同時廃止事件と管財事件の振り分けについて

同時廃止事件と管財事件のちがい

同時廃止事件と管財事件の位置づけ

 破産法の原則は、「管財事件」とされます。破産手続を申し立てると、財産を集めて分配するための「破産管財人」が裁判所から選任されます。そして、財産関係について管財人のレビューを受け、3か月に1回程度のペースで予定される「債権者集会」で報告を受けます。

 財産を集める換価業務が全て終わり、配当まで終結すると、破産手続は終了となります。財産関係が複雑になりやすい法人や自営業者の破産手続の場合、管財事件になることが通常です

 他方、集めるべき財産がそれほど多くないことが多い個人の破産事件の場合、管財人を立てるまでもないことも、多くあります。そのような事案は、「同時廃止事件」に割り振られ、破産手続は開始と同時に廃止され、管財人が選任されることもなく、すぐに手続が終了することになります

同時廃止事件は安くて早い

 同時廃止事件と管財事件の違いは、簡単にまとめると、以下のとおりです。

事件の種類 メリット デメリット
同時廃止事件

予納金が安い(1万円強

手続の所要時間が短い

債権者の把握など、万全の準備が必要
管財事件

予納金が高い(20~30万円

手続の所要時間が長い

破産手続開始後も資料の追加などが可能

 同時廃止事件は、端的にいえば、安くて早いものです。このため、個人の破産事件では、同時廃止事件になった方が望ましいことが多いものです。

 ただし、同時廃止事件の場合、破産手続がすぐに終結してしまいます。このため、債権者の申告忘れなどがあった場合に、これをフォローする機会がありません。このため、管財事件以上に、裁判所への申立資料を万全に準備する必要があります。

同時廃止事件と管財事件の振り分け基準

振り分け基準の概略

 管財事件とするか、同時廃止事件とするかは、ある程度画一的な基準により決められます。

 この基準は、全国統一ではなく、地域により多少の変動があります。ここでは、最もメジャーとされている東京地方裁判所の基準を説明します。

 甲府地方裁判所も、下記基準を参照して基準を決めていると解されます。ただし、事案により交渉の余地もあり、柔軟な対応を受けられることも多くあります。

  1. 法人の破産事件である→管財事件
  2. 近い時期まで営業していた自営業者の破産事件である→管財事件
  3. ローン額が少ない(オーバーローンでない)不動産を保有している→管財事件
  4. 33万円以上の現金(預貯金を含む)または20万円以上の財産(車両など)を保有している→管財事件
  5. 1~4以外→同廃事件

法人や自営業者の場合は管財事件

 法人や自営業者の破産の場合、法律関係が入り組んでいることが通常です。賃貸物件やリース物件を処分したり、売掛金や買掛金の扱いの検討が必要になることもあります。債権者も多数のことが多く、簡単に同時廃止という扱いで済まないことが多いものです。このため、管財事件となり、管財人の換価業務が予定されることが通常です。

 ただし、自営業者で営業を終了してから年単位などの長時間が経過しているといった場合で、生活状況が個人とほぼ変わらないとなれば、同時廃止事件とされることもあります。

不動産のオーバーローンか否かの判断基準

 甲府地方裁判所では、不動産価格と債務額(住宅ローンが典型)の比較により、オーバーローンか否かを振り分けています。

 この基準は、概略、以下のとおりです。

  1. 債務額が不動産の固定資産評価額の1.5倍未満→管財事件
  2. 債務額が不動産の固定資産評価額の1.5~2.5倍の範囲→不動産鑑定士の鑑定が必要、鑑定結果で1.5倍以上となれば、同時廃止
  3. 債務額が不動産の固定資産評価額の2.5倍以上→同時廃止

 要するに、不動産の価値と比較して債務額がずっと大きければ、あえて管財人に売却活動などをさせる実益もないから同時廃止とする、という扱いです。

 この扱いが適切かを検討するために、比率が微妙な場合(1.5~2.5倍の間)には、不動産評価の専門家である不動産鑑定士の関与が必要になります。その分、費用がかかるということになります。

 なお、同時廃止であろうが管財事件であろうが、住宅ローンがあり、抵当権が設定されている場合には、抵当権者により住宅は処分されることが通常です。これを避けるためには、住宅資金特別条項付個人再生手続など、別の債務整理の方法を取らなければなりません。

住宅を守りながら債務整理をする、住宅資金特別条項付個人再生手続の説明

現金が33万円を超えている、または財産が20万円を超えている場合

 保有現金(預貯金を含む)が33万円を超えている、または保有財産が20万円を超える場合には、管財事件に振り分けられます。これは、「管財人費用の最低額とされる20万円を支払う資力があると判断されるため」などと説明されます。

