適正な財産分与の実現のために・証拠収集の方法

分与対象財産の調べ方

財産の種類ごとの調査方法

 離婚するとなれば、財産分与は避けられない手続です。とはいえ、お金の支払いは、誰しも避けたいものです。このため、財産分与の局面になると、分与対象財産を少なく見せたくなるものです。このため、望ましくないことですが、財産分与となると、財産隠しがなされることもあります

 この財産隠しを防止すべく、できるだけ情報を収集するための方法につき、説明します。

別居前までに証拠を集める

 同居している夫婦であれば、財産調査をするときにも、自由度が大きいものです。しかし、ひとたび別居してしまえば、相手方の財産状況を調べることは、容易ではありません。

 このため、財産分与のための財産調査は、できる限り別居前に済ませておく必要があります。

現金を調べる

 現金を調べることは、非常に困難です。出入りを客観的に裏付けることが、非常に難しいためです。現金帳をつけておく程度が限度と思われます。

 こと財産分与の観点から言えば、高額の現金を持たない習慣を、夫婦で形成しておくべきでしょう。

預貯金(通帳)を調べる

 預貯金の流れは、通帳で相当程度わかります。できるだけ長期間の通帳の写しなどを確保しておく必要があります。通帳は、普通預金のみならず、定期預金になっている場合もあります。通帳のいろいろなページを確認しておくべきところです。インターネットバンキングを利用している場合には、パソコンから調査する方法もあります。

 一つの通帳に他の口座への送金が記載されていれば、他の口座の存在がわかることもあります。あとは順番に調べていくべき、ということになります。ただし、ネット系の銀行は通帳を発行しないため、調査が難航することもありえます。

 また、通帳で高額の現金引き出しが確認されればば、できるだけ用途を追跡調査しておくべきでしょう。

カードなどを通じて、預貯金を調べる

 クレジットカードの場合、口座引き落とし決済となっていることが通常です。この明細書が書面で郵送されている場合には、そこから口座情報がわかることがあります。そのような信販会社発行書面のコピーや写真があると、調査の手がかりになることがあります。

 公共料金や保険料など、やはり口座引き落とし決済となっていることがあります。支払先により情報開示の仕方はまちまちですが、気になる書面などがある場合には、とりあえずコピーなどを確保しておくことが重要でしょう。

不動産を調べる

 不動産は、文字通り動けません。そもそも財産としても目立つため、調査はそこまで困難ではないとは思われます。

 すごい資産家で、マンションを買い集めているという場合には、財産の把握が難しいかもしれません(事案は少ないと思われますが)。そのような場合には、固定資産税の請求書が手がかりになることもあるでしょう。

株式、出資金を調べる

 株式であれば、証券会社からの通知で内容がわかることもあるでしょう。また、株主優待や株式配当の通知があれば、そこから保有株式の詳細がわかることもあります。

 出資金については、信用組合などのしっかりした組織に対するものであれば、株式と同様に、通知などである程度はわかると思われます。他方、支払先の実態もよくわからないようなリスキーな投資などの場合には、詳細を把握することは、難しいかもしれません。

退職金を調べる

 調停等になれば、勤務先から照会を受けることが可能なことが通常です。退職金の場合、調査は容易なため、その勤務先を退職されないことを第一に考えるべきでしょう。退職されて現金になると、調査が困難になるためです。

保険契約を調べる

 保険会社から定期的に通知があるはずなので、そこから保険契約の特定が可能です。ただし、通知を勤務先にするケースもあるので、隠れている保険契約もありえます。

 口座の保険料の引き落としに見慣れない保険会社名や高額な引き落としがあれば、そこから調査できることもあります。

自動車を調べる

 車検証で、車の存在と種類と年式を特定できます。自動車が隠されている場合でも、自動車保険の通知や保険料引き落としの事実から調査できることがあります。

無断で調査して、違法にならないか?

無断の調査が望ましくないことは事実

 夫婦とは言っても他人ですので、あまり入り込んだ財産調査は望ましいものではありません。とはいえ、夫婦であれば婚姻中に形成した財産は共有であるのが、法律の原則です。また、相手方が財産を隠すことが明白な場合などは、離婚後の生活を維持するための自衛策として、ある程度の調査がやむを得ないこともあるでしょう。

民事の請求なら、ある程度の調査は許容される

 刑事手続で警察が無断の調査をしたとなれば、違法捜査として証拠能力が否定されることもあります。他方、財産分与請求など、民事の請求手続のためであれば、無断の調査であっても、ある程度は許容されます
 ただし、無理に通帳などを奪うなどすれば、夫婦間でも窃盗罪などなり得ます。また、別居後に財産調査のために相手方の住居に無断で入れば、住居侵入罪に問われることもあります(だからこそ、同居の時期に調査は済ませておくべきです)。
 このように、度を過ぎた調査は控えるべきです。

補足

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離婚

適正な財産分与の実現のために・基礎知識