目次
住宅資金特別条項付個人再生手続とは
マイホームを建築する際には、住宅ローンの借入を行う家庭が多いものと思われます。
そして、住宅ローン以外に、いろいろな事情で、カードローンなど、多額の債務を抱えているケースもあるかと思われます。
このような場合、「住宅を守りながら、月々の債務支払いの負担を軽減したい」という希望を持つ方もいるかと思われます。そのための方法として、裁判所は、「住宅資金特別条項付個人再生」というメニューを用意しています。
この内容について、以下で説明します。
住宅資金特別条項付個人再生手続の概要
住宅資金特別条項付個人再生手続は、これが裁判所に認められた場合、概略、以下のような手続となります。
- 住宅ローンは、これまでの契約通り支払う
- 住宅ローン以外の債務につき、最大で90%(80%が限度のことが多い)の圧縮を受けることができる
- 住宅ローン以外の債務は、圧縮後の金額を3~5年で返済する
多くの事案では、債務を100万円程度まで圧縮することが可能となります。そうなると、毎月の支払は、5年返済で考えると、「住宅ローンの金額+2万円弱」となります。
多重債務を抱えていても、上記のような支払いであれば現実的だと感じられる方も多いのではないでしょうか。
住宅資金特別条項付個人再生手続の流れ
申立から再生計画決定まで
住宅資金特別条項付個人再生は、裁判所から許可を得ることで、公的に住宅ローン以外の債務の圧縮を受ける手続です。このため、裁判所に多くの資料を提出する必要があるなど、それなりの手間がかかります。
この手続のトピックスとしては、以下のとおりです。
- 裁判所に提出する申立書の作成を行う(3か月分の家計表が必要)
- 裁判所に提出する関係書面を収集する(住民票、給与明細書、住宅ローン償還表など)
- 土地建物の現在価値を把握するため、不動産鑑定手続を行う
- 裁判所に書面の提出後、裁判官との面談を受ける
- 4か月間、実際に再生計画の実施(毎月の支払い)が可能かどうか確認するため、支払テスト(履行テスト)を行う
- 債務者にて再生計画を作成し、裁判所に提出する
- 申立書面や履行テストの結果を踏まえて、裁判所が再生計画の認可の判断を行う
- 再生計画が認可されれば、計画のとおり、毎月の分割弁済を行う
実際の資料作成や資料収集は、相応に煩雑な手続となります。また、再生計画案の提出など、厳守しなければならない期限が定められているものもあります。このため、実際に住宅資金特別条項付個人再生の申立をする際には、弁護士に依頼することが無難です。
概ねの所要時間について
個人再生を希望してから実際の返済が開始するまでの概ねの所要時間は、当事務所に依頼があった案件の平均を取ると、約10か月といったところです。
特に、3か月分の家計表作成と、4か月の履行テストのため、手続全体として時間がかかる傾向にあります。他にも、必要書面の一部が不足するとなれば、手続はどうしても遅れてしまいます。なお、手続の準備中も、住宅ローンだけは毎月きっちりと支払ってもらう必要があります。
実際には、履行テストの開始を前倒しするなどの方法により、手続期間をもう少し圧縮する方法もあります。ただし、上記のように時間をかけることで、実際に再生計画が実施可能かどうか、じっくりと確認することが可能になります。また、住宅ローン以外の業者からの請求をストップさせて時間をかけることで、弁護士費用や鑑定費用などを用意する余裕も生まれます。
このため、住宅資金特別条項付個人再生を行う場合には、10か月程度の時間をかけて、じっくりと取り組むことが望ましいものと解されます。
住宅資金特別条項付個人再生手続による債務圧縮の割合
債務の金額により圧縮割合が異なる
住宅資金特別条項付個人再生手続では、住宅ローン以外の債務の圧縮割合が定められています。
この内容は、概ね、以下のとおりです。下線を引いた範囲の事案が、最も多いものと思われます。
債務額(住宅ローン以外の債務の合計額) | 支払金額 |
債務が100万円以下 | 債務全額 |
100万円を超え500万円以下 | 100万円 |
500万円を超え1,500万円以下 | 債務の20% |
1,500万円を超え3,000万円以下 | 300万円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 債務の10% |
ちなみに、住宅ローン以外に5,000万円を超える債務を抱えているという場合には、個人再生手続を利用することができません。通常再生という手続が必要になります。
個人再生手続申立時点での財産額は支払う必要がある
上記の圧縮割合に関わらず、個人再生手続では、「再生手続開始決定時点で債務者が保有している財産額の総額は支払う必要がある」というルールがあります。これを、「清算価値保障原則」といいます。
事例として、住宅ローン以外の債務が700万円あるという場合を考えます。このケースでは、80%の圧縮によると、支払額は140万円となります。この金額を3~5年で弁済すればよいようにも思われます。しかし、債務者が、個人再生の手続開始決定時で500万円の価値のある高級車を保有していたという場合には、最低でも500万円を分割弁済する必要があります。
このような調査をするために、再生手続の申立では、いろいろと提出資料が必要とされています。
個人再生の注意点
清算価値保障原則以外にも、住宅資金特別条項付個人再生手続の際には、いろいろと注意点があります。
この内容を列挙すると、以下のとおりです。
- 清算価値保障原則を守らなければならない
- 住宅ローンの対象が主に事業用不動産の場合には、住宅資金特別条項付個人再生は使えない
- 住宅ローン以外の債務額が5,000万円を超える場合には、住宅資金特別条項付個人再生は使えない
- 事案によっては、再生委員の選任が必要となり、費用を予納する必要が出てくる(甲府地裁の場合)
上記の内容については、以下の記事にて、一部詳細に説明しています。
補足
以下のページも、よろしければご覧ください。