 現金(預貯金を含む)以外の「財産」としては、以下のようなものが代表的です。

  • 貸付金
  • 退職金
  • 保険の解約返戻金
  • 車両

現金、預貯金

 額面額で判断されることが通常です。破産手続では通帳の写しを裁判所に提出するため、手持ちの預貯金が多額である場合には、管財事件となることを覚悟しなければなりません。

貸付金

 回収可能性が一定程度考慮されます。借主に逃げられたような場合で、回収可能性がほぼないとなれば、額面は多額であっても、資産としては低額の評価となることもあります。

 このため、貸付金の状況いかんによっては、同時廃止事件となる可能性はあるでしょう。

退職金

 勤務期間にもよりますが、退職金債権は、多額になることが多いものです。このため、8分の1で換算して、20万円以下かを検討することになります。要するに、退職金の額面が160万円以下かどうかが重要です。

保険の解約返戻金

 積立型の生命保険の場合、解約返戻金があります。学資保険も生命保険ですので、保険の名前ではなく、積立金の有無で判断する必要があります。月額の保険料が1万円程度になる保険契約の場合、解約返戻金を積み立てている可能性が高いため、注意が必要です。

車両

 新車登録時から軽自動車で4年、普通自動車で6年を経過しているものは、無価値とされることが原則です。このため、古い車両となれば、査定などを取る手間までは必要ありません。

 ただし、一般的に価値が高いと解されている車両や、クラシックカーの場合には、多少古い年式であっても、金額に関する根拠資料が必要になることがあります。

その他、調査型の管財事案

形式的には同時廃止が相当であっても、管財とされる場合

 管財人が入るということは、破産者(+申立代理人)以外の第三者が、破産者の経済状況などを調査するということです。

 このような性質もあり、「資産状況からすると同時廃止でもよいが、経過観察をしたいので管財事件とする」という領域が存在します。いわゆる、「調査型の管財事案」というものです。

 典型的には、相当程度の浪費があるといった場合です。

まとめ

法人や自営業者の破産事件は、管財事件となることが原則である

 法人破産の場合などは、財産状況が複雑になっていることが多いものです。債権者の納得を得るためにも、管財事件として、債権者集会で破産状況を報告する機会を設けることが望ましいでしょう。

 このため、法人破産を希望する場合には、どうしても必要な破産費用だけは残しておく必要があります。この金額は、法人の規模によっては、数百万円となることもあります。この金額が用意できない場合は、法人の操業停止状態を放置しなければならないおそれもあります。そのような事態は、法人にとっても、債権者にとっても望ましいことではないでしょう。

個人の破産は同時廃止事件が望ましいことが多いが、例外もある

 破産手続の大きな目的は、将来に向けた生活再建です。そうであれば、「必要費用は安く、手続は早く」済むことが望ましいといえるでしょう。

 このため、多額の財産があるわけでもない個人の破産事件の場合は、同時廃止事件であることが望ましいでしょう

 ただし、一定額の財産の存在がうかがわれる事案の場合は、管財事件として管財人のレビューを受けた方が「おさまりがよい」というケースもあります。

個人の破産を同時廃止事件にするためにはどうすればよいか

まとまった財産を持たない

 20万円以上のまとまった財産がある場合には、管財事件となるという基準があります。これを避けるためには、とにかく、まとまった財産を持たないということが重要になります。

必須の支払い費用で調整する

 どうしても財産がある場合には、優先度が高い費用を支払ってしまうことで、手持ち資産を圧縮する方法もあります。

 典型的には、以下のような支払いがあり得ます。

  • 破産申立のための弁護士費用
  • 自動車が必須の場合で、残額が少ない場合の自動車ローン支払い
  • 未納状態の税金や健康保険料の清算

実際には弁護士に相談するべき

 実際には、破産直前に多額の財産を処分することは、望ましくありません。裁判所や債権者から、いらぬ疑いをもたれてしまうおそれもあります。そもそも、財産処分を行うのは、管財人の判断によるべきというのが、破産法の原則ともいえます。これに反するような破産前の財産処分は、できるだけ抑制的であるべきといえます。

 このため、具体的な対応を決定する際には、弁護士に助言を求めるべきといえます。一人で勝手に判断して財産を処分するという状況は、避けるべきです。

補足

 以下のページも、よろしければご覧ください。

債務整理

自己破産手続の説明