目次
業者から突然請求書が届いたらどうすればよいか
具体的な事例
過去に貸金業者などから借金をしていて、返済が滞ってしまったという場合を考えます。
返済をしなくなった際には、借入金残高は30万円になっていました。返済が遅れてからしばらくは業者からの連絡もあり、「返済したい」と考えながらも、なかなか実行できませんでした。時間が経つうちに、業者からの連絡にも対応しなくなり、引越しをしたら郵便も来なくなりました。
もう借金のことを忘れたころに、見知らぬ業者名の封筒で請求書が届きました。身に覚えのない業者名で困惑しながら内容を確認すると、過去に取引をした業者から「債権譲渡」を受けた業者である、というようなことが書いてあります。
しかし、請求額は60万円と、返済が滞った時期から2倍になっていました。内訳を確認すると、「遅延損害金」という名目で、元金の他に30万円の請求を受けていることがわかりました。
消滅時効の成立の可能性
この事例のような請求は、実際にあるものです。弁護士が弁護士会の相談会などに参加すると、上記事例のような業者からの請求書が来たために、不安になって相談に来たという方が散見されます。
しかし、このような請求については、債権の消滅時効期間が経過している可能性があります。消滅時効が実際に成立したとなれば、請求権は消滅するため、支払に応じる法的義務はありません。
それでは、なぜ業者はこのような請求を行うのでしょうか。このメカニズムを理解するためには、消滅時効のルールを知る必要があります。
請求書が来た場合に望まれる対応
消滅時効の説明の前に、請求書が来た場合に望ましい対応について、説明します。このような請求書が来たら、業者に返答などをする前に、必ず弁護士に相談するべきです。
この対応を誤ると、「やり方によっては免除を受けることが可能だったかもしれない」高額の債務を抱えてしまうリスクがあるため、注意が必要です。
消滅時効とは
消滅時効の一般的な説明
消滅時効とは、債権がある場合でも、請求などが長期間行われなかった場合には、この請求権を消滅させる扱いのことをいいます。「長期間請求などがなされていない事実状態」を法律的に優先するとか、請求を怠ったもの(権利の上に眠る者)は法的保護に値しないとかいった説明がなされます。
消滅時効が成立するまでの「時効期間」は、債権の種類によって異なります。貸金に関わるもので、主に問題となる消滅時効期間は、以下のとおりです。なお、個人が生活費のために借り入れを行うような事案を想定しています。
債権の種類 | 時効期間 | 法的根拠 | 備考 |
貸金業者からの借入金 | 5年 | 商法522条 | 債権者の商行為 |
信用組合からの借入金 | 10年 | 民法167条 | 債権者が商人ではない |
個人からの借入金 | 10年 | 民法167条 | 債権者が商人ではない |
確定判決がある場合 | 10年 | 民法174条の2 | 裁判所から通知が来ているハズ |
消滅時効の「起算点」とは
時効期間を考える場合、この期間のスタートとなる時点を確定することが重要です。これを、消滅時効の「起算点」といいます。
時効の起算点は、概略、以下のとおりです。厳密ではありませんが、借入金債務を念頭に、裁判を起こされた場合か否かで場合分けをしています。
状況 | 消滅時効の起算点 | 時効期間(参考) |
確定判決のない場合 | 最終借入日と最終弁済日の遅い時点から | 5年~10年(債務の種類による) |
確定判決のある場合 | 判決の確定日から | 10年(民法174条の2) |
消滅時効についての注意点
消滅時効は、時効期間が経過しただけでは成立しません。時効期間経過後に、時効の利益を受けるもの(貸金の場合であれば借主(債務者))が、「時効が成立したよ」と、消滅時効の効果を主張する必要があります。
この主張のことを、「時効の援用」といいます。
他方で、時効期間が経過した場合でも、時効期間を援用しなければ、債務は残っています。時効の援用により、債務は確定的に消滅すると理解されているためです。そして、時効の援用をしないまま、例えば債務の支払いなどをしてしまうと、その時点での時効の主張ができなくなってしまいます(「時効の援用権の喪失」といわれます)。
この場合は、貸金業者からの借入であれば、再度の支払時点からさらに5年待つなどしなければ、時効の主張はできないことになります。
時効制度からみえる請求者の意図
貸金業者など、債権を請求する側は、自分に不利なことは言いません。このため、時効が成立している債権であることを認識しながら、この請求をあえて行ってくるということもあります。上で説明したとおり、時効期間が経過した債権であっても、「時効が成立したよ」といった時効の援用がなされなければ、請求権は残っているためです。そして、業者が債務者から少額であっても返済を受ければ、その時点で「時効の援用権を喪失した」という主張が可能になります。
なお、このような不意打ちのような対応であっても、「時効の援用権を喪失した」という業者の主張が、裁判などで認められうるものです。
債権回収を生業とする業者は、時効期間が経過したような債権であっても、これをまとめて他の業者から安く買い取り、一斉に請求書を送付して、時効のことを知らずに支払ってくる債務者からお金を回収するという対応を取ることがあります。
このような事情から、上記の事例のように、過去の借金につき、ある時突然見知らぬ業者から請求を受けるということが起き得るのです。
請求書が届いたらどうすればいよいか(結論)
請求書の内容がすべて真実ではない
いろいろと説明したとおり、業者からの請求書が来たとしても、その書面に記載されている内容が、すべて真実とは限りません。業者がお金を請求する書面で、消滅時効が成立し得る可能性などに触れているはずがありません。
このため、書面が来た場合でも、まずは焦らず、しっかりと内容を確認することが重要です。
業者からの請求に安易に対応することは危険
業者の中には、請求書で和解をすすめ、低額であっても分割でお金を払うことを希望してくることもあります。しかし、このような支払いに応じることで、法律上は主張することができた消滅時効について、主張できなくなってしまうこともあります。
「借りたお金である以上、支払をしたい」ということであれば、業者と支払い内容の協議をしてもよいでしょう。他方で、法的な権利はしっかりと主張したいという場合には、安易に支払いに応じることは、必要ない債務を抱え込むリスクもあり、危険です。
請求書で不安があれば、まずは弁護士に相談するべき
請求書の内容をどのように考えるかは、実は単純ではありません。場合によっては、業者などからの請求に対応すべきという事案もあります。
ただし、請求書の内容にそのまま応じることには危険もあることは、これまでに説明したとおりです。他方で、請求書をすべて無視することも、おすすめできません。
このため、請求書が送られてきて不安だという場合には、適切な対応を検討するため、まずは弁護士に相談するべきです。
裁判所からの書面には絶対に対応するべき
業者からの通知のほか、裁判所から書面が送付されることもあります。
裁判所から書面が届いたという場合には、必ず対応するようにしましょう。訴状であれば、これを無視すれば自分にとって不利な判断が出されるおそれがあります。そうでなくても、裁判所からの送付書面という場合には、至急対応が必要なことが通常です。
裁判所からの通知が来たら、まずは弁護士に相談するなどして、適切な対応を行うべきです。
補足
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