目次
自賠責保険の概要
自賠責保険とは
自賠責保険は、強制保険ともいわれます。車検の際には必ず加入することとされ、事故の被害者に最低限の補償を行うものです。
以下では、交通事故によって被害者が死亡してしまった場合の、自賠責保険による賠償基準について説明します。
自賠責保険の基準(死亡事故の場合)
葬儀費用
原則として60万円とされます。ただし、立証資料などで60万円を越えることが明らかな場合は、100万円を限度に支払いがなされます。
逸失利益
原則的な算定方法
「死亡時の年齢に対応したライプニッツ係数」×「年間所得」×(1-生活費控除率)」により算定します。
なお、年間所得の算定のための場合分けが多く、複雑になっています。関係ない事案の箇所は、読み飛ばしてもらった方がわかりやすいと思われます。
ライプニッツ係数
ライプニッツ係数とは、将来受け取ったであろう金額を現在の価値に算定するために、法定利率により割引計算するための係数です。年齢と1対1で対応するものです。わかりにくければ、就労可能年数の代わりに掛け合わせる数値と捉えてもらえば、間違いないでしょう。
後遺障害のケースと同様の一覧表が用いられますが、高齢者で年金収入があるような場合には、年金部分を加算するために、別途の算定方法が取られます。図表が多く、非常にわかりにくくなるため、別の記事で図表群をまとめることとします。
なお、後遺障害の場合に用いられる図表は、以下の記事にて参照してください(別ウィンドウが開きます)。
年間所得(年金等の受給がない場合)
有職者の場合
原則として、事故1年前の所得を基礎とします。ただし、年間所得の算定方法には、もう少し複雑な決定ルールがあります。これは、若年者の所得が低額に算定されることを避ける趣旨と、給与の証明ができない人について年間所得を決める趣旨によるものです。この内容は、以下のとおりです。
- 35歳未満で事故前年の所得の証明が可能な場合→「事故前年の所得」、「全年齢平均給与(別表Ⅲ)」、「年齢別平均給与(別表Ⅳ)」の最も高い金額
- 35歳未満で事故前年の所得の証明が不可能な場合→「全年齢平均給与(別表Ⅲ)」、「年齢別平均給与(別表Ⅳ)」の高い金額
- 35歳以上の者で事故前年の所得の証明が不可能な場合→「年齢別平均給与(別表Ⅳ)」
- 35歳以上の者で事故前年の所得の証明が可能な場合(原則)→「事故前年の所得」と「年齢別平均給与(別表Ⅳ)」の高い金額
- 退職後1年を経過していない失業者→「事故前年の所得」を「退職前1年間の収入額」に読み替えて、上記基準を準用する
幼児・児童・生徒・学生・家事従事者の場合
年間所得につき、「全年齢平均給与(別表Ⅲ)」の年額換算額によって算定します。この数値に労働能力喪失率とライプニッツ係数を掛け合わせる計算方法は、同じです。
なお、58歳以上の者で、「年齢別平均給与(別表Ⅳ)」が「全年齢平均給与(別表Ⅲ)」を下回る場合には、「年齢別平均給与(別表Ⅳ)」の金額となります(低い方の金額ということになります)。
その他働く意思と能力を有する者
年間所得につき、「年齢別平均給与(別表Ⅳ)」の年額換算額によって算定します。ただし、「全年齢平均給与(別表Ⅲ)」の年額換算額が上限となります。
年間所得(年金等の受給がある場合)
原則的な計算方法
事故前年の所得(「a1」とします)と年金額(「a2」とします)を合算して年間所得とし(これを「A」とします)、就労可能年数までは就労可能年数のライプニッツ係数(別表Ⅱ-1)と「A」を掛け合わせて逸失利益を算出します(就労+年金が双方ある時期の逸失利益)。
この金額に、年金額(「a2」)につき、就労終了年次から平均余命までの年数に対応するライプニッツ係数を掛け合わせ、就労終了後の、年金相当額部分のみの逸失利益を算定します(これを「B」とします)。なお、就労終了年次から平均余命までのライプニッツ係数は、死亡時の年齢に対応する「別表Ⅱ-2」のライプニッツ係数から「別表Ⅱ-1」のライプニッツ係数を差し引くことで算定します。
AとBを合算することで、「就労終了までの収入+年金」部分の逸失利益と、「就労終了から死亡までの年金部分」の逸失利益の合計額が求められることになります。
