はじめに

遺産分割請求事件について

 相続が発生した場合で、相続人間で財産の分配が合意できない場合は、家庭裁判所の手続によりこれを決定すべきことになります。

 裁判所の手続によらず解決できない事案となると、調停でも合意成立が難しいことが多いものです。この場合は、審判により、裁判所に具体的な財産分配の内容を決定してもらうことになります。

相続税申告書について

 遺産分割請求事件が裁判所に係っているような場合、相続人間で不信感が広がっていることがあります。典型的には、相続人の一部が、財産を隠しているのではないかといったものです

 他方、遺産分割の内容が決まらない場合でも、これが長期化する場合には、相続財産が多額であれば、相続税の手当てをする必要があります。この方法にはいろいろなものがありますが、先行して相続税の申告納付をしてしまう、ということがあります

 この場合、税務署には、相続財産の詳細な内容が記載された相続税申告書が提出されているということになります。

今回紹介する裁判例について

 相続人が裁判所で事実に反する主張をしているような場合でも、相続税申告書があれば、真実に近づくことが可能なこともあります。このため、相続人間で不信感がある場合には、相続申告書は、ぜひ見たい資料ということになると思われます。

 この書類を見る方法として、文書提出命令(民事訴訟法223条)が問題になったのが、今回紹介する裁判例です(判例タイムズ1437号120ページ)。

 結論としては、文書の開示を認めていません。結局、この決定が実務的な運用となれば、相続税申告書を作成した相続人が任意の開示に応じなければ、この申告書を強制的に提出させる方法はない、ということになってしまうものです。

事案の概要

争点 相続申告書の開示の可否
原審の判断 相続申告書の一部開示を認めた
高裁の判断 相続申告書の開示を認めなかった
高裁の判断の根拠 民事訴訟法220条4号ロへの該当により非開示とした
考慮要素 強制的な相続税申告書の開示により、税務行政に対する納税者の信頼が損なわれる
特記事項 相続税申告書が遺産分割調停に有用であることは認めている

決定の要旨

相続税申告書を開示することにより生じる不利益の評価

 遺産分割調停事件における共同相続人に対する当該遺産に係る相続税の申告書及びその添付資料であっても,申告者の意に反して当該申告書等を提出することが認められた場合には,税務行政に対する納税者の信頼が損なわれ,納税者の自主性を前提に組み立てられている申告納税方式による国税の適正な徴収の円滑な遂行に著しい支障を生ずることは明らかというべき

とした。

相続税申告書の遺産分割調停事件における有用性の評価

 遺産分割調停事件における相続税申告書及びその添付書類の提出が,被相続人の遺産の全貌を明らかにし,調停手続を円滑かつ迅速に進める上でその必要性が認められ,ひいては適正な遺産分割の実現による紛争の解決に資するところがある

とした。

相続税申告書の開示の可否について

 本件文書のような相続税申告書及びその添付書類,はその記載内容からみて,その提出により公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれの存在することが具体的に認められ,民事訴訟法220条4号ロに該当するというべきである。

決定に対するコメント

相続税申告書の開示の可否について

 提出された相続税申告書を保有している主体は、決定では国であるとさました。そして、国の保有しているこのような書面を提出することで、納税者の自主的な協力に委ねられている申告税制度の信用を損なうものであるという評価を与えています。そして、結論として、民事訴訟法220条4号ロへの該当性を認めています。

 理論的に筋は通っているとは思われます。とはいえ、このような結論となると、自発的な提出が期待できない場合に、相続税申告書を見る方法がなくなってしまいます。

実務での捉え方について

 確定申告書は、文書提出命令による開示を受けられない書面の典型例として理解されているものです。今回の決定は、確定申告書ではなく、遺産分割調停に絡んで相続税申告書の開示を求めた場合も、文書の開示は認められないという判断をしています

 相続財産の全容を知る上で、相続税申告書は極めて有用といえます。相続人間で不信感がある場合にも、この開示がなされることで、無用な感情のやり取りを防ぐことも期待できます。しかし、結論としては、現状では相続税申告書を隠されてしまうと、この取得はできないと考えなければなりません。

 このため、遺産分割が長期化する場合で、まずは相続税の納付をすることに迫られた場合には、この申告手続に関与しておき、きっちりと相続税申告書の写しなどを確保しておかねばなりません。調停などになった時点でこれを持っていない場合には、対立当事者から開示を受けることは不可能という前提で、準備を進める必要があるということです。

参考条文

民事訴訟法223条(文書提出命令等)

第1項  裁判所は、文書提出命令の申立てを理由があると認めるときは、決定で、文書の所持者に対し、その提出を命ずる。この場合において、文書に取り調べる必要がないと認める部分又は提出の義務があると認めることができない部分があるときは、その部分を除いて、提出を命ずることができる。

民事訴訟法220条(文書提出義務)

次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。

4号 前3号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。

ロ 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの

補足

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相続

相続等に関する裁判例

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