器物損壊罪とは?過失なら成立しない?具体的ケースや示談金などを解説

器物損壊罪とは?過失なら成立しない?具体的ケースや示談金などを解説

器物損壊罪とは?

 器物損壊とは、他人の物を「損壊」または「傷害」する行為です。要するに、他人の物を壊したり、傷つけることを指します。ただし、ここでいう「物」は、建物や乗り物、作品や物品といった、「物」という用語から連想される無生物に限りません。ペットや家畜などの「動物」も、器物損壊の対象である「物」に含まれます。

 また、ここでいう「損壊」は、物理的な損壊に限りません。「落書きをする」、「張り紙をする」、「ペットを逃がす」など、その効用を失わせる行為も含みます。

 器物損壊罪は、上記の行為に対して適応される刑法です。刑法第261条は、以下のとおりに定められています。罰則は『3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料』と規定されています。

刑法
(器物損壊等)
第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

e-gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=140AC0000000045#Mp-At_261

「故意」の場合に成立するが、「過失」であれば成立しない

 器物損壊罪は、故意により行われた場合に適応される刑法です。「誤って落としてしまった」「悪気はなく、事故で壊してしまった」といった過失類型の場合、この罪の対象にはなりません。

 例えば、傷害罪の場合は、過失であっても処罰されることがあります(過失傷害罪)。誤って他人を傷つけてしまったという場合です。他方で、器物損壊罪は、そのような扱いにはなっていないということです。

器物損壊罪の対象となる具体的なケース

物理的損壊

  • 壁を壊した
  • 窓ガラスを割った
  • 自動車を傷つけた
  • 自転車をパンクさせた
  • 庭木を折った

傷害

  • 他人のペットを殺した、怪我をさせた

効用を失わせた

  • 同僚の私物を持ち去った
  • 他人の物を勝手に捨てた
  • 食器に尿をかけた
  • 他人の服に体液をつけた
  • 建物や看板に落書きした
  • 他人のペットをわざと逃がした
「効用を失わせた」とは「壊れたわけではないが、汚れたり失われたりして実際にその器物を使えなくなった場合」を指し、それが故意なら「器物損壊罪」が適応されます。

器物損壊事件【加害者側】

示談について

 器物損壊行為につき、被害者への被害弁償や謝罪が済んでいる場合、示談になるケースもあります。

 また、刑法264条のとおり、器物損壊罪は親告罪です。このため、被害者が告訴しなければ、刑事裁判となることはありません。被害者側が告訴をする前であれば、示談の際に告訴をしない合意を取り付けることで、事件化することも回避できることもあります。

 また、告訴され事件化した後でも、被害者と示談が早期に成立すれば、その事実は後の司法判断において加害者に有利に考慮されることが多いところです。

 いずれの場合も、相手側との交渉や被害弁償が重要となります。早期に弁護士に相談して、状況に合わせて適切な対応を取ることが大切といえます。

器物損壊の示談金の相場

 器物損壊罪の示談金の相場というのは、なかなか一般化が難しいものです。あえて説明をすると、その物の時価が一つの目安になるといえます。時価額に、その物についての被害者の思い入れや迷惑料を考慮して、金額を決めていくという方法が合理的といえます。

 このように考えると、刑事処分をしないことまで加害者側に求めるとなると、最低でも5万円程度、事案によっては数十万円といった金額の示談金が必要になることもあるといえます。

 他方で、損壊された対象がペットの場合は、金額算定が容易にはできないことも多いところです。ペットと飼い主の関係はいろいろなものがありますが、家族同然に捉えられているケースもあります。そうなると、いわゆるペットショップなどので時価額と、飼い主の考える賠償額が大きく乖離することもあります。

 そのような場合であっても、基本的には、無生物の場合の扱いと同様とされるのが原則であると考えます。その原則を基に、どの程度修正すべきかという問題であると考えます。

示談金に影響を及ぼす要素

  • 物の素材や質(新しい物が手に入るか、代替不可能か、など)
  • 被害額
  • 被害者の心的苦痛の程度、処罰感情
  • 被害者の物に対する愛着、思い入れ
  • 犯行態様や被害状況
  • 加害者の年収や職業

子どもが器物損壊を起こした場合はどうなるか?

 子どもが器物損壊事件を起こした場合、年齢や事案にもよりますが、刑事責任まで問われないケースが多いと解されます。

14歳未満の子どもは刑事責任は問われない

 まず、14歳未満の子どもについては、刑事責任は問われません。これは刑法41条によります。

刑法
(責任年齢)
第四十一条 十四歳に満たない者の行為は、罰しない。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=140AC0000000045

 14歳未満の子どもに刑事責任を負わせないのは、以下のような考えによります。すなわち、年少者の子どもは、まだ精神的に未熟で養育が必要とされる年代であるため、懲役や罰金などの責任能力を負わせられない、またそういった罰(刑事処分)よりも保護、更生が必要とされる、というものです。

 刑罰法令に触れる行為をした14歳未満の子どもは、「触法(しょくほう)少年」と呼ばれます(少年法第3条第1項第2号)。

 触法少年は、逮捕・勾留されることはありません。他方で、重大事件の場合などで家庭裁判所の審判に付することが適当と判断された場合は、児童相談所から家庭裁判所に事件が送致されることがあります。そして、児童相談所にて触法少年の身柄が拘束されたり、保護処分(保護観察、少年院送致など)が決定されることがあります。

14歳以上20歳未満の者の場合

 刑罰法令に触れる行為をした14歳以上20歳未満の者は、「犯罪少年」と呼ばれます。このカテゴリーになると、逮捕・勾留の可能性があります。ただし、少年事件(20歳未満の者が犯罪相当の行為をした事件)の場合には、検察官による捜査が終わった事件は、すべて家庭裁判所に送致されることになります。

 実際には、器物損壊事件のみの事案であれば、家庭裁判所による少年審判に付されたとしても、保護処分となることが多いと解されます。他方で、器物損壊が非行の一部で他に重大な事件に関わっている場合や、器物損壊の件数が多い場合には、刑事責任が問われるケースもあり得ます。

 なお、成人年齢は2022年に18歳に引き下げられましたが、少年法の対象は変わらず20歳未満です。

 いずれにせよ、事件を早期に解決するということであれば、相手側への被害の弁済や相手側との示談を実現することが重要です。

器物損壊事件【被害者側】

器物損壊の被害を受けたら・・・証拠が大事

 器物損壊の被害に遭ったら、被害の証拠を保全することが大切です。例えば、以下のようなものが考えられます。

  • 犯行の様子が映った防犯カメラの映像
  • 被害状況が分かる写真、映像

 もちろん、上記のような証拠が確保できない場合も多いでしょう。そのような場合であっても、警察に、「○○時頃に見たときに自宅の○○を壊されていた。前日の○○時には壊れていなかった」などと伝えられるだけでも、警察は捜査がしやすくなるといえます。警察に被害届を出すと、事情聴取、実況見分への立会いを求められることがあります。そのときに、スムーズに伝えられるように、以下のような情報を、あらかじめ整理しておくとよいと考えます。

  • いつ(日付、時間帯)
  • どこで(自宅前など)
  • どのように、何を壊されたのか(ガレージをバットで壊された、など)
  • 以前からトラブルがあったか(あったならいつ頃から、何をされたなど)