判例紹介・私立学校進学や支払義務者の再婚及び養子縁組の事情を考慮して養育費を算定した事案(大阪高裁H28.10.13決定)

はじめに

養育費の算定方法

 調停や審判など、養育費を家庭裁判所で決める場合には、原則として元夫婦の所得額を基準にします。この所得額につき、いわゆる「算定表」と呼ばれる表に当てはめて、概算である程度機械的に金額を出します

 この算定表には、根拠となる数式が存在します。子どもの数や年齢を参照して、数式に当てはめることで、一応決まった金額が算出されます。

 なお、以下のリンク先から、裁判所の開示している算定表のpdfファイルのリンクページに移動できます(別ウィンドウが開きます)。

養育費・婚姻費用算定表

算定表では対応しきれない事例

 算定表は、一般的な家庭の支出状況をもとに、養育費の金額が定められています。ここには子どもの学費も含まれますが、「公立学校の学費相当額」とされています。このため、子どもが私立学校に進学して、養育費支払義務者もこの進学を容認しているような場合には、より高額の養育費が相当ということになります。

 他にも、算定表だけでは対応しきれないという事例が存在します。その場合には、具体的な金額で当事者が合意できないとなれば、算定表は使えません。算定表の根拠となっている数式に戻り、各種数値を当てはめて、事例ごとの養育費を算出するという作業が必要になります。

紹介する裁判例について

 今回紹介する裁判例は、子どもが私立高校に進学し、その学費の取り扱いが争われたものです(判例タイムズ1437号108ページ)。

 具体的な養育費を算定するために、私立高校の学費の状況や、子どもが入寮していることから家計の食費等を減額して算定するなどして、実際の生活実態を反映しようとした状況がうかがえます。

 さらに、支払義務者が再婚して再婚相手の連れ子を養子縁組した事情も考慮されたため、原審と比較すると、養育費は相当程度減額することとなりました(原審時点では再婚していなかった)。

事案の概要

争点 養育費の金額
高裁の判断 月額48,000円の支払い、など
原審の判断 月額97,000円の支払い、など
考慮要素 私立学校進学による学費増加を考慮(増額事由)
考慮要素2 入寮による食費等の負担減を考慮(減額事由)
考慮要素3 支払義務者が再婚し、再婚相手の連れ子を養子縁組した(減額事由)
特記事項 原審時点では支払義務者は再婚していなかった

決定の要旨

私立学校の学費の評価

 未成年者は,平成28年4月,私立高校に進学した。その学費及び入学金については免除されているものの,寮費等に年間約85万5600円がかかる。相手方は,未成年者が同校に進学することに同意しているのであるから,学費及び入学金が免除されていることも考慮して,算定表において考慮されている公立高校の学校教育費相当額33万3844円を超過する52万1756円については,申立人と相手方とで,基礎収入に応じて按分して負担するのが相当である。

私立学校進学で入寮することに伴う生活費の評価

 未成年者は上記進学に伴い入寮し,上記学費の相当部分が食費光熱費を含む寮費に充てられるところ(【証拠略】),上記入寮の限度で相手方は食費及び光熱費の負担が軽減することが認められる。【中略】食費につき上記4万5677円の約6割に当たる月額2万7000円が軽減され,光熱費につき上記世帯人数2人の生活扶助基準額と同1人の額の差の約4分の1に当たる月額1000円が軽減されると認められる。したがって,この月額合計2万8000円を養育費から控除すべきものである。

再婚及び再婚相手の連れ子の養子縁組についての評価

 抗告人(養育費の支払義務者)は,平成28年7月○日,Dと婚姻し,同日,同女の長男(16歳)と養子縁組を行い,上記長男に対する扶養義務を負担するに至った。これを前提として抗告人の未成年者に対する養育費の額を標準的算定方式により算定すると,月額4万4000円程度となる。  

決定に対するコメント

養育費の決定方法について

 本件の養育費の決定方法は、四角四面に算定表にとらわれるわけでもなく、当事者の従前のやり取りや、生活実態をしっかりと反映しようとする意思が感じられるものです。結論としては、認められた養育費の金額は、原審からはかなり減額されたものとなりました。

 請求内容に照らすと、当事者双方につき、受け入れられなかった主張があったことがうかがわれます。とはいえ、判断の枠組みや決定金額は、それなりの妥当性を有する内容といえると考えます。

適正な養育費算定のために求められること

 原審から養育費が相当程度減額された判断に至った理由としては、原審から抗告審に至るまでに、支払義務者側に再婚や連れ子の養子縁組といった事情があったことも大きなものです。原審時点では再婚が現実化していなかったため考慮されませんでしたが、現実に再婚した以上、この事情が全く考慮されないと、支払義務者は2人の養育義務を満足に果たせないおそれもありました。

 このような判断に照らすに、養育費の減額に繋がる事情(本件であれば再婚及び連れ子の養子縁組)が予定されているのであれば、速やかに行うべき、ということになります。

 また、仮に私立学校への進学が経済的に厳しいのであれば、そのような意思表示をしっかりと行っておくことも、重要といえるでしょう。

補足

 以下のページも、よろしければご覧ください。

離婚

離婚等に関する裁判例