
このため、結局、自賠責保険から必要充分な賠償を得ることは、できないということになります。
示談前には弁護士に相談すべき
以上説明したとおりの実情については、なかなか一般の方には理解しにくいようにも思われます。とはいえ、適正な死亡慰謝料の請求を行っていくことは、遺族の方の生活を考える上でも、きわめて重要なことです。
特に死亡事案においては、例えば「1割」損害額が違っただけでも、総額では100万円単位で差異が出る可能性もあります。このため、専門家によるチェックが非常に重要といえます。
このため、不幸にも死者が出てしまった交通事故の事案で示談をする前には、必ず弁護士に相談をするべきです。
補足
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