山梨・近県で婚姻費用でお悩みの方や弁護士への相談をご検討の方は、お気軽にご相談ください。
夫婦で別居している方や、離婚を考えている方にとって、「婚姻費用」をめぐる内容(きちんと支払われるのか、支払われるとしたらいくらが妥当なのか、といったことなど)は、気になるものといえます。
婚姻費用の考え方や算定方法は後述します。まずは多くの方が気にされるであろう、以下の3点につき、弁護士が解説します。
- 「そもそも婚姻費用とは?」
- 「婚姻費用を払ってくれない場合はどうすればよいか?」
- 「婚姻費用を支払ってもらえないケースは?」
目次
婚姻費用とは何か?
「婚姻費用」とは、夫婦や未成年の子供が社会生活を送るうえで要する生活費のことです。このような金銭である性質上、収入や家庭での役割に応じて、金額は変動します。夫婦が生活のために互いに分担している費用という言い方もできます。
単純に一般化すると、夫婦が別居している間は、夫婦のうち収入が多い方が、もう一方の家族の必要な生活費を支払うことになります。
婚姻費用につき、一緒に暮らしている場合は、意識することが少ないように思われます。他方で、ひとたび夫婦が別居するとなると、「婚姻費用をどうするか」という内容は、夫婦間の協議において、主要な焦点のひとつになることが多いものです。
「婚姻費用を払ってくれない」という場合にはどうする?
「夫婦間で適切に婚姻費用の支払いに関する内容が取り決められ、それが滞りなく支払われる」ということが、理想的な状態といえます。とはいえ、お金に関する協議は、スムーズにはいかないことも多々あります。別居する夫婦となれば、冷静な話し合いができないというのも、無理からぬところです。
そのような場合には、依頼を受けた弁護士であれば、「内容証明を送付して支払いを求める」ということや、「家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停の申し立てを行う」という方法を検討することが多いところです。通常、夫婦のうち所得が多い方は、夫婦間の協議の内容はどうあれ、夫婦のもう一方に、原則として婚姻費用を支払う法的義務があるためです。この義務の履行を求めるということになります。
まず、「内容証明郵便」は、通常の手紙であるのみならず、以下の内容を郵便局が証明してくれるサービスです。
ア どんな文書を発信したか
イ いつ発信したか
ウ 誰が発信したか
エ 誰宛てにに発信したか
内容証明郵便を適切に利用することで、「いつ婚姻費用を請求する意思を表示したか」ということを証明することができます。また、内容証明郵便が届くことで、相手側へプレッシャーを与えるという効果もあるといえます。なお、いつ請求する意思を示したかがなぜ大事なのか?は後述しています。
他方で、内容証明を送っても支払いがないという場合は、家庭裁判所に「婚姻費用分担請求調停」を申し立てるという方法を検討します。内容証明を送ることなく、始めから婚姻費用分担請求調停を申し立てるという方法もあります。
別居中の婚姻費用の分担請求調停
婚姻費用の金額が夫婦間でまとまらない場合、あるいは話合いができる状況ではない場合は、家庭裁判所を利用する手続があります。家事調停や家事審判という手続です。調停の場合は、「婚姻費用の分担請求調停」と呼ばれます。
実際には、婚姻費用の分担請求調停を行うときには、すでに夫婦関係が破たんしているということも、多いものです。このため、いわゆる離婚調停と同時に申し立てられるということも、しばしばあります。
婚姻費用をもらえる期間
婚姻費用をもらえる期間について、以下で説明します。
「いつから」もらえる?
期間のはじまりにつき、法律用語では「始期」と呼びます。婚姻費用が認められる始期は、理論的には、「相手に請求する意思を示した時点」ということになります。別居を開始したときとは必ずしも一致しないため、注意が必要です。
また、東京家庭裁判所の調停実務では、理論的な始期はどうあれ、「婚姻費用の分担請求調停を申し立てたとき」が請求が示された時期であるとして、婚姻費用の始期として扱う運用が、広く行われています。この運用には批判もあるところです。とはいえ、婚姻費用の始期の設定は、支払金額に直結します。この始期を確定できず、話し合いにならないと、調停が進まないことになります。多くの事件を扱う裁判所では、やむを得ない運用であるということのようにも思われます。
以上より、「夫婦で別居することになったが婚姻費用を請求したい」という場合には、早急に相手方に婚姻費用の請求意思があることを示しておく必要があります。この通知方法としては、上で説明した内容証明郵便を利用することが望ましいです。意思表示をしたことの証拠が残るためです。このような手続を行っていないと、調停を起こしたとしても、「請求意思はあったが、婚姻費用を支払ってもらえなかった」という事態も起きかねません。
内容証明の他にどんなものが請求意思を示した証拠になる?
