裁判所基準の損害賠償算定(入通院慰謝料)

入通院慰謝料・頚椎捻挫及び腰椎捻挫の場合

むち打ち症の多くの場合は別表Ⅱを使う

 交通事故による被害で最も多いものは、むち打ちで症他覚的所見がないものです。この場合は、傷害慰謝料を算定する際に、「赤い本」という書籍の「別表Ⅱ」という図表を使用します。

別表Ⅱの内容

 別表Ⅱの内容(一部抜粋)は、以下のとおりです。

通院\入院 0月 1月 2月
0月   35 66
1月 19 52 83
2月 36 69 97
3月 53 83 109
4月 67 95 119
5月 79 105 127
6月 89 113 133 
7月 97 119 139
8月 103 125 143 

別表Ⅱの使い方

根拠となる数値の算出

 以下のデータを参考に、慰謝料の根拠となる数値を算定します(以下では、これを「治療日数」とします)。この治療日数を別表Ⅱに当てはめることで、具体的な慰謝料額を算定します。

 ちなみに、この計算方法は平成28年の基準変更後の内容を、当事務所なりに解釈したものです。このため、保険会社の担当者によってはピンとこないかもしれません。とはいえ、解釈としては正当な内容と認識しているところです。

  1. 通院が概ね6か月以下の場合には、「通院期間」を治療日数とする
  2. 通院期間が6か月を超えるような場合には、「通院期間」と「通院日数×3」の数値のうち、低い方を治療日数とする
  3. 2の場合で、数値が180以下の場合は、180を治療日数とする

別表Ⅱへのあてはめ

 治療日数と入院日数をもとに、図の該当箇所に当てはめて数値を算定します。

 例えば、入院1か月、治療日数120日(4か月)の場合は、「入院0月」と「通院4月」が表で交差する数値となります。このため、具体的な慰謝料は、67万円となります。

入通院慰謝料・重症の事案の場合

骨折などを伴う重症事案の場合は別表Ⅰを使う

 骨折など、「他覚的所見がある症状」の場合は、慰謝料の算定では、別表Ⅰというものが使用されます。重症の事案と表現してもよいでしょう

 別表Ⅰの場合は、別表Ⅱと比較して、概ね10万円単位で高額な慰謝料が算定されます。

別表Ⅰの内容

 別表Ⅰの内容(一部抜粋)は、以下のとおりです。

通院\入院 0月 1月 2月
0月   53 101
1月 28 77 122
2月 52 98 139
3月 73 115 154
4月 90 130 165
5月 105 141 173
6月 116 149 181
7月 124 157 188
8月 132 164 194

別表Ⅰの使い方

 別表Ⅱの説明と同様に、慰謝料の根拠となる数値を「治療日数」として、説明します。なお、治療日数の算定方法は基本的に別表Ⅱと同じですが、微妙に異なります。

  1. 通院が概ね6か月以下の場合には、「通院期間」を治療日数とする
  2. 通院期間が6か月を超えるような場合には、「通院期間」と「通院日数×3.5」の数値のうち、低い方を治療日数とする
  3. 2の場合で、数値が180以下の場合は、180を治療日数とする

別表Ⅰへのあてはめ

 治療日数と入院日数をもとに、図の該当箇所に当てはめて数値を算定します。

 例えば、別表Ⅱの事例と同様に、入院1か月、治療日数120日(4か月)の場合を考えると、慰謝料は90万円となります。別表Ⅱと比較すると、23万円高額に算定されます。

別表Ⅱ及び別表Ⅰの詳細について

 別表Ⅱ及び別表Ⅰについては、実際には入院15月、通院15月までの表があります。やや分量が多くなってしまうため、以下の別記事で、入院10月、通院15月の場合の表を記載してあります。よろしければご参照ください。

 なお、入院が10月までになっているのは、スペースの都合によります。実際にも、入院10月を超える案件は少ないため、ほぼすべての事例をカバーできると思われます。

裁判所基準の慰謝料算定に用いられる表について

自賠責保険基準との相違

自賠責保険基準<裁判所基準

 自賠責保険の基準と裁判所の基準を比較すると、原則として、裁判所基準の賠償額の方が、10万円単位で大きな金額が出ます。 別表Ⅱの場合であっても、算定結果は常に自賠責保険基準の金額を上回ると考えて、まず間違いありません。

 具体的な事例で考えてみると、概ね以下のとおりとなります。

事例1  通院日数 通院期間 治療日数 慰謝料 備考
自賠責基準 50(入院0) 120 100 100×4,200=420,000 50×2<120 
別表Ⅱ事案 50(入院0) 120 120 670,000 50×3>120
別表Ⅰ事案 50(入院0) 120 120 900,000 50×3.5>120
事例1  入院日数 通院日数 通院期間 治療日数 慰謝料 備考
自賠責基準 30 60 200 180 180×4,200=756,000 (30+60)×2<200 
別表Ⅱ事案 30 60 200 180 1,130,000(入院1月,通院6月) 60×3<180
別表Ⅰ事案 30 60 200 200 1,550,000(入院1月,通院6.7月) 60×3.5>200

示談前には弁護士に相談して、適正な慰謝料かどうかを確認すべき

 上記の表で明らかなとおり、慰謝料でどのような基準を用いるかにより、金額には大きな差が出ます。また、後遺障害が出ないような事案では、慰謝料が損害額の大部分を占めることが多いものです

 このため、交通事故の損害賠償について示談する前には、裁判所基準を反映した適正な慰謝料かどうか、しっかりと確認することが重要です。実際には、弁護士が入らない示談段階では、自賠責保険基準の金額提示しかなされないことも多いものです。このため、示談前には弁護士に相談し、適正な慰謝料を求めていくべきです。

 この時に、弁護士費用特約があれば、弁護士費用を全額保険金で支払ってもらったうえで、裁判所基準による慰謝料(自賠責基準から10万円単位での増額)を実現することも可能となります。仮に弁護士費用特約がない場合でも、上記の表のとおり、「弁護士費用を考慮しても、慰謝料が増額したため最終的には経済的に得になった」というケースも、多々あります。

 示談金額に直結する重要なところですので、ぜひ参考にしていただきたいです。

弁護士費用特約とはどのようなものか

補足

 以下のページも、よろしければご覧ください。

交通事故

損害賠償の裁判所基準について