なお、年金は、受給権者本人による拠出性がある年金が加算の対象となります。無拠出性の福祉年金や遺族年金は、加算の対象になりません。
有職者の場合
上記「a1」と「a2」を合算した金額(A)と、被害者死亡時の年齢別平均給与額(別表Ⅳ)の年額換算額(「A´」とします)を比較して、高い方を年間所得とします。
被害者が35歳未満の場合は、全年齢平均給与額(別表Ⅲ)の年額換算額(「A´´」とします)とも比較して、高いものを年間所得とします。
結果として、被害者の年齢と所得実額により、「就労終了までの収入+年金」の値につき、「A」を用いるか、「A´」を用いるか、「A´´」を用いるかが変わってきます。
幼児・児童・生徒・学生・家事従事者の場合
年金額(a2)と全年齢平均給与額(別表Ⅲ)の年額換算額(A´´)のうち、高い方を年間所得とします。
被害者が58歳以上の者で年齢別平均給与(別表Ⅳ)が全年齢平均給与(別表Ⅲ)を下回る場合は、年齢別平均給与額の年額換算額(A´)と年金等の額(a2)のうち、いずれか高い額を年間所得とします。
その他働く意思と能力を有する者
年金等の額(a2)と年齢別平均給与額の年相当額(A´)のいずれか高い額とします。ただし、年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を上回る場合は、全年齢平均給与額の年額換算額(A´´)と年金等の額(a2)といずれか高い額を年間所得とします。
生活費控除率
被害者が死亡した場合は、その先の生活費が必要なくなったものと理解されます。このため、賠償額のうち、生活費の占める割合について減額されます。この割合は以下のとおり、子どもや配偶者といった被扶養者の有無により、形式的に定められることが多いものです。
- 被扶養者がいる場合:35%
- 被扶養者がいない場合:50%
死亡慰謝料
本人の慰謝料
350万円とされます。
遺族の慰謝料
まずは、請求権者を確定する必要があります。この請求権者には、以下の者が含まれます。
ただし、必ずしも被害者の相続人と一致しないことに注意が必要です。例えば、被害者に父母がいて、配偶者と子どもがいるという場合には、被害者の相続人は配偶者と子どもだけですが、自賠責保険の慰謝料の算定時には、被害者の父母も請求権者に含まれます。
- 被害者の父母(養父母を含む)
- 配偶者
- 子(養子、認知した子及び胎児を含む)
次に、請求権者の人数により、慰謝料額が変わります。
- 請求権者1名:550万円
- 請求権者2名:650万円
- 請求権者3名以上:750万円
さらに、被害者に子どもや配偶者などの被扶養者がいる場合には、上記の金額に200万円を加算します。
具体的な算定例
具体例の設定
配偶者と子どもが2名いる夫が交通事故で死亡してしまった事案を考えます。なお、夫の両親は存命中でした。また、夫の年齢は40歳で、前年の所得は700万円であり、妻と子を扶養していたものとします。
損害額の算定
傷害部分を除いた、死亡に関する損害賠償額は、自賠責保険によると、以下のとおりとなります。
- 葬儀費用:60万円
- 死亡逸失利益:66,625,650円(14.643(ライプニッツ係数)×7000000×(1-0.35)による算定)
- 死亡慰謝料:950万円(請求権者3名以上、被扶養者ありのため、750万円+200万円となる)
- 合計:76,725,650円
支払限度額
自賠責保険では、限度額の設定があります。死亡事故については、3,000万円が限度額とされます。上記事案では、限度額の2倍以上の損害額となっているため、結局、自賠責保険からの支払額は、3,000万円となります。
死亡事故の事案では、限度額を越えるケースが多い
上記のとおり、死亡事案となると、逸失利益が高額になることが多いものです。このため、死亡事案となれば、支払限度額の3,000万円は超えることが非常に多いものです。そもそも、自賠責保険基準は低額であるため、裁判所基準の賠償には全く足りません。裁判所基準での賠償になった場合でもしっかりと対応できるように、任意保険にも加入しておくべきです。
その他の自賠責保険基準について
自賠責保険のその他の基準は、以下のとおりです。
補足
以下のページも、よろしければご覧ください。