内容証明郵便がないという場合には、日付がわかるものとして、LINEのやりとりなどを示すという方法があり得ます。とはいえ、内容証明郵便ほどの効力があるわけではないため、相手方が応じないとなると、裁判所に始期として認定してもらうことは難しいことが多いように思われます。
「いつまで」もらえる?
期間の終わりは、法律用語では「終期」と呼びます。婚姻費用が認められる終期は「離婚成立時」または「別居が解消され同居したとき」ということになります。
離婚が成立すると夫婦ではなくなるので、民法上の協力・扶助義務がなくなるため、婚姻費用の支払義務は消滅します。ただし、夫婦の間に子どもがいる場合には、子どものための生活費として、子どもを養育しない親には、「養育費」の支払義務が生じることになります。
婚姻費用をもらえないケース
夫婦が別居して、婚姻費用を請求した場合でも、これが認められない場合もあります。そのようなケースとして想定されるものと、実務上の扱いについて説明します。
正当な理由なく別居した場合
民法(後述)では、夫婦に同居義務が定められています。よって、正当な理由なく別居した場合、「同居義務違反」に当たると評価されることも、理論上はあり得ます。そうすると、「正当な理由なく義務に反したのであれば、婚姻費用は払わなくていい」という考え方も、理論上は成り立ちえます。
しかし、現在の実務では、ほとんどの場合で、婚姻費用の請求は認められることが通常です。DV被害者である、不倫された、といった場合でなくても、性格の不一致で別居することもあります。他にもいろいろな理由で夫婦は別居することがありますが、「正当な理由がない別居である」と判断されることは、あまりないということです。
有責配偶者が婚姻費用を請求する場合
有責配偶者、婚姻関係を破綻させ、別居せざるを得ない状況を作り出した側の配偶者が婚姻費用を請求することは、難しいです。例えば「DVした配偶者」や、「不倫をした配偶者」が婚姻費用を請求するのは難しいということです。信義則に反するという判断を受けることが多いところです。
ただし、有責配偶者が生活に困窮する場合には、生活保護費相当額の婚姻費用の支払いが認められるケースがあります。
また、子どもの生活費や監護に必要な費用が婚姻費用として認められるケースがあります。これは、要するに、離婚した場合の「養育費」に当たる金額のことです。
離婚が成立している場合
上記のとおり、すでに離婚が成立している場合は、婚姻費用は認められません。子どもがいる場合には、「養育費」を請求していくことになります。
なお、「離婚後に、婚姻期間中の婚姻費用を請求できるか」という問題については、令和2年1月23日第一小法廷決定にて、「請求できる」という判断がなされています。この事案は、婚姻費用の請求自体は離婚前になされたというものでした。
以上が婚姻費用が認められないケースや、その周辺的な内容についての説明です。では次に、婚姻費用の根底にある考え方や原則のほか、具体的な算定方法について解説します。
婚姻費用の考え方・原則
民法752条で、「夫婦は・・・互いに協力し扶助しなければならない」と定められています。これが、婚姻費用の支払義務についての基本的な根拠となります。
(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
e-GOV法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089#Mp-Pa_4-Ch_2-Se_2-At_752)
夫婦には、互いの生活水準が同等となるべく助け合う義務があります(民法760条)。この助け合いの義務を果たすべく支払われる金額が、婚姻費用です。
養育費に近いものですが、他方配偶者自身の生活保持義務が含まれることが、婚姻費用の特徴です。要するに、妻や夫の生活費分、養育費より高額に算定されることになります。そして、夫と妻だけの夫婦であっても、支払い義務が発生するものです。
民法第760条(婚姻費用の分担)
e-GOV法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089#Mp-Pa_4-Ch_2-Se_3-Ss_2-At_760)
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
民法760条には、いろいろな考慮要素が記載されています(その資産、収入その他一切の事情)。実際には、夫婦の所得を基に算定することが通常です。話し合いで金額が決まれば問題ありません。他方、これが決まらない場合には、前述のとおり家庭裁判所の調停などで決めていくことになります。
調停では最初は話し合いですが、どうしても合意が難しい場合には、家庭裁判所の審判という方法で決めてもらうことになります。決定に不服がある場合には、抗告して高等裁判所に判断を仰ぐことになります。
