判例紹介・偽装結婚の事案で、韓国に居住する女性に対する婚姻無効確認請求を、日本の裁判所が認容した事案(水戸家裁H28.12.16判決)

はじめに

無効な婚姻とは

 夫婦に、婚姻に向けた意思がないという場合があります。典型的には、人違いで結婚してしまったという場合です。

 このような婚姻は、法律上無効になります(民法742条1号)。

第742条(婚姻の無効)

 婚姻は、次に掲げる場合に限り、無効とする。

1号 人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき。

2号 当事者が婚姻の届出をしないとき。ただし、その届出が第739条第2項に定める方式を欠くだけであるときは、婚姻は、そのためにその効力を妨げられない。

 民法742条1号の「当事者間に婚姻をする意思がないとき」については、「当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指し、たとい婚姻の届出自体については当事者間に意思の合致があったとしても、それが単に子の嫡出化を達するための便法として仮託されたものに過ぎないときは、婚姻は効力を生じない。」とされます(最判小二昭和44年10月31日判決)。

 このような解釈により、いわゆる日本国籍を取得する目的の偽装結婚についても、無効な婚姻とされます

偽装結婚と離婚(婚姻無効確認)

 偽装結婚などで無効な婚姻であっても、婚姻届が受理された以上は、これが取り消されるまでは、戸籍上は夫婦のままです。

 このため、離婚届が作成できない場合でも、あくまで婚姻の解消を求めるという場合には、裁判所で離婚するなり婚姻無効を確認するなどの手続を取る必要があります

偽装結婚の場合の問題点(国際裁判管轄)

 特に国籍目的の偽装結婚の場合、男女が別居してしまうケースが多いものです。一方が強制退去やその他の事情で、帰国してしまうケースもあります。

 他方、裁判をする場合は、原則として相手方の居住地の裁判所に訴訟を提起する必要があります。これが国外となると、適用される法律が違うなどの事情もあり、状況が複雑化しやすくなります(「国際裁判管轄の問題」といわれます)。

紹介する裁判例について

 今回紹介する裁判例は、韓国にいる女性に対する婚姻無効確認訴訟につき、日本の裁判所が管轄を認め、婚姻の無効を確認した事案です(判例タイムズ1439号251ページ)。

 被告となった韓国在住の女性が裁判に応じていて、原告の請求原因を認めていたなどの事情もあり、日本国内の裁判所に国際裁判管轄を認めるという判断となっています。

事案の概要

問題となった点 日本国の裁判所に裁判管轄があるかどうか
裁判所の判断 水戸家裁にて国際裁判管轄を認める
裁判所の認定2 偽装結婚の経緯より、婚姻の無効を認める
考慮要素 被告女性が日本での訴訟に応じた
考慮要素2 偽装結婚が日本国内で行われた
考慮要素3 偽装結婚につき、夫婦が日本国内で有罪判決を受けている
特記事項 被告女性は原告の請求原因をすべて認めていた

判決の要旨

国際裁判管轄の判断基準について

 本件は、日本に国籍及び住所がある原告と、大韓民国に国籍及び住所がある被告との間の渉外的婚姻無効確認訴訟であるから、その国際裁判管轄について検討する。

 婚姻無効確認訴訟においても、被告の住所は国際裁判管轄の有無を決定するに当たって考慮すべき重要な要素であるというべきであるが、被告が我が国に住所を有しない場合であっても、原告の住所その他の要素から原告の請求と我が国との関連性が認められ、我が国の管轄を肯定すべき場合のあることは、否定し得ないところであり、どのような場合に我が国の管轄を肯定すべきかについては、国際裁判管轄に関する法律の定めがなく、国際的慣習法の成熟も十分とは言い難いため、当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当である(最高裁平成5年(オ)第764号平成8年6月24日第二小法廷判決民集50巻7号1451頁参照)。

管轄の評価に当たって重要な事情について

 被告は大韓民国に住所を有するものの、①被告が我が国の管轄を争わず、かえって当裁判所における審理を求めて本件訴えにつき応訴していること、②原告が我が国に国籍及び住所を有していることに加え、前記認定事実のとおり、③本件婚姻届の提出が我が国内で行われていること、④原告及び被告が最後の共通の住所を我が国内に有していたこと、⑤原告及び被告が我が国の刑事裁判手続により本件婚姻届提出にかかる電磁的公正証書原本不実記録・同供用の罪で有罪判決を受け、その判決が確定していることが認められる。

国際裁判管轄に関する判断

【上記の事情の指摘に続けて】

 これらの事情を併せ考慮すると、本件請求と我が国との密接な関連性が認められ、また、被告自身も当裁判所での審理を求めて応訴しており、本件訴訟につき我が国の管轄を肯定したとしても、被告の不利益が大きいということはできないから、本件訴訟につき我が国の国際裁判管轄を肯定することは条理に従い例外的に許されるというべきである。

 以上によれば、本件訴訟において、我が国に国際裁判管轄を認めるのが相当である。

婚姻無効に関連して、婚姻意思に関する判断

 原告と被告は、当初から偽装結婚をする前提で本件婚姻届を提出したというのであるから、本件婚姻手続にあたり、原告被告間にその手続を履行すること自体については意思の合致があり、両者間に法律上の身分関係を設定する意思があったといえるものの、それは、被告に日本の在留資格を取得させるための便法として仮託されたものにすぎず、原告には、本件婚姻届が提出された当時、被告との間に真に社会通念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思すなわち婚姻意思はなかったことが明らかというべきである。

判決に対するコメント

国際裁判管轄について

 婚姻無効確認に関する国際裁判管轄につき、判決にて、事例ごとの性質により、「条理」により判断すべきという言及がされています。本件は、韓国在住の被告女性から応訴の意思が明確に示されるなど、条理による判断によっても、日本国内の管轄を導きやすかったといえます。

 本件のように、日本国籍の取得目的で、日本国内で偽装結婚がなされたという事案の場合は、相手方が管轄を争った場合でも、同じ判断になった可能性があります。とはいえ、明確なルールがない以上、日本国内の裁判所では管轄が認められないという判断になってしまう可能性も、否定できないものです。

婚姻無効に関する規律について

 望ましいことではありませんが、国籍取得を目的とした偽装結婚の事案は、一定数あります。そして、この相手方が帰国してしまったり、音信不通になってしまうケースも、一定数あります。

 このような婚姻を解消する場合に、相手方が「所在不明」であれば、日本の法律を適用して手続を通してしまう方法もありえます。他方で、国外の所在が明確になってしまうと、正面からの手続が煩雑になりえます。現状では、裁判所による管轄の判断は「条理」によることとなり、結果が予測しにくいものです。

 結局は、このような事案についての統一的な見解が臨まれるところです。立法的な措置があればベストといえますが、現状では実現していません。

補足

 以下のページも、よろしければご覧ください。

離婚

離婚等に関する裁判例