使い道がなく、売りに出すことも難しい土地や建物が、地方を中心に増えています。地域に住んでいて、このような処分の難しい不動産の問題に現に向き合っている人もいると思われます。
また、都市部に住んでいても、地方に住む親からこのような不動産を相続することで、問題に直面する人もいると思われます。
https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/R7Y6NGLJ6G/episode/te/LR3GMQQ8NZ/
また、遠い先祖が所有していたが、名義が変わらないまま相続が繰り返された結果、誰が管理すべきかもわからず、現に管理されていない不動産もあります。このような土地のことは、「所有者不明土地」と呼ばれます。
現在、日本国内にある所有者不明土地は、実に国土の24%に上るともされます。このような不動産は、空き家問題や耕作放棄地といった、管理する主体がない土地の問題と密接かつ複雑に絡み合いながら、今後さらに増えていくといわれています。
国は、このような状況を受けて、2024年4月から、相続後の不動産の名義変更を義務化しました。それでも、問題の根本的な解決に向けた道筋は、見えていないというべき状況です。
ここでは、「売りたくても売れない」、「遠くに住んでいて管理できない」といった不動産、いわゆる「負動産」の問題について記載します。また、このような不動産への対処方法や、利用できる国の制度について、弁護士が解説します。

写真はイメージです(photoACより)
目次
地方や田舎での不動産相続を取り巻く実情
不動産をめぐって生じる問題は、地域により大きく変わります。特に、山梨県を含む地方部では、昨今は、以下のような不動産相続を取り巻く実情が挙げられます。
- 農地や山林の多くは、使い道がない(宅地でも同様のことがある)
- 宅地だが、立地条件や公道との接道の問題から売りに出すことが難しい(固定資産税の負担は毎年生じる)
- 地元を離れて遠くに住んでいて、相続したが管理できない
- 先祖伝来の不動産だが、草取りなどの管理の負担や税金の負担が大きいので処分したい
これらの1~4のような特徴を持った不動産は、『負動産』と呼ばれることもあります。
『負動産』をめぐる典型的な問題
「負動産」というのは、「資産価値のない不動産」を指す造語です。「ふどうさん」と読んだり、「不動産」との区別で「まけどうさん」と読むこともあります。
負動産となると、資産価値がなく、処分が困難ということだけにとどまらず、所有していることで管理の手間や費用のほか、固定資産税の負担がかかることもあります。
負動産をめぐる典型的な問題は、以下のようなものです。
固定資産税の負担が生じる
固定資産税は、不動産を所有している場合には、原則として負担しなければならない税金です。居住できる建物であったり、売買できる場合や賃貸できる場合など、価値が見出される場合はまだよいのですが、不動産自体に利用価値や交換価値がない場合、単純に経済的な負担となります。
修繕費・管理費がかさむ(主に建物)
古い建物の場合、定期的に修繕が必要になります。例えば瓦屋根の場合には、台風などの風で吹き飛ばないように手当が必要です。屋根が痛んだ場合には、雨漏りやシロアリの発生で建物がすぐに傷んでしまうため、屋根の修繕や張り替えもしなければなりません。道路や隣の家に草木がはみ出してしまう場合には、剪定も必要になります。
万が一倒壊した場合には、高額な賠償義務が生じることもあります。修繕の他に、火災保険に加入することも検討すべきです。
賃貸に出すとなれば、改修費用が高額になる場合も多くあります。
土地の場合でも、定期的な草刈りが必要になります。草が生い茂っていると、雑草や害虫の温床となり、周辺住民にも迷惑をかけることになりかねません。
利用価値が低い・売却が難しい
地域に不動産需要がない場合や、物件の管理状態が悪いとなると、処分したくても買い手や借り手がつかないことがあります。一般論としては、人口減少地域や高齢化が進む地域では、特にこのような傾向が強くなります。
売れない土地〜売却の意思はあっても、買い手・引き取り手が見つからないケースが多い
「負動産」の特徴の一つとして、「売却が難しい」ということを挙げました。この「売却が難しい」という状態につき、もう少し理由を具体的に考えると、以下のようになります。
そもそも需要がない(利用価値がないと評価されている)
上記のとおり、土地の立地環境の問題で、不動産の需要がそもそもないというケースです。多くの日本国内の地方部で、このような現象が起きているといえます。
公道に面していないため住宅用土地として販売できない
需要がある地域の場合でも、土地が公道に面していない場合、処分が難しくなります。建築基準法では「接道義務」が定められているため、建物を建てるためには幅4m以上の道路に2m以上接している必要があります。

