判例紹介・虚偽の供述調書作成と証拠偽造罪の成立に関する判断をした裁判例(最高裁H28.3.31決定)

はじめに

供述調書と証拠偽造罪

 刑法104条では、証拠偽造罪等が規定されています。他人の刑事事件に関して証拠を隠したり、虚偽の証拠を作成したような場合に、処罰されるものです。

第104条(証拠隠滅等)
 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。

 刑事手続では、捜査員に話をして作成された「供述調書」も「証拠」に分類されます。このため、参考人などで虚偽の供述をして調書が作成されたような場合は、すべて証拠偽造罪に問われるようにも思われます。しかし、一般的にはそのようには理解されていません。

 なぜならば、参考人などの虚偽供述について証拠偽造罪の成立を認めてしまうと、証拠偽造罪の成立を恐れるあまり、参考人が取り調べに応じてくれない可能性が高まるなど、真実を探求するに際してデメリットが大きいためです。

紹介する裁判例について

 今回紹介する裁判例は、参考人が虚偽供述を行った事案です。この事案の特殊性は、捜査官である警察官と被告人が相談するなどして、他人の刑事事件をでっち上げるために虚偽供述を行ったというところにあります(判例タイムズ1436号110ページ)。

 判決では、事案の特殊性に鑑み、証拠偽造罪の成立を認めています。他方で、傍論としてではありますが、一般的な参考人の虚偽供述の案件については、それが供述調書の形式となった場合でも証拠偽造罪が成立しないことを明確にしていることも重要といえます。

最高裁第一小法廷H28.3.31決定(H26(あ)1857号事件)

事案の概要

争点 参考人として虚偽供述をした場合に証拠偽造罪が成立するか
最高裁の判断 証拠偽造罪の成立を認める
考慮要素 警察官と共謀して虚偽供述をしている
特記事項 虚偽供述の調書につき原則として証拠偽造罪は成立しない(傍論部分)

決定の要旨

虚偽供述の調書と証拠偽造罪の成立に関する一般論

 他人の刑事事件に関し,被疑者以外の者が捜査機関から参考人として取調べ(刑訴法223条1項)を受けた際,虚偽の供述をしたとしても,刑法104条の証拠を偽造した罪に当たるものではないと解されるところ【中略】,その虚偽の供述内容が供述調書に録取される(刑訴法223条2項,198条3項ないし5項)などして,書面を含む記録媒体上に記録された場合であっても,そのことだけをもって,同罪に当たるということはできない。

本件の特殊性について

 本件において作成された書面は,参考人AのC巡査部長に対する供述調書という形式をとっているものの,その実質は,被告人,A,B警部補及びC巡査部長の4名が,Dの覚せい剤所持という架空の事実に関する令状請求のための証拠を作り出す意図で,各人が相談しながら虚偽の供述内容を創作,具体化させ
て書面にしたものである。

 このように見ると,本件行為は,単に参考人として捜査官に対して虚偽の供述をし,それが供述調書に録取されたという事案とは異なり,作成名義人であるC巡査部長を含む被告人ら4名が共同して虚偽の内容が記載された証拠を新たに作り出したものといえ,刑法104条の証拠を偽造した罪に当たる。

決定に対するコメント

刑法の争点に対する一つの判断となった

 傍論の判断ですが、虚偽供述の調書が作成されたということだけでは、証拠偽造罪は成立しないことが明確にされています。虚偽供述調書の作成と証拠偽造罪の成立についてはいろいろな学説があったところ、裁判所の判断としては、「原則として証拠偽造罪は成立しない」という一つの見解が示されたといえます。教科書に載るような事例であったといえます。

 虚偽の供述をしているのに犯罪にならないのかという疑問はあるかもしれません。とはいえ、刑事手続の性質を考えれば、価値判断としては望ましいものといえます。なお、実際の事例判断としては、「一般論の範疇ではなく、証拠偽造罪の成立を認めた」という評価は、特筆すべきものといえます。「一般論」と「特段の事情」の事例が同時に明らかにされるような事案は、多くはないといえるためです。