家庭内別居とは?夫の気持ち、妻の気持ち

家庭内別居とは?

 『家庭内別居』という用語は、「一緒には暮らしているが、夫婦関係が不和などの事情により、共同生活を送っているとはいえない夫婦関係」を指すものです。法律用語ではないため、具体的な定義があるわけではありません。言葉からおおよそのイメージが湧きやすい表現である一方で、どうしても主観的な要素が多く含まれます。このため、人によってイメージにばらつきが生じやすい表現ともいえます。

 実務的には、主に離婚をめぐる事案で、「夫婦関係が破綻していたかどうか」ということを検討するうえで、考慮されることがある事情です。ただし、上記のとおり、どうしても主観的な要素が多く含まれることに、注意が必要です。

家庭内別居という主張でしばしば掲げられる事例

 「家庭内別居である」という主張がなされる場合に、具体的な事情として挙げられる事例としては、以下のようなものがあります。

  • 夫婦の会話がほとんどない
  • 夫婦でお互いのご飯を作らない、ご飯のタイミングが長年別である
  • 家の中でほぼ毎日、顔を合わせることがない
  • 寝室が別になっている

家庭内別居のその後、ありうる3つの選択肢について

 夫婦が「家庭内別居である」と考えているような生活状況となると、その後は、以下の3つのケースに分かれていくことが一般的です。

家庭内別居のまま婚姻生活を継続する

 家庭内別居をそのまま続けるケースです。少なくとも夫婦の一方は別居したいと考えていたとしても、これがなかなか難しいケースもあります。生活費や居住環境のほか、子どもの養育など現実的な事情の調整が困難なことは、しばしばあるといえます。

 家庭内別居が、あまり状態が変わらないまま長期間継続するケースもあります。他方で、一定期間の家庭内別居の後に、以下の2つに分岐する可能性もあります。

家庭内別居を解消

 家庭内別居状態にある夫婦が、話し合いなどにより、これを解消することがあります。あるいは、夫婦を取り巻く環境の変化(仕事、子育て、親類関係など)により、家庭内別居が解消される場合があります。

 どうなったら「家庭内別居の解消」というのかは、関係性の濃淡はみえにくいものであるため、なかなか難しいものです。いずれにせよ、当事者である夫婦が「家庭内別居状態ではない」と認識したということであれば、一般的な同居状態の家族になったという評価になるといえます。

別居や離婚へ

 家庭内別居を経て、実際に夫婦が別居するということも、多くあります。そうなると、夫婦関係は解消(離婚)する方向に進むことが多いといえます。

 これについては次項で説明します。

家庭内別居と離婚・離婚率について

 ある調査では、「家庭内別居」をした後の離婚率につき、83%とされています。

ノマドマーケティング株式会社のプレスリリース(2021年10月9日 10時30分)家庭内別居の割合って!?「きっかけ」「期間」「男性・女性の心理」「離婚率」につ…
prtimes.jp
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000034.000059676.html

 「家庭内別居」は、主観的な要素を多く含みます。このため、そもそもの「家庭内別居をした」という認識についても、夫婦それぞれの考え方に影響を大きく受けるものです。よって、ある夫婦にとっては家庭内別居と捉えられる事情でも、他の夫婦にはそうではない(例えば、「些細な夫婦喧嘩に過ぎない」と評価される)ということも、あるというべきです。このような事情を踏まえて、アンケートの結果を評価する必要があるといえます。

 とはいえ、ある夫婦が「家庭内別居だ」と認識したということは、「夫婦関係が破たんするリスクを抱えている状態である」といえます。家庭内別居が長期間継続して、夫婦関係の再建がもはや不可能(離婚が避けられない)となれば、具体的に離婚手続を検討すべき局面もでてきます。その際には、円滑に手続きを進めるために弁護士に相談することも必要になってくるでしょう。

 一方で、家庭内別居状態になって間もないケースなどは、それに至った原因や現在の状況を整理して、お互いの気持ちを確認できる機会を設けるべきともいえます。家庭内別居を解消できる道を模索することも、必要かもしれません。

離婚裁判における「家庭内別居」の位置づけ

 裁判所で離婚について争われる場合における「家庭内別居」の位置づけは、はっきりしていません。

離婚成立には「協議」→不合意なら「調停」→不成立なら「裁判」という流れがあります

 もちろん、家庭内別居を理由に、離婚に向けた話し合いの場(裁判所を利用するのであれば、離婚調停(夫婦関係調整調停)が一般的といえます)を持つことはできます。例えば調停の場であれば、どのような話し合いをすることも自由なためです。話し合いの結果、家庭内別居を主な理由として、離婚が成立したという事案も、あるでしょう。

 一方で、調停で離婚に合意できず、離婚訴訟となった場合には、「家庭内別居」のみを理由に離婚が認められることは、一般には少ないといえます。実際の別居期間が3〜5年と積み上がってくると、「夫婦関係の再建の可能性がない」ということで、離婚判決が出される可能性が高まります。他方で、同じような期間の「家庭内別居」があったとしても、離婚判決を得られるとは言い切れません。

 これは、やはり「家庭内別居」とひとくちに言っても、実際の居住状況は多岐にわたるためといえます。また、夫婦間の交流があまりないにせよ、同居しているのであればこれが完全にゼロとは言えないことが通常です。そうなると、実際に居住場所が異なっている別居と、家庭内別居を同列に扱うことは、困難といわねばならないということです。

(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

民法第770条, https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089#Mp-Pa_4-Ch_2-Se_4-Ss_2

 民法770条では、裁判で離婚が認められるための「離婚原因」が規定されています。配偶者の不貞行為(要するに浮気のこと、770条1項1号)などです。

 ただし、770条1項1号から4号までに挙げられている離婚原因は、かなり限定的です。実務上は、1号以外の2~4号については、あまり見かけることもありません。

 裁判例では、「暴力・DV」、「性格の不一致」、「金銭感覚があわない」、「親及び親族との関係があわない」「一方の配偶者が犯罪をしている」「夫婦の宗教観の違い」「性の不一致」といった事情でも、離婚成立を認めたケースがあります。そのような場合は、1項5号の、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するとされます。

 家庭内別居については、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」の一つの具体的な事情として主張されるべきものです。「夫婦間で性格の不一致がある。本当は別居したいが、経済的な事情もあり家庭内別居状態にとどまっている。性格の不一致は修復が難しく、家庭内での接点は全くない。」といったようなものです。

 ただし、同居はしていますので、LINEなどのやり取りを示すなどして、「家庭内別居の実質はどのようなものか」ということを示していく必要があります。その結果として、全体として「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」の立証に成功すれば、離婚判決を得られる可能性も出てきます。

家庭内別居と子ども

 一般論として、同居している夫婦仲がよくないとなると、子どもに精神的負担がかかるといえます。多感な時期の子どもが、例えば夫婦喧嘩をしばしば目撃するとなると、気持ちの整理が難しいこともあるでしょう。

 ならば別居すればよいのかというと、そう単純ではありません。「どちらの親と一緒に別居するか」というのは、その後に親権争いが生じた場合には、極めて重い判断となります。こじれた夫婦関係で、子どものことで冷静な話し合いができるかというと、それが難しいケースもあるでしょう。

 どのような選択になるにせよ、子どもの福祉に配慮した対応が求められるといえます。なお、実際に別居した後には、子どもと同居していない親が子どもに会いたいという場合には、「面会交流」という手続を進めていくということになります。