判例紹介・検索事業者にプライバシーに関する検索結果の削除請求が認められるための要件を示したもの(最判第三小法廷H29.1.31決定(H28(許)45号))

はじめに

問題の所在

 googleやyahooといった検索エンジンにより、いろいろな情報が取得できます。パソコンやスマートフォンの普及により、このような検索サービスは、私たちの生活の利便性を高めるために、なくてはならない存在になっています。

 しかし、この検索結果の中には、個人のプライバシーに関わるものも多く含まれます。有名人でなくとも、個人名で検索をした場合に、その者の過去の犯罪歴が示されることもあります。

 このような状況は、いわば、「知られたくない過去が永遠に参照されうる」というものです。この事態に際して、検索結果を削除すべき根拠として、「忘れられる権利」などといった主張がなされることもあります。

今回紹介する判例

 過去に児ポ法違反を犯した男性が、自分の名前などを検索エンジンに入力した場合に、その犯罪歴を記載したウェブサイトの情報が示される状況があったところ、検索事業者に対してこの検索結果表示の削除を求めたものです(判例タイムズ1434号、48ページ)。

 決定では、削除請求が認められるための要件を示しています。そして、実際の削除請求については、これを認めませんでした。

本決定文について

 以下のリンクにて、最高裁の本決定を掲載したページを閲覧できます(別ウィンドウが開きます)。関心がある方は、移動先のページから、決定文のpdfファイルをご覧ください。

最高裁ホームページ(H29.1.31決定(H28(許)45号)表示部分)

決定の要旨

検索事業者に対する削除請求が認められるための要件

 検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じその者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度その者の社会的地位や影響力上記記事等の目的や意義上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきものでその結果当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。

削除請求に対する評価

 児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという本件事実は,他人にみだりに知られたくない抗告人のプライバシーに属する事実であるものではあるが,児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており,社会的に強い非難の対象とされ,罰則をもって禁止されていることに照らし,今なお公共の利害に関する事項であるといえる。また,本件検索結果は抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件とした場合の検索結果の一部であることなどからすると,本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる。

結論

 「抗告人が妻子と共に生活し,【中略】罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわれることなどの事情を考慮しても,本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない」

として、裁判官全員一致の判断にて、削除請求を認めなかった。

決定に対するコメント

削除請求が認められるための要件について

 判断要件については、いろいろなことが述べられています。要するに、実際の削除請求が認められるかどうかは、事案ごとに総合判断して決めるということと解されます。何か特定の条件が揃えば即座に削除請求が認められるということではなく、裁判所の裁量の幅は、相応に広いように思われます。

実際の判断について

 検索結果の表示をどのようにするかという判断は、民間企業である検索事業者の事業の要です。そして、検索者の要望にのっとった適正な検索結果の表示がなされることは、ユーザーの利便性に直結しています。

 このような事情もあり、削除請求の認容には、裁判所は慎重な立場と取っているように思われます。この点は、「2ちゃんねる」などの掲示板への名誉棄損的な書き込みに対する裁判所の姿勢とは、違うものと解されます。

今後の判断はどうなるか

 似たような削除請求の事案は、今後も出てくるものと解されます。表示されるURL先が明らかなフェイクニュースであるとか、本人とは関わりない事案に関するものであれば、削除される余地もあるように思われます。とはいえ、そのようなURLであれば、検索事業者の精度向上により、そもそも検索結果に表示されないものとも思われます。

 結局、事例の集積を待つほかないところですが、削除を認めた事案が出てくるかどうかは、個人的にも関心が高いところです。

補足

 以下のページも、よろしければご覧ください。

インターネットをめぐる法律問題

最近の最高裁などの重要判例