適正な面会交流の実現のために・履行勧告及び間接強制

はじめに

面会交流が適切に実施されない場合

 離婚する夫婦に子どもがいる場合には、親権者を定める必要があります。非親権者などの非監護親は、養育費を支払い、希望があれば子どもと定期的な面会を行うこともあります。

 この子どもとの面会である「面会交流」につき、実施の約束をしたものの、約束通り行われないというケースがあります。親権者が子どもの連れ去りをおそれたり、離婚前のいざこざなどが尾を引いていたりする事例が多いようです。

履行勧告と間接強制

 面会交流の実施が適切に実現しない場合に、これを求めるための方法が、制度上いくつか用意されています。大きくは、「履行勧告」と「間接強制」に分類されます

 理想的には、元夫婦が子どもの生育のために合意して、自発的な面会交流が実現するべきといえます。とはいえ、当事者の状況により、そのようなことが期待できないケースもあります。子どものことが関わるため、どうしても紛争含みになりがちですが、やむを得ないともいえます。

適正な面会交流の実現のために

履行勧告についての説明

履行勧告とは

 履行勧告とは、面会交流の調停が成立していることを前提とした、面会交流を実現するための方法です。裁判所が、義務者(親権者など、子どもを非監護親に会わせるべき側)に対して、調停で合意した通りに面会交流をきちんと実施するように勧告する手続です。

 合意通りの面会交流の実施を求める親が、調停が行われた裁判所に対して申請することで、手続が始まります。家庭裁判所調査官が面会交流の実施状況を調べるなどして資料を集めて、実際に勧告するかどうかを判断することとなります。

 このため、申立をしても、履行勧告がなされないケースもあります。

履行勧告がなされる場合

 面会交流を合意したものの、1度も実施されていないという場合が典型的です。他にも、会えることもあるものの、しばしば「子どもが会いたがっていない」などと理由をつけて約束に反しているというような場合も、勧告の対象になりえます。

履行勧告の効果

 履行勧告は、裁判所からの注意というものに過ぎません。このため、履行勧告に反して面会交流を拒絶し続けたとしても、ペナルティはありません

 とはいえ、履行勧告が実施されたという事実は、裁判所の記録に残ります。履行勧告を拒絶したために下記の間接強制の手続に移行したという場合には、家庭裁判所に「履行勧告に従っていない親権者」などと把握される、ということになります。率直に、裁判所の印象はよくないといえます。

間接強制についての説明

間接強制とは

 間接強制とは、義務者が面会交流を拒絶している場合に、「面会交流を行わない場合には、1回につき5万円支払え」などと、裁判所が命じるものです。お金を支払いたくないという心理的な効果から、面会交流を実現させようとする制度です。面会交流の調停や審判で、具体的な調停条項が定められていることが前提となります。

 なお、子どもを無理矢理連れてきて面会させるという方法(「直接強制」といわれます)については、人道的に問題もあり、制度上認められていません。

間接強制の効果

 上記のとおり、面会交流に応じなければ、金銭支払い義務が発生します。別の表現をすれば、お金を払えば面会交流を拒絶し続けることも可能です。とはいえ、裁判所の意思としては、「面会交流をさせるべき」とされているため、一般論としては、何とか元夫婦で折り合って、面会交流を実施するように努めるべきといえます。

間接強制が認められる場合

 間接強制が認められるためには、面会交流の内容が、相当程度具体的に決まっている必要があります。これは、「具体的義務が決まっていなければ、強制もできない」という裁判所の基本ルールによります。

 なお、面会交流の間接強制を認めた著名な判例である、最高裁平成25年3月28日第一小法廷決定(H24(許)48号)では、以下のような内容の面会交流の審判がなされていました。

  1. 面会交流の日程等について、月1回、毎月第2土曜日の午前10時から午後4時まで
  2. 面会場所は,長女の福祉を考慮して、自宅以外の父が定めた場所とする
  3. 面会交流の方法として、長女の受渡場所は、母の自宅以外の場所とし、当事者間で協議して定めるが、協議が調わないときは、JR〇〇駅東口改札付近とする
  4. 母は、面会交流開始時に、受渡場所において長女を相手方に引き渡し、父は、面会交流終了時に、受渡場所において長女を母に引き渡すこと
  5. 母は、長女を引き渡す場面のほかは、父と長女の面会交流には立ち会わないこと
  6. 長女の病気などやむを得ない事情により上記1の日程で面会交流を実施できない場合は、父と母は、長女の福祉を考慮して代替日を決めること

 別の表現をすると、かなり具体的な定めをしておかないと、間接強制は認められないということになります。実際に、他の審判事例では、「義務が特定されていない」として、間接強制が認められていないものも、相当数あります。間接強制が認められない調停条項の場合には、具体的な面会交流の条項を定めるために、再度家庭裁判所の調停や審判を行う必要があります。

 このため、面会交流の合意をする際には、この実施が危ぶまれるような場合には、強制執行の可否も考慮して調停条項を決める必要があります。

補足

 以下のページも、よろしければご覧ください。

離婚

面会交流について