婚姻費用の計算・算定
ここからは婚姻費用がどのように決まるか、その計算方法を解説します。ご夫婦ごと異なるご状況でどのように婚姻費用が変わるかも併せて解説します。
婚姻費用で考慮される要素は原則「所得額」
調停や審判など、婚姻費用を裁判所で決める場合には、原則としては夫婦双方の所得額を基準にします。この夫婦の所得額を、いわゆる「算定表」と呼ばれる表に当てはめて、概算である程度機械的に金額を出します。
この算定表には、根拠となる数式が存在します。子どもの有無、人数、年齢を参照して、数式に当てはめることで、一応決まった金額が算出されます。
婚姻費用の算定表について【最新】
以下のリンク先から、裁判所の開示している算定表のpdfファイルのリンクページに移動できます(別ウィンドウが開きます)。
調停や審判の場面では、一つの決まった数値ではなく、一定の幅の中で婚姻費用や養育費を決定していくことが通常です。これは、算定表がそのような体裁になっていることに加えて、事案ごとの柔軟な対応を可能にする趣旨と解されます。
婚姻費用と養育費の状況別算定表一覧
※2021年12月現在、最高裁判所ウェブサイト「養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究」に基づき作成
事案ごとの考慮要素
婚姻費用を決定する際に、特殊事情として考慮されることがあります。代表的なものは、以下の内容です。
- 住宅ローンの金額
- 子どもの学費
- 親族関係者の特別費用
- 把握の難しい所得
- 夫婦関係破綻のきっかけ
住宅ローン
住宅ローンは、夫婦で同居している場合には、支払いが必須の経費といえます。しかし、別居するとなると、一方の配偶者にとっては事情が変わります。
例えば妻が子どもと一緒に別居し、夫が自分で住宅ローンを支払っている住宅に残った場合を考えます。住宅ローン金額分、夫の収入が単純に減ったと考えると、妻側には不公平になります。他方、住宅ローンの負担を夫の収入に一切反映させないとなれば、婚姻費用が過大になり、夫の生活が立ち行かなくなるリスクもあります。
住宅を簡単に処分できるわけでもなく、離婚の際に住宅ローンが絡むと、問題が大きくなりがちです。
子どもの学費
子どもの私立の音大などに通わせていた、といった場合が典型です。通常の婚姻費用では、子どもが通学を断念しなければならない場合も出てきます。
例えば音楽一家であったり、家族が全員特定の私立大学に通っていて、子どもも同然同じ学校に進学する前提で養育されていたといった事情があれば、裁判所に特別の支払い義務を認めてもらえる場合もあり得ます。とはいえ、支払額への影響も大きく、どうしても交渉が難航しがちなものです。
親族関係の特別費用
子どもや親に持病があり、一定程度の医療費の支払いが想定されるというケースが典型です。単純な算定表の評価だけでは、例えば病気がある子どもの生活が立ち行かなくなることもあり得ます。
把握の難しい所得
夫婦の一方が秘密で行っている副業などの収入が典型です。水商売の場合などは、所得証明があることも少ないため、明らかにすることが難しいこともあります。
婚姻関係破綻のきっかけ
不貞があって別居した場合に、その不貞した配偶者の生活費を支払わなければならないのか、という問題があります。
この点については、有責配偶者(不貞した側の配偶者など)からの婚姻費用請求は認められないという事例判断が、いくつかあります(別ウィンドウが開きます)。
判例紹介・不貞に及んだ配偶者の婚姻費用請求につき、養育費相当額にて認めた裁判例(大阪高裁H28.3.17決定,H28(ラ)38号)
婚姻費用の決め方は協議か調停による合意が望ましい
争いがある場合でも、調停での解決が望ましい
協議で婚姻費用が決まれば、あまり問題ありません。ただし、支払いを求める側が過剰な請求をして、相手方の生活が壊れてしまうようでは、意味がありません。
争いがある場合でも、調停で合意を目指すべきものと考えます。調停で合意できないと審判手続に移行しますが、そうなると時間がかかる事が避けられません。生活保持を趣旨とする婚姻費用の金額につき、不安定な時間が長期化してしまうため、あまり望ましい状況ではありません。
婚姻費用の調停で聞かれること
証拠収集・主張の方法
証拠収集の方法などについては、以下の記事をご覧ください。
以上、『婚姻費用とは?算定方法や分担請求、もらえる期間について』でした。
離婚の際には、婚姻費用以外にも、離婚手続の種類(協議離婚、離婚調停、裁判離婚など)、財産分与・養育費など離婚の際に決めるべきこと、子どもの面会交流の取り決めなど、複数の問題が関わってきます。以下のページで解説していますので、よろしければご覧ください。