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はじめに
相続に関連して、「祭祀財産を誰が管理するか」という問題が発生することがあります。お墓を誰が管理するのか、という争いが典型です。この点について、民法897条は、以下のように規定しています。
民法第897条(祭祀に関する権利の承継)
- 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
- 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める
遺骨の特殊性
遺骨は、被相続人の身体の一部が変化したものであり、祭祀財産そのものでないことは明らかです。とはいえ、相続財産として単純化すると、相続人だけに所有権が認められることとなります。遺骨が故人を偲ばせるものである実態に照らすと、動産として単純化することは四角四面で、相続人以外に親密な人(内縁者が典型)に管理させることが原則として不可能になるなど、不都合も生じます。
今回紹介する審判例は、遺骨につき祭祀財産としての性格を認め、民法897条の類推適用により、相続人ではない者にこの取得を認めたものです(判例タイムズ1431号244頁)。
事案の概要
争点 | 被相続人(女性)の遺骨を誰が取得するか |
申立人の属性 | 被相続人のめい及びおい |
相手方の属性 | 親族関係のない男性 |
特記事項1 | 被相続人には婚姻歴なし |
審判の結論 | 相手方(親族関係なし)に遺骨管理を認める |
判断根拠 | 民法897条の類推適用により遺骨管理者を判断する |
考慮要素1 | 相手方は少なくとも月数回は被相続人のマンションを訪問していた |
考慮要素2 | 相手方と被相続人には、数百万円単位の金銭の授受があった |
考慮要素3 | 相手方は被相続人の葬儀を主催している |
考慮要素4 | 相手方は被相続人の葬儀費用を負担し、現に遺骨管理をしている |
考慮要素5 | 相手方の葬儀の対応につき、申立人らの異議はなかった |
審判の要旨
遺骨の取得者の判断方法について
被相続人の指定又は慣習がない場合には、家庭裁判所は、被相続人の遺骨についても、民法897条2項を準用して、被相続人の祭祀を主宰すべき者、すなわち遺骨の取得者を指定することができるものというべきである。
判断の枠組みについて
遺骨の取得者を決するにあたっては、被相続人との身分関係や生活関係、被相続人の意思、祭祀承継の意思及び能力、祭具等の取得の目的や管理の経緯、その他一切の事情を総合して判断するのが相当である。
相手方(被相続人と親族関係なし)の関与の状況
相手方は、被相続人とは親族関係にないものの、約45年前に知り合い、平成9年に妻が死亡した後、被相続人が居住している本件マンションを訪問し、少なくとも月に数日は生活を共にし、被相続人と一緒に旅行に出かけたりしていたほか、被相続人との間で数百万円の金銭の授受をしていたこと、相手方は、被相続人が死亡した際には、葬儀業者に連絡して被相続人の葬儀を主宰し、葬儀費用を負担し、被相続人の遺骨を現に所持し、位牌や戒名の手配をしていることなどからすると、被相続人との生活関係は緊密であり、被相続人としても、近年、生活の一定部分を相手方と共にし、相手方との間で多額の金銭の授受があったことなどからすると、相手方を信頼しており、遺骨についても相手方に委ねる意思を有していたと考えることができる。
申立人ら(被相続人のおい及びめい)の対応
近年、病院に被相続人を見舞いに行ったり、本件マンションの管理をしたりなどしているが、相手方と比較すると、被相続人との関係は希薄であるといえること、被相続人の葬儀を相手方が主宰することに異議を述べたり、自ら費用の負担を申し出たりしたことをうかがわせる資料はなく、それを是認していたと考えられる。
結論
遺骨の取得者は、相手方(被相続人と親族関係のない男性)とする。
審判に関するコメント
判断方法及び判断枠組みについて
遺骨を相続財産としてしまえば、その処理は、相続人間の遺産分割などの方法によるしかないところです。とはいえ、遺骨の性質からすると、そのような判断方法は馴染まないといえます。今回の審判でも、遺骨の性質に着目して、民法897条の類推適用により、祭祀財産と同様の扱いにするとしています。
このような判断方法を採用するとなれば、祭祀財産の帰属を決定する場合と同様に、いろいろな被相続人をめぐる事情を総合考慮して、裁判所としても柔軟な判断が可能となります。
結果として、事案に応じた現実的な対応が可能な枠組みとなり、実際の判断も説得的だったように解されます。
本決定の意義
祭祀財産が争いになるケースは、実際にはそれほど多くないように思われます。とはいえ、細かい客観的な事実を拾って故人の意思を推測する方法は、遺言の意思解釈や特別受益や寄与分の評価を行う際にも参照されるべきものと解されます。
被相続人は実際に語ることができない以上、客観的な証拠が重要なことは、いうまでもないところです。実態に見合った判断を得るためには、具体的でよい証拠を集めることを心掛けるに尽きるというべきです。
補足
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