志布志事件をめぐる民事事件の判決について

いわゆる志布志事件に関する民事訴訟判決

違法捜査に関する損害賠償請求

 いわゆる志布志事件について、関連する民事裁判につき、裁判所による判断が示されました。判決の内容としては、事件の捜査手法に違法性を認めた上で、県と国に賠償義務を認めています。

 志布志事件といえば、いわゆる「踏み字」に代表される、理性を欠いた前時代的な取調べ手法が社会の耳目を集めました。また、長期の勾留、自白の強要など、取調べの可視化について、「可視化をしないとこのような弊害が発生しうる」という教訓を多く与える事件でした。

取り調べの可視化と志布志事件

 取調べの可視化について、「現実的に今すぐに全面可視化は不可能だ」という実務的な観点からの反論ではなく、「そもそも可視化は望ましくない」という反論をする人もいます。「可視化することで取り調べがしにくくなる」という論法です。しかし、そのような人には、「志布志事件もありましたし」と言えば、それ以上議論を進める余地はないように感じるところです。

 取り調べを密室で行うことのメリットがどの程度のものかは、見えないものです。他方で、志布志事件のような事件が起きてしまうというデメリットは、あまりに大きなものでしょう。

賠償義務と賠償額

 民事裁判で裁判所が権や国に賠償義務を認めたことは、至極もっともであると感じます。

 となると、残る論点のうち主要なものは、損害額の評価であると考えます。判決では、17人に対して、合計で5,980万円の賠償義務を認定したようです。他方、請求額は約3億円だった、とのことです。

 判決の損害評価については、「決して高くはない」と考えるべきところでしょう。「無罪の罪に問われ、捜査機関に追い回され、身柄拘束され、虚偽の自白までさせられた」という「損害」は、本来は金銭で償うことはできないものです。それを何とか金銭評価するわけですから、相当な高額とされるべきもののハズです。

 上記の金額が、その要件を満たしていると言い切ることは、できないように思います。報道などではまた、志布志事件について言及されることもあるのでしょうが、「損害額」についても踏み込んで論評してもらいたいように感じるところです。