公道カートの法律的な位置づけはどうなっているのか

公道カートは、「法律のはざま」にあるといわれる

報道の状況

 公道カートが、話題になっています。都心を疾走する外国人観光客も多く、交通事故の発生も懸念されています。また、人気ゲームである「マリオカート」を模したコスチュームなどを着ているケースもあり、任天堂が訴訟提起したことでも話題となりました。

公道カートの法律的な位置づけ

 この公道カートについては、安全確保が危ういという文脈で、以下のように説明がされることがあります。

  • シートベルトの着用義務がない
  • ヘルメット着用義務がない

 ただし、具体的な法的根拠が示されたネット上の記載は、あまり見ません。そのため、私が調べてみました。

 なお、上記の指摘は、結論から言えば事実のようです。

公道カートは、道路交通法上は自動車である

道路交通法での定義

自動車と原動機付自転車の区別

 道路交通法では、原動機付自転車など、列挙された種類の車両に該当しないものを、一律に「自動車」としています

道路交通法第2条(定義)

1項 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

9号  自動車 原動機を用い、かつ、レール又は架線によらないで運転する車であつて、原動機付自転車、自転車及び身体障害者用の車いす並びに歩行補助車その他の小型の車で政令で定めるもの(以下「歩行補助車等」という。)以外のものをいう。

 次に、「原動機付自転車」については、以下のように定義されています。

道路交通法第2条(定義)

1項 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

10号  原動機付自転車 内閣府令で定める大きさ以下の総排気量又は定格出力を有する原動機を用い、かつ、レール又は架線によらないで運転する車であつて、自転車、身体障害者用の車いす及び歩行補助車等以外のものをいう。

四輪車の場合の自動車と原動機付自転車の区別

 まず、原動機付自転車について、内閣府令が定める大きさ(上記条文太字部分)は、以下のとおりとされています。

道路交通法施行規則第1条の2(原動機付自転車の総排気量等の大きさ)

 道路交通法 (昭和35年法律第105号。以下「法」という。)第2条第1項第10号 の内閣府令で定める大きさは、二輪のもの及び内閣総理大臣が指定する三輪以上のものにあつては、総排気量については0.050リツトル、定格出力については0.60キロワツトとし、その他のものにあつては、総排気量については0.020リツトル、定格出力については0.25キロワツトとする。

 つぎに、四輪車の場合には、輪距(車両における左右の車輪の中心間距離、トレッドともいいます)により、原動機付自転車への該当性が、2種類の場合に分岐します。これは、平成2年12月総理府告示第48号を根拠とします。同告示は、上記の道交法2条でいう「内閣総理大臣が指示する三輪以上のもの」(上記条文太字部分)の内容を示します。

平成2年12月総理府告示第48号

 車室を備えず、かつ、輪距(二以上の輪距を有する車にあっては、その輪距の内、最大のもの)が0.50メートル以下である三輪以上の車及び側面が構造上開放されている車室を備え、かつ、輪距が0.50メートル以下である三輪の車

 まず、輪距が0.50メートル以下の場合で、車室を備えない四輪車の場合には、道路交通法施行規則1条の2の規律により、総排気量(定格出力)が0.050リットル(0.60キロワット)以下のものは、原動機付自転車にあたります。

 次に、その他の四輪車の場合は、道路交通法施行規則第1条の2の「その他ものにあっては」(上記規則太字部分)以降の規定により、車室の有無に関わらず、総排気量(定格出力)0.020リットル(0.25キロワット)以下の場合は、原動機付自転車とするとされます。

「ミニカー」という道路交通法上の位置づけ

 以上の解釈より、「原動機付自転車に該当しない四輪車」の範疇が出てきます。これらは、普通自動車になります。さらにその中で、道路交通法附則第2項及び別表第二「略語」にて、「ミニカー」とされる範疇が規定されます。

 具体的には、以下のとおりです。すなわち、四輪車の場合は、総排気量(定格出力)が0.020リットル(0.25キロワット)を超え、0.050リットル(0.60キロワット)以下の原動機を有する車両で、次のものを、「ミニカー」といいます。

1 輪距が0.50メートル以下で、車室を有する四輪車
2 輪距が0.50メートルを超える四輪車(車室の有無によらない)

公道カートへのあてはめ

 最近話題になっている公道カートには、車室があるようには見えません

 また、これらの公道カートは、インターネットなどでの写真をみるに、大人一人がゆったりと座っているように解されます。このため、輪距が0.50メートルを超えているものであると解されます。さらに、インターネットにある仕様書などによると、総排気量が0.050リットル弱であるようです。

 よって、これらの公道カートは、道路交通法上は「ミニカー」であり、「普通自動車」に該当しているものと解されます。別の表現をすると、公道カート業者は、「ミニカー」の提供をサービスとしていると解されるものです。

公道カートにはシートベルトの設置義務がない

道路交通法におけるシートベルト設置義務

 自動車のシートベルト設置義務について、道路交通法は、道路運送車両法を引いて根拠付けています。

道路交通法71条の3(普通自動車等の運転者の遵守事項)

