日本の民法では、婚姻を成立させるためには婚姻届の提出が必要とされています(民法739条)。このような、婚姻のために必要な届け出を定める方式は、「形式婚主義」といわれるものです。
ただし、当事者に考えや事情があって、形式婚を成立させることをしない、またはできないというケースも存在します。そのような当事者関係を指すときに使用される「内縁」、「事実婚」といった用語や、内縁関係の場合の相続など、法的な扱いについて、解説します。
なお、本記事では、基本的に、当事者については男女のペアを想定しています。このため、内縁当事者などにつき、「男女」、「父母」という表記も使用しています。
目次
内縁・内縁関係とは?
内縁とは、「婚姻届は出していないが、実際に社会で夫婦関係にある」という関係を指します。つまり婚姻の意志があり、共同生活を送る夫婦を指します。婚姻届を出して法律上認められた夫婦が「法律婚」と呼ばれるのに対して、内縁関係(の一部)は「事実婚」と呼ばれることもあります。
事情により婚姻届を提出していないが、交際する男女が婚姻の意志を持って同居し夫婦同然の生活をしている場合を『内縁関係』と呼びます。
このような関係は、形式に乗っ取っていないため、法律上の夫婦と認められることはありません。その結果として、法律婚と比較すると、夫婦に与えられる権利や義務につき、一部限定されるというのが実情です。
内縁と事実婚の違い
「内縁」と「事実婚」は、用語としてはほぼ同じ意味で用いられています。
ただし、歴史的には、「内縁」との用語の方が、先に用いられたものです。明治民法下に、長男長女同士が婚姻を希望したケースや家柄の問題、家督の問題などで結婚が親に認められない場合が多かった時代に、「認められない婚姻」に対する呼称として、「内縁」とされたものです(婚姻の届け出ができない)。
他方で、「事実婚」という用語は、本来的には、「主体的に婚姻届けを提出しない」関係を指す用語とされます(婚姻の届け出をしない)。新たな男女関係を指す言葉とされたもので、用語としての歴史も、「内縁」ほどではありません。
とはいえ、現在では、一般的に、「内縁」と「事実婚」の用語につき、ニュアンスを分けて使用することは、あまりないものと考えます(学問的な線引きは別です)。
参考資料*事実婚の法的保護と内縁保護法理についての一考察(岡山大学)
内縁・事実婚を選ぶ理由
内縁、事実婚を選択する理由には、以下のようなケースが挙げられます。
- 戸籍に囚われず、自由な夫婦の形、家庭の価値観を優先するため
- 名字・姓が変わるのが嫌、面倒だから
- 同性婚が法律で認められていないため
- 浮気・不倫での男女関係であり婚姻届が提出できない(重婚は禁止されているため)
事実婚(内縁)と法律婚の違い
事実婚(内縁)と法律婚では、制度や権利義務につき、異なる点があります。内閣府の資料を基に説明します。
法律婚と異なるもの
内縁関係の相続・財産分与について
配偶者(夫や妻)の相続権は、法律婚では遺言なしに認められます。他方で、事実婚の場合には、遺言や贈与により、はじめて法的な権利が発生するものとなります。事実婚では、遺留分も認められません。
また、内縁関係を解消する際に、財産分与が認められるかという問題もあります。法律婚で離婚する場合であれば、基本的に「婚姻期間中に形成された夫婦共有財産の2分の1」という権利が認められます。
他方で、内縁関係の場合でも、財産分与の請求権は観念できます。夫婦同然の状態で、共に形成した資産があるならば、関係解消の際に金銭的な清算を行う権利があるというのは、自然な発想といえます。
このため、当事者間で合意ができるならば、財産分与の方式での金銭的清算の実施は、もちろん可能です。しかし、この合意ができないとなると、財産分与の具体的な内容を決めることは、容易ではありません。「内縁関係の開始時期」についてなど、いろいろと評価が必要な事項が出てくることからすると、裁判手続が必要なケースも出てくるものといえます。
内縁関係の親権について
子どもの親権については、法律婚では共同親権とされます(民法818条1項)。他方で、内縁・事実婚では、特にこのような規定はありません。原則として、母親が単独親権を行使することとなります。
法律婚と変わらないもの
内縁関係の証明について
上記のとおり、内縁関係であっても、財産分与の請求権は観念できます。また、社会保険の適用も、認められるものです。とはいえ、内縁関係を証明する必要があります。
この点につき、内縁関係の有無が争点となった裁判事案につき、裁判所が重視した要素は、以下のようなものとなります。
・双方に婚姻の意思がある(周りに、妻、夫として紹介している、結婚式を挙げたなど)
・結婚している夫婦と同じように共同生活をしている
具体的には以下のような状況や書類が内縁関係の証明になります。
・住民票の「続柄」に妻(未届)(あるいは夫(未届))と記載されている
・同居者が健康保険証の被扶養者になっている
・賃貸契約書の同居人の続柄に「妻(未届)」「内縁の妻」と記載されている
など
ほかにも、結婚式を挙げた際の写真、式場の書類、周囲(親族や友人)からの認識、給与明細において扶養手当(家族手当)の記載がある、などが内縁関係の証明となりえます。
内縁関係の慰謝料について
内縁関係であるならば、法律上の夫婦と同じく、協力、扶養、生活費分担などの義務が生じる筋合いのものです。このため、正当な理由なく内縁関係を破棄した場合、慰謝料請求権が発生すべきものです。
具体的には、不貞行為、DVなどにより内縁関係が壊れたケースなどで慰謝料が認められるケースがあります。ただし、その相場は100~200万円前後といった状況で、法律婚の事案と比較すると、やや減額されるという印象です。
一方で、慰謝料請求が認められないケースもあります。詳しくは以下で解説しています。
内縁関係は何年から?期間は?
個別の事案によりますが、3年程度の同居生活の継続があると、内縁関係と認定されるケースが多くなるように思われます。ただし、結婚式を挙げるなど内縁が家族、友人に周知の事実となっている場合は、同居期間が短くても内縁関係が認められるケースもあります。
なお、内縁関係の成立が認められたとしても、その関係性の「濃さ」、「薄さ」という評価は、別途行われることになります。これは、法律婚の場合も同様です。
重婚的内縁とは?
重複的内縁とは、すでに法律婚の配偶者のいる人が、他の人とも内縁関係になる場合を指します。
重複的内縁により生じた問題(慰謝料問題、相続など)は、どうしても錯綜することが多いものです。とはいえ、裁判手続の局面では、「内縁関係側の相手を一方的に非とする」というような単純な図式で評価がなされるわけではありません。法律婚が事実上の破綻状態にあるか、実際的な夫婦関係がどちらにあったかなどを判断根拠として、判決等がなされる傾向にあるといえます。
以上、『内縁とは?内縁関係の相続、事実婚との違いなど』でした。内縁をめぐる法律面での疑問やトラブルは、弁護士に相談されることをおすすめします。