平田信の裁判で実施された死刑囚の証人尋問について

極めて異例な、死刑囚の証人尋問

 オウム真理教幹部の被告人・平田信の裁判が行われています。

 この事件で大きなトピックスとなっているのは、死刑囚の証人尋問が行われている点です。死刑囚の証人尋問などという手続は、極めて異例です。裁判例は調査していませんが、前例はないか、存在するとしても極めて少数であると思われます。

 裁判手続も、2か月近く続く裁判員裁判とのことです。このような長期間の裁判員裁判も事例が多いものではなく、異例づくしの事件と思われます。

死刑執行と刑事訴訟法

 刑事訴訟法上は、死刑は、その判決が確定してから半年以内に、法務大臣の命令により執行しなければなりません。ただし、半年以内の死刑執行を義務付ける法規定は、1960年以降は、守られた例はないとのことです。

刑事訴訟法475条(死刑の執行)

1項 死刑の執行は、法務大臣の命令による。

2項 前項の命令は、判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であった者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない。

476条

 法務大臣が死刑の執行を命じたときは、5日以内にその執行をしなければならない。

死刑執行と死刑制度のあり方

 今回の尋問は、刑の執行に関して法律が守られていれば実現しなかったものです。そして、尋問手続の場では、これまでになかった証言も出てきているとのことです。このような事件の経緯は、死刑に関するあり方の論議にも影響を与えるものと思われます。

 ただし、少し気になったのは、「死刑囚であることが証言の信用性評価に影響を与えるかどうか」という点です。

 死刑が確定している者の語る内容につき、どのように判断すべきかという問題は、先例がほとんどなく、難しいものといえます。一方では、死刑が決まっている以上、真実を話すだろうと考えることもできるでしょう。他方、死刑囚という特異な環境に置かれる中で、記憶などが混濁してしまうため、信用性は乏しいと考えることもできるでしょう。

 ただし、実際には、証言の信用性はさまざまな観点から評価されますので、「死刑囚」という属性のみで評価の結論が変わることは考えにくいでしょう。とはいえ、その異例さもあいまって気になったので、覚書のように残しておきます。