 自動車(大型自動二輪車及び普通自動二輪車を除く。以下この条において同じ。)の運転者は、道路運送車両法第三章及びこれに基づく命令の規定により当該自動車に備えなければならないこととされている座席ベルト(以下「座席ベルト」という。)を装着しないで自動車を運転してはならない。ただし、疾病のため座席ベルトを装着することが療養上適当でない者が自動車を運転するとき、緊急自動車の運転者が当該緊急自動車を運転するとき、その他政令で定めるやむを得ない理由があるときは、この限りでない。

 次に、道路運送車両法では、以下のように規定されています。

道路運送車両法41条(自動車の装置)

 自動車は、次に掲げる装置について、国土交通省令で定める保安上又は公害防止その他の環境保全上の技術基準に適合するものでなければ、運行の用に供してはならない。

 そして、道路運送車両の保安基準(昭和26年日運輸省令第67号)にて、シートベルトの設置義務について規定されています。

道路運送車両の保安基準第22条の3(座席ベルト等)

  次の表の上欄に掲げる自動車(二輪自動車、側車付二輪自動車及び最高速度20キロメートル毎時未満の自動車を除く。)には、当該自動車が衝突等による衝撃を受けた場合において、同表の中欄に掲げるその自動車の座席(第22条第3項第1号から第3号まで及び第6号に掲げる座席(第2号に掲げる座席にあつては、座席の後面部分のみが折り畳むことができるもの及び通路に設けられるものを除く。))並びに幼児専用車の幼児用座席を除く。)の乗車人員が、座席の前方に移動することを防止し、又は上半身を過度に前傾することを防止するため、それぞれ同表の下欄に掲げる座席ベルト及び当該座席ベルトの取付装置を備えなければならない。

【表は省略】

 他方で、道路運送車両法における原動機付自転車については、シートベルトの設置義務に関する情報は見当たりません

道路運送車両法における「自動車」とミニカーの関係

 道路運送車両法には、「ミニカー」という範疇はありません。総排気量(定格出力)0.050リットル(0.60キロワット)以下のものは、一律で原動機付自転車とされています。

道路運送車両法2条(定義)

3項  この法律で「原動機付自転車」とは、国土交通省令で定める総排気量又は定格出力を有する原動機により陸上を移動させることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用いないもの又はこれにより牽引して陸上を移動させることを目的として製作した用具をいう。

道路運送車両法施行規則1条(原動機付自転車の範囲及び種別)

道路運送車両法 (昭和26年法律第185号。以下「法」という。)第2条第3項 の総排気量又は定格出力は、左のとおりとする。

1 内燃機関を原動機とするものであつて、二輪を有するもの(側車付のものを除く。)にあつては、その総排気量は0.125リツトル以下、その他のものにあつては0.050リツトル以下

2 内燃機関以外のものを原動機とするものであつて、二輪を有するもの(側車付のものを除く。)にあつては、その定格出力は1.00キロワツト以下、その他のものにあつては0.60キロワツト以下

 よって、道路交通法における「ミニカー」は、四輪車であるため、上記道路運送車両法施行規則1条の太字部分以下の規制によると、総排気量(定格出力)が0.050リットル(0.60キロワット)を下回る都合上、道路運送車両法上は、すべて「原動機付自転車」とされます

結論

 以上より、ミニカーの場合は、道路運送車両法における「自動車に対する規律」が及びません。このため、道路交通法71条の3でシートベルト着用義務が認められるということが、ありません

公道カートにはヘルメット着用義務がない

 ヘルメットの着用義務は、道路交通法にて、原動機付自転車に対して義務付けられています。

道路交通法第71条の4(大型自動二輪車等の運転者の遵守事項)

2項 原動機付自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶらないで原動機付自転車を運転してはならない。

 しかし、すでに検討したとおり、道路交通法上は、ミニカーは原動機付自転車ではありません。このため、ミニカーについては、道路交通法による、ヘルメット着用義務の規制がかかることもありません

結論

 これまでの検討で、以下のとおりの結論となると解されます。すでに冒頭で記載したものを、やや詳細にしたものです。

  • 公道カートは、国土交通省が所管する道路運送車両法上は原動機付自転車であるため、シートベルトの着用義務がない
  • 公道カートは、警察庁が所管する道路交通法上は自動車であるため、ヘルメット着用義務がない

おわりに

 このようなまとめ方で正しいのか、疑問もあります。道路交通法の条文解説を参照しているため、ある程度はあっていると思われますが、細部には自身がありません。また、条文の解読が細かく、非常にわかりにくくなってしまっています。

 いずれにせよ、法律の穴というのは、たまにはあるということが、わかっていただけたかと思われます。今後、公道カートが社会問題化することで、何らかの規制がかかることが想定されます。そうなれば、今回の検討は時代遅れということになります。

 まあ、ある時点でこのような法律の穴があったということが示されれば、この記事の価値はあるように思われます。