はじめに

 今回紹介する裁判例は、普通預金債権等につき、遺産分割の対象になると判断した、はじめての最高裁の決定です。このように記載しても、本決定の重要性は伝わりにくいかもしれません。

 とはいえ、実際には、この決定は、実務に与える影響が非常に大きい、極めて重要なものです(判例タイムズ1433号44頁)。

本決定の影響

 本件は、遺産分割協議に関する法的判断です(相続人は2人)。本決定により、紛争当事者の遺産の取り分は、概略、以下のように変更されることが予想されます。

 なお、「予想」としているのは、具体的な遺産分割の内容は、破棄差し戻しされた大阪高裁で改めて判断されるためです。

原審段階 
請求者(抗告人)の相続分 約250万円相当の不動産 約2,000万円の預貯金
相手方の相続分 被相続人Aからの生前の特別受益約5,500万円 約2,000万円の預貯金
最高裁の判断枠組み
請求者(抗告人)の相続分 約250万円相当の不動産 約4,000万円の預貯金
相手方の相続分 被相続人Aからの生前の特別受益約5,500万円  
具体的な差額 最高裁決定の方が、請求者にとって約2,000万円有利
差額が生じる要因 普通預金債権の分配を特別受益の調整に用いることが可能になったため

従来の遺産分割での預貯金債権の扱い(前提1)

 遺産分割の手続は、概ね、以下のように進みます。

  1. 被相続人の死亡時の遺産総額の確定
  2. 生前に贈与を受けていた相続人の利益分(特別受益)を遺産に参入する
  3. 遺産の形成に特別に寄与した人の貢献分の算定(寄与分)
  4. 遺言や法定相続分に従った具体的な遺産の分配

 従来は、預貯金は、遺産分割の対象にならないとされていました(預金は「可分債権」であり、法定相続分に従って当然に分割されるため、共有財産の分配を決める遺産分割の手続には服さない、という説明がされていました)(平成16年4月20日最高裁判決)。

 実際には、このような扱いは不具合が多いため、遺産分割調停などでの扱いは、調停当事者の合意により、預貯金も遺産分割の対象として扱い、具体的な遺産分割の分割方法を決める扱いが通常でした。

 しかし、同意により遺産の取り分を減らされる当事者とすれば、同意しないことも当然あります。この場合は、高額な特別受益を受けている相続人とそうでない相続人との間で、不公平な結論となります。まさに本件のような場合が好例です(なお、預貯金で調整しても、まだ請求者の方が取得額は少ない状況です)。

現金と預貯金債権の違い(前提2)

 現金は、遺産分割の対象となります。現金は価値そのものであり、「債権」ではないためです。被相続人が持っていた現金は、遺産分割によらなければ、具体的な相続人の取り分は決まりません。

 預貯金が現金に非常に近い存在であるにもかかわらず、現金化されているかどうかで、大きく結論が違うというのが、これまでの実務の理論的帰結とされていました。

金融機関の対応(前提3)

 金融機関としては、預貯金が可分債権である以上、相続人の一部から法定相続分の預貯金の払い戻し請求を受けた場合には、これに応じる必要がありました。実際には、遺産分割が確定しない段階で一部の相続人に払い戻しをすることは、トラブルの種を金融機関が抱えることにもなります(本件のような不公平な状況の作出に、金融機関が関与してしまうこととなってしまいます)。

 とはいえ、相続人からの請求があった場合、金融機関としては、これを拒むことはできませんでした。

金融機関などの要請(前提4)

 以上の不都合もあり、特に金融機関の関係者より、これまでの裁判所の解釈に対して、批判的な見解が出されていました。

 このような背景の下でなされたのが、今回の決定です。

決定の要旨

預貯金債権等が遺産分割の対象となるかについて

 共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解することが相当である。

本決定に関するコメント

裁判実務の変更

 既に述べたとおり、これまでも、預貯金に関する扱いの不具合は、遺産分割調停時に「預貯金も遺産分割の対象とする」という同意を取り付けることで、これを避けるべく運用されていたものです。今回の決定により、一部相続人が反対した場合でも、この扱いを行うことができるようになりました。

 遺産分割の内容を具体的に決める際に、現金や預貯金は微調整に便利なものです。不動産などを細かく分けることは事実上不可能であるところ、現金や預貯金であれば、1円単位の遺産分配の調整にも使うことができます。

 一部強硬な相続人がいた場合でも、預貯金を遺産分割に「利用する」ことができるようになり、遺産分割の柔軟な運用が可能になったといえます。

預貯金の現状にあった解釈

 現在では、預貯金は現金とほぼ同価値です。デビットカードや各種引落サービスなどもあり、現金との差異はほとんどありません。実際には、現金よりも預金にしておいた方が安全なうえ、家計管理などもしやすいものです。

 決定書の中では、このような預貯金の現代的な意味にも踏み込んだうえで、遺産分割の局面になった場合に放置されていたこれまでの不具合につき、正面からこれを否定しています。

 このような判断は、説得的なうえに、現代の一般的な感覚にもマッチしたものと解されます。

金融機関の実務の変更

 今後は、金融機関は、相続人のうちの1人が遺産分割未了前に被相続人の預貯金の払い戻しを請求しても、これに応じることはなくなったと解されます。相続関係で特に争いがない場合でも遺産分割協議書などの提出を求めることが予想され、手続の煩雑さは増したとも解されます。

補足1

 本件は、普通預金及びゆうちょ銀行の定期貯金債権に関して判断したものです。その後の最高裁判決により、ゆうちょ銀行以外の定期預金及び定期積金についても、同様の判断を行っています。

判例紹介・相続に関し、定期預金及び定期積金債権につき、遺産分割の対象となるとした判断について(最高裁H29.4.6判決)

補足2

 以下のページも、よろしければご覧ください。

相続

相続等に関する裁判例

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