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非免責債権とは
破産手続によっても免除されない債権、非免責債権
破産手続が進むと、債務の支払い責任を免除(免責)するかどうかの判断がなされます。破産手続をしても、免責が認められないと、債務の支払責任が残ってしまうため、免責が認められるか否かは、非常に重要なポイントです。
ただし、破産者に著しい浪費があるなど、著しく「不誠実な破産者」であるといった事情がなければ、原則として免責は許可されるものです。よって、免責許可の当否が激しく争われる事案というのは、多くないというのが実情です。
この免責許可の扱いとは別に、債権の性質により、そもそも免責の対象とならないものがあります。税金などが典型です。
このような種類の債権を、「非免責債権」といいます。言葉は似ていますが、考え方が全く違うものです。
免責不許可事由と非免責債権
破産者が免責不許可事由に該当する場合には、すべての債務につき、支払い責任の免除が一切認められません。破産者は、破産手続終結後も、すべての債務を背負わなければなりません。借入金も慰謝料も税金も、破産申立時点で負っている債務につき、区別なく支払責任が残ります。
一方、非免責債権は、これに該当する債権に関しては、そもそも免責されません。破産者の不誠実さなどは、問題になっていません。よって、破産手続終結後も、典型的な非免責債権である未払いの税金については、自治体と支払いの予定を組まなければならないということになります。
免責不許可事由と非免責債権は、まったくの別概念です。規定する条文も異なります。この区別ができないと、債権者の立場で免責を争う場合に、「免責不許可事由があるから免責不許可がふさわしい」、あるいは、「そもそも非免責債権だから支払い責任が残る」などとの反論を構成する際に、とんちんかんな主張をしてしまうことにもなりかねません。
免責不許可事由の説明
上記のとおり、免責不許可になるケースは、破産者の不誠実さなどが認められる場合です。破産法では、原則として免責許可とするが、同法252条1項に規定されている免責不許可事由に該当する場合に限り、免責不許可とするという建て付けがなされています。
この説明については、以下の記事にて行っています。
非免責債権の説明(破産法253条)
1項1号(租税等)
破産法第253条(免責許可の決定の効力等)
1項 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
1号 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
国庫収入を確保する要請より、破産手続によっても税金は免除されないという規定になっています。
このため、租税債権については、時効が成立しない限りは、支払責任を免れることはできません。
1項2号(悪意で加えた不法行為)
破産法第253条(免責許可の決定の効力等)
1項 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
2号 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
損害賠償の支払い義務を負う加害者に対する制裁や、被害者の救済を図るべきという趣旨などから、非免責債権とされています。
ただし、単なる損害賠償なく、「悪意で加えた」という要件が付されている点が重要です。この「悪意」については、一般的には、「害意」(単なる故意ではなく、他人を害する積極的な意欲)のことであると解されています。
具体例としては、「債務超過であることを認識しながらクレジットカードを使用し、商品購入をしたことで発生した損害の賠償請求権」などがあります。なお、このような破産者の場合、免責不許可事由にも当たりうるものです(破産法252条1項5号など)。
なお、不貞慰謝料がこの非免責債権に当たるかどうかにつき、争いが先鋭化しやすいものです。債権者が貸金業者などでない個人であること、感情的な対立が生じやすいことなどが理由です。実際には、不貞行為が「害意」により行われたとは評価されにくい傾向といえます。ただし、不貞の経緯等により、別の判断もありえます。
1項3号(故意または重大な過失で加えた、生命・身体を害する不法行為)
破産法第253条(免責許可の決定の効力等)
1項 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
3号 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
不法行為の中でも、他人の生命・身体を害したものについては、別段の規定がされています。2号と異なり、「害意」ではなく、「故意または重大な過失」による不法行為で生じた損害賠償請求権であれば、非免責債権となります。
「害意」と比較すると、概念上、「故意または重大な過失」は、相当広いものです。「悪質な交通違反により生じた交通事故被害者の損害賠償請求権」については、非免責債権に当たると解されます(この場合でも、「害意」の要件を満たすことは難しいことが多いでしょう)。
1項4号(婚姻費用、養育費など)
破産法第253条(免責許可の決定の効力等)
1項 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
4号 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第760の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第766(同法第749、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第877条から第880条までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
複数の規定がありますが、重要な内容としては、婚姻費用(民法760条)、養育費(民法877条)が非免責債権とされているということです。このような親族関係に基づく請求権については、請求権者の日々の生活に関わる重要なものであるため、非免責債権とされています。
支払義務者の立場からみて、あえて卑近な言い方をすると、「離婚して破産する場合、離婚慰謝料は免責されうるが、子どもが成人するまで養育費の支払義務は残る」とも表現もできます。
1項5号(使用人の請求権)
破産法第253条(免責許可の決定の効力等)
1項 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
5号 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
労働者保護の要請から規定されています。ただし、この規定が問題になることはほとんどないというのが実情です。
1項6号(債権者名簿漏れの債権)
破産法第253条(免責許可の決定の効力等)
1項 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
6号 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
破産者が債権者名簿に記載しなかった債権者は、破産手続に参加する機会を失います。このような債権に免責の効力を及ぼすことは相当ではないとの配慮から、非免責債権とされています。
このような趣旨より、破産者が債権のことを「知りながら」、故意または過失により名簿記載をしなかったことが要件となります。破産者に過失なく名簿記載から漏れてしまった場合には、免責の効果が及ぶことになります。また、債権者の側で破産者の破産の事情を知っている場合には、名簿に記載されていなくても、免責の効果が及びます。このような債権者は、手続参加の機会があったといえるためです。
債権者名簿に、意図せず記載漏れが起きることがありえます。そのような場合でも、別途債権者に破産に関する通知をしておくことで、免責対象にならないという事態は、避けることが可能です。
1項7号(債権者名簿漏れの債権)
破産法第253条(免責許可の決定の効力等)
1項 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
7号 罰金等の請求権
罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金、過料といった制裁金の請求権については、免責されません。刑罰などにより生じた支払債務であり、税金と同様に、免責されずともやむを得ないというべきです。
免責と保証人等の担保との関係
破産法253条2項(免責と保証人等との関係)
破産法第252条(免責許可の決定の効力等)
2項 免責許可の決定は、破産債権者が破産者の保証人その他破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び破産者以外の者が破産債権者のために供した担保に影響を及ぼさない。
破産手続により破産者が免責を受けた場合の、保証人などの人的担保や不動産などの物上保証に関する効力を規定したものです。
要するに、破産者が免責を受けても、保証人等には何らの影響もないということになります。例えば、破産者が免責を受けても、保証人には保証債務の支払義務が残ります。
そもそも、債権者側すれば、主債務者が破産などした場合に備えて保証人を用意してもらうものです。このため、主債務者の破産が保証人に影響を与えないというのは、当然の規定ともいえます。
破産者側からみると、いわば、「破産すると、保証人に迷惑がかかってしまう」という事態になることは避けがたいものです。これは、やむを得ないものです。
補足
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