はじめに

婚姻予約及び内縁関係

 交際関係にある男女が、将来の婚姻を約束することがあります。「婚約」という言葉もあり、やや儀礼的でお堅いイメージもあるところ、もっと気軽な約束として合意される場合もあります。このような合意は、法律用語では、「婚姻予約」と総称されます。

 他方、交際関係にある男女が、同居するなどして、夫婦同然の生活をしていることもあります。法律用語で「内縁」と呼ばれるものです。内縁関係は、事情により結婚できない男女間の事実婚を指す場合もあります。このため、混同しやすいものですが、婚姻予約と内縁関係は、別の概念というべきものです

紹介する裁判例について

 今回紹介する裁判例は、婚姻予約の後に内縁関係に入ったとされる男女の損害賠償請求に関するものです。9年3か月の期間同居して、2年1か月の期間別居した後に、女性側から内縁関係を解消しています。この内縁解消及び婚姻予約の破棄につき、男性側から慰謝料請求を行っています(判例タイムズ1438号209ページ)。

 結論としては、そもそもの「内縁関係」の薄さを指摘したうえで、当事者の状況を、夫婦に準じるような法的保護に値する男女関係ではないと評価して、慰謝料請求を棄却しています。

 なお、地裁の判決ですが、控訴審判決となります。請求金額の都合上、簡易裁判所が第1審となったためです。

事案の概要

主要な争点 内縁関係解消についての慰謝料請求の可否
原審の判断 慰謝料請求を棄却
地裁(控訴審)の判断 控訴棄却、慰謝料請求を認めなかった
考慮要素 9年3月の同居期間あり
考慮要素2 別居期間が2年1月と相応に長期間である
考慮要素3 同居期間中の男女関係も良好とはいえなかった
考慮要素4 別居期間中に同居に向けた話し合いの形跡なし
特記事項 判決で内縁関係自体の薄さを指摘

決定の要旨

婚姻予約と内縁の考え方について

 婚姻予約と内縁とは区別して考えるべきであり,婚姻予約をし,同居(同棲)していたからといって,内縁が常に成立するわけではない。確かに,大審院は,いわゆる内縁を「将来において適法なる婚姻を為すべきことを目的とする契約」すなわち婚姻の予約であるとしていたが(最高裁昭和33年4月11日判決(【証拠略】)の判示参照),現代においては,内縁(事実婚)とは,婚姻の社会的実体,すなわち,当事者間に社会観念上夫婦共同生活と認められるような関係を成立させようとする合意(主観的要件)があり,社会観念上夫婦共同生活と認められるような共同生活の事実(客観的要件)はあるが,婚姻届の出されていない男女関係を指すというべきである。

本件の男女関係の評価について

 本件においては,控訴人及び被控訴人が婚姻届を提出しなかった又はできなかった理由は特段うかがわれず,社会観念上夫婦共同生活と認められるような関係を成立させようとする合意があったものとは認め難い

(ただし、当事者に争いがないことから、内縁関係が成立したことを判断の前提とした)

内縁の解消が不法行為にあたる場合について

 内縁関係の一方当事者が内縁関係を解消した場合,当該当事者が,内縁関係の相手方に対する関係で不法行為責任を負い,慰謝料の支払を要するのは,内縁関係を解消した動機,方法等が社会通念上不当な場合に限られると解すぺきである。

本件で内縁関係解消が不法行為に該当するか

 男女関係が必ずしも良好ではなかった事情を指摘したうえで、

 控訴人と被控訴人の別居期間は,平成23年9月頃から被控訴人が内縁関係を完全に解消した平成25年10月21日まで約2年間と長期間に及んでいるところ,その間,両者が再び同居するなどの将来に向けた話合いが行われた形跡が見受けられないことに鑑みれば,控訴人と被控訴人の内縁関係は,両者が別居を開始した平成23年9月頃には,実質的に解消されていたというべきであり,被控訴人が平成25年10月21日に控訴人に対し「あんたなんか好きじゃない。」などと述べて同人との関係を絶ち,内縁関係の終了を伝えた行為は,その動機,方法等が社会通念上不当なものであったとは認められないから,不法行為を構成しないというべきである

とした。

婚姻予約の破棄が不法行為にあたる場合について

 婚姻予約も契約である以上,その不当破棄については,債務不履行又は不法行為を構成するが,一般の契約と異なり,当事者の義務の内容は,絶対に結婚するというものではなく,結婚の成立に向けて誠実に努力するという道義的色彩の強いものであり,単にこれを解消したというだけでは責任は発生せず,飽くまで正当な理由のない破棄の場合に限り,責任を問われるものであると解される。

本件で婚姻予約の破棄が不法行為に該当するか

 省略。内縁関係解消が不法行為に当たらない事情を引いて、不法行為に該当しないとした。

判決に対するコメント

概念の整理に有用な判決

 本件は、婚姻予約と内縁関係の違いや、この破棄や解消が不法行為に当たる場合を概説しています。間違えやすい概念を整理していて、非常にわかりやすいものです。

 判断の内容を簡略化して表にまとめると、おおむね以下のとおりです。

分類 意味 不法行為になる場合 特記事項
婚姻予約 婚姻に向けた努力をする「契約」 正当な理由のない破棄の場合 道義的色彩が強い契約
内縁 社会通念上夫婦共同生活と認められる関係成立の「合意」及び共同生活の「事実」 内縁解消の動機、方法が社会通念上不当な場合  

内縁解消について不法行為責任を請求することは容易ではない

 婚姻していない男女について、この関係解消に関して損害賠償請求を行うことは、容易ではありません。「法的な保護を受けることを希望するならば、婚姻せよ」というのが制度上の建前です。そして、婚姻していないのであれば、男女は、いわば「自由恋愛」というべき状態です。

 「高齢のカップルだが、前の配偶者とは死別していて、子どもの反対もあって婚姻できないが、生活実態は完全に夫婦である」といった場合には、また状況は変わってきます。とはいえ、そのようなケースでなく、「若年の男女が婚約して同棲していたが、性格の不一致で別れた」といった事例では、同居期間が長期間なうえ、別れた経緯が一方当事者の浮気であることが明らかであるなど、事実関係がはっきりしてこないと、なかなか裁判手続で損害賠償請求を認めてもらうことは難しいというべきです。

 そして、賠償請求が認められた場合でも、この金額は、離婚慰謝料に比較すると、どうしても低額になりがちです。

補足

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