目次
東京弁護士会の懲戒判断
懲戒処分の内容
平成29年10月11日に、弁護士法人であるアディーレ法律事務所とその代表弁護士に対して、懲戒処分がありました。この内容は、法人を2か月の業務停止とし、代表弁護士を3月の業務停止とする、というものでした。
結果、法人としてのアディーレ法律事務所は、2か月の間、業務を行うことができなくなりました。この件について、以下では、弁護士の懲戒制度に関する説明などを行います。
本記事について
アディーレ法律事務所側は、今回の業務停止処分が不服であるとして、日弁連に対して審査請求をしているとのことです。
本記事では、懲戒処分の軽重に関する言及は行いません。ただし、一つだけ補助線を挙げると、弁護士としては前代未聞である、消費者庁からの措置命令を受けたという事実が利いたようにも解されるところです。
懲戒制度のまとめ
弁護士会による懲戒判断について
弁護士や弁護士法人に非行があったといった場合に、各弁護士会は、懲戒の請求を受け付けています。この請求については、事件関係者のみならず、誰でも行うことができます。
調査などの結果、懲戒請求を受けた弁護士や弁護士法人には、所属する弁護士会から懲戒処分がなされます。
この処分には、以下のような種類があります。なお、戒告が一番軽く、除名が最も重い処分となります。
処分の種類 | 概略 |
戒告 | 弁護士に反省を求め、戒める処分 |
業務停止 | 一定期間(2年以内)の弁護士業務の禁止 |
退会命令 | 当該弁護士会から退会、ただし弁護士資格は失わない |
除名 | 当該弁護士会から除名、3年間は弁護士となる資格も失う |
一般論として、弁護士が事件処理を年単位で放置するなどして怠ると、戒告処分が出ることがあります。
他方で、業務停止以上処分のが出ることは、まれといえます。これは、業務停止以上の処分となると、弁護士業務に与える影響が、極めて大きいという事情もあると解されます。
業務停止処分とは
業務停止処分が出ると、2年以内の期間で設定された期間中、弁護士業務が禁止されます。この期間中は、「一切の」弁護士業務を行うことができません。
アディーレ法律事務所の場合であれば、「2か月何もしなければよいだけ」と考えれば、一見大したことのない処分にも見えます。しかし、長期間にわたり事件を扱うことが多い弁護士にとっては、短期間の業務停止であっても、業務には大きな打撃となります。
具体的にどのような制約がなされるかにつき、以下のリンク先から閲覧できる基準より抜粋して記載します(以下では、「基準1」と略称します)。
被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準(日本弁護士連合会)
具体的な事件の扱い
受任している事件のすべてにつき、委任契約の解除が必要になります(基準1第2第1号)。
裁判になっている事案については、辞任届を提出するなどの対応が必要になります(業務停止が1月以内の場合には例外あり)。
なお、懲戒を受けた弁護士は、裁判所に期日変更を申請することもできません(基準1第2第3号)。裁判所の関係で期日変更などが必要な場合には、依頼者本人なり、新たな代理人弁護士なりに行ってもらう必要があります。
顧問契約の扱い
法人などの依頼者との顧問契約は、すべて解除する必要があります(基準1第2第2号)。
預かり金の扱い
業務に関連する預り金は、委任契約の解除に伴い、返金する必要があります。
アディーレ法律事務所のように、債務整理を主に行う事務所の場合、この預り金の返還は、膨大な事務手続になる可能性があります。
事務所の使用など
懲戒を受けた弁護士は、原則として、事務所の使用ができなくなります。新たな弁護士への引継ぎなどのために必要な範囲でしか使用できません(基準1第2第9号)。
事務所の看板も、原則として外す必要があります(基準1第2第10号)。
さらに、弁護士バッチについても、日弁連に返還しなければなりません(基準1第2第12号)。
公職などの扱い
弁護士会などの推薦で就任している公職については、すべて辞任する必要があります。
また、裁判所から選任を受ける破産管財人なども辞任する必要があります(基準1第2第14号)。
宣伝活動の扱い
宣伝活動は、業務に関わることですので、当然、すべてできなくなります。テレビCMはもちろん、インターネットのサイトも閲覧できない状態にする必要があります。
アディーレ法律事務所の場合、現在、検索結果には各種の表示がされるものの、サイト本体にアクセスすることはできない状況です。
なお、「google map」で検索すると、アディーレ法律事務所がある場所は、「no name」となります。これは、宣伝活動ができないからというよりは、「事務所の看板を出せない」という規制に従ったというべきものでしょう。
弁護士法人が業務停止処分を受けた場合
今回の場合、「弁護士法人アディーレ法律事務所」という、法人が懲戒処分を受けています。この場合、個人としての弁護士が懲戒を受ける場合とは、若干扱いが変わります。
この具体的な制約の内容については、以下のリンク先から閲覧できる基準にて確認できます(以下では、「基準2」と略称します)。
弁護士法人の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会の採るべき措置に関する基準(日本弁護士連合会)
支店の扱い
弁護士法人は、あたかも個人のように、どこかの弁護士会に所属することになります。アディーレ法律事務所の場合は、東京弁護士会に所属していました。このため、法人も懲戒請求を受けうるという扱いになります。
他方、弁護士法人の場合、支店を持つことができます。アディーレ法律事務所の場合、この支店が日本全国にあるという状況です。
弁護士法人が業務停止処分が相当であると決めた場合、一つの弁護士会の判断であるとはいえ、その効果は、全国の支店に及ぶことになります。そして、事務所社員の弁護士としては、「アディーレ法律事務所」の名前で受任した事件については、扱えないということになります(基準2第2第1項1号)。
今後の対策などについて
社員弁護士個人による受任対応
弁護士法人の社員につき、法人とは関わりなく、個人で受任していた事案については、引き続き業務を行うことができます(基準2第2第1項9号)。
他方で、弁護士法人の社員は、原則として、弁護士法人が解除した法律事件を個人として引き継ぐことはできません。ただし、社員の不当な働きかけがない状況で、依頼者が真に受任を求める場合には、社員弁護士が「個人として」事件を受任することが許されます(基準2第2第1項9号)。
このような対応により、弁護士法人から事件を切り離しつつ、同じ弁護士に事件対応を継続してもらうという方法がありえます。
別の代理人による対応
弁護士法人や弁護士に対する信頼関係が維持できないという場合には、他の弁護士に依頼することも検討すべき、ということになります。
そして、事案によっては、緊急の対応が必要となるものもあります。今回の事案は影響が大きいことも懸念されるため、東京弁護士会による相談窓口も用意されています。
他方、東京以外の支店で事件を依頼している方については、その地域の弁護士会に相談すれば、相談会への誘導など、それなりの対応が受けられるものと解されます。
他の裏技はないと考えるべき
上記2つ以外の対応については、まず想定されません。なお、弁護士に対する懲戒理由の中で比較的多いのが、「業務停止期間中に業務を行ってしまった違反」です。そのような事態となれば、今回の件に照らせば、業務停止2か月では済まない、再度の重い処分となることが明白です。
よって、今回の事案に社会的耳目が集まっていることや、アディーレ法律事務所の規模に照らせば、「こっそり法人に引き続き業務を依頼する」といった「裏技」は、使いようがありません。
今回の件で影響を受ける、弁護士対応が必要な案件を抱えている方は、早期に対策を検討すべきです。