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接道義務を満たさない土地でも、当事者同士で納得していれば、売買契約は有効に成立します。
しかし、多くの人は、宅地を購入するときには、建物(居宅)の建築を目指します。この場合に利用されることが多い住宅ローン契約では、「購入しようとする土地が接道義務を満たすかどうか」が融資条件の一つとなります。そもそも、接道義務を満たさない物件は建築許可が基本的に下りないため、建物を建てること自体、難しくなります。
また、幅4m以上の道路に2m以上接している道路が「公道」ではなく「私道」の場合、接道義務は満たすため、建築基準法上の道路として認められば、その物件での建築許可は下りますが、それが「共有私道」の場合には、他の私道所有者全員の同意が必要になります。また、私道で接道義務を満たす物件は住宅ローンの審査が厳しくなったり、融資額が減額されることがあります。
「建築基準法第43条但し書き許可」といった許可を得る方法もありますが、ローンの審査自体が厳しくなるのは変わりありません。
このような事情より、相当に好条件の土地ならともかく、一般的な条件の土地では、「公道に接していない」となると、宅地として買い手を見つけることは難しくなります。要するに、資産的価値が大きく下がるということになります。
なお、「接道義務は満たさない土地だが、すでに建物が建っている」という不動産は、「再建築不可物件」とされます。その建物自体の売買はできますが、新たに建物を建てることができないため、やはり売却は難しくなります。
想定される対策としては、隣地を購入して接道義務を満たしたり、道路幅を広げるために土地を後退させる(セットバック)というものがあります。とはいえ、多くの費用がかかるケースも多く、必ずしもこのような対策ができる土地ばかりではないのが実情です。
所有者不明土地とは?
所有者不明土地とは、不動産登記簿で所有者が特定できない土地を指します。また、登記簿上は所有者の特定ができる場合でも、この名義人に連絡が取れない土地の場合も該当します。
所有者不明土地は、その性質上、放置されてしまうケースが多いです。建物が建っていても荒れてしまうことが多く、管理されていない土地には雑草が生い茂ることになります。そうなると、近隣住民には不安を与え、防災・衛生面でも問題を生じさせます。また、公共事業や地域開発の妨げにもなりかねないなど、さまざまな問題を引き起こします。
国土交通省の調査(2021年)によると、所有者不明土地は、実に国土の24%にも上るとされます。単純に面積だけで考えると、九州全土に匹敵することになります。このような土地は、人口減少や高齢化により今後も増加が予想されます。

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所有者不明土地の問題が現実化する状況を踏まえて、法制度も少しずつ整ってきています。まず、不動産の相続登記の申請が、2024年4月1日から義務付けられました。
相続登記とは、親などが亡くなった場合に、その人が所有していた不動産の名義を、相続人の名義に変更することです。
相続するだけで不動産の名義が変更されるわけではなく、その土地を管轄する法務局への申請が必要です。相続人は、相続があった場合にはこの申請を放置せず、適切なタイミングで行わなければならくなったということです。
所有者不明土地・建物管理制度とは?
所有者不明土地・建物管理制度は、所有者不明土地や建物を適切に管理し利用していくための新しい制度です。所有者不明土地の増加を食い止めることを目的に2021年に民法が一部改正され、2023年4月に施行されました。
以下のリンクのとおり、法務省のホームページにも、この制度がまとめられています。
所有者不明土地の解消に向けて、不動産に関するルールが大きく変わります
(令和3年民法・不動産登記法 改正|相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律 制定)
法務省HP
制度の主な点としては、以下のとおりです。
土地の管理者の指定
利害関係人の申請により、裁判所が所有者不明土地・建物の管理人を指定します(弁護士や司法書士が想定されています)。これまでの不在者財産管理人制度などが、人や亡くなった人を基準に設計されていた制度である一方、この制度は、特定の土地や建物を基準に設計されています。このため、ある人の名義の土地をこの制度で管理するという場合でも、その人の他の財産には影響を及ぼしません。
また、公共事業の実施といった理由などで、申請権者となる「利害関係人」に、その土地や建物の取得を希望する者も含まれるという点も、大きな特徴です。これまでの類似の制度の申請人は、名義人の親族や相続人に基本的には限定されていたという点と比較すると、設計思想がかなり異なっているといえます。
土地の利用促進
裁判所から選任された管理人は、対象となる土地や建物の管理を行います。草木の剪定や不法投棄物の処理をするなど、その土地の適切な管理を行うことになります。また、管理人は、裁判所の許可を得ることで、所有者不明土地を売却することも可能です。
所有者不明土地管理制度による具体的な効果例
所有者不明土地管理制度を活用することで、事業者が山林の事業用地を取得しやすくなったり、工事用道路の確保をしやくすなるということがいえます。以下のような例が考えられます。
ケース1: 隣接地が所有者不明で草木が伸び放題の場合に、裁判所に管理人を選任させ、管理人には草刈りや清掃の対応をしてもらう。

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ケース2::事業用地、開発予定地の用地の中に所有者不明がある場合、必要であれば管理人が売却手続を進めることができる。
このように、所有者不明土地を活用するための制度が整備されています。他にも、「親から相続したが、用途がなく困っている不動産」についても、令和5年に創設された相続土地国庫帰属制度による対応が可能となりました。一定の条件を満たすことで、不動産を国に引き取ってもらい、相続人は土地の管理負担を免れるという制度になります。
相続土地国庫帰属制度とは?
「相続土地国庫帰属制度」とは、相続や遺贈によって所有権を得た土地につき、これを国(国庫)に引き渡す制度です。所有者不明土地を増やさない対策として、関係法令が令和5年4月に施行されました。
相続土地国庫帰属制度ができる以前は、相続した土地の所有権を手放したいという場合には、他人(法人を含む)への売買や贈与という方法を取る必要がありました。自治体や国が受け付けてくれれば、「寄付する」という選択肢もあります。とはいえ、好立地の土地であれば別として、管理コストがかかる土地(農地や山林など)だと、寄付を受け入れてくれず、門前払いとなってしまうことも、しばしばあります。
他にも、「相続放棄する」という対応もありえます。しかし、相続放棄の場合、すべての遺産を放棄する必要があります。「土地だけ放棄する」ということはできないため、相続人の希望に沿った柔軟な解決は困難であるというのが実情です。
このように、特に地方部の「負動産」に分類されてしまうような土地となると、これを一旦相続したとなれば、その後に手放すことは、なかなか困難でした。とはいえ、相続土地国庫帰属制度を利用すれば、要件が満たされた場合には、土地を国庫に帰属させることができるようになります。国ということであれば、管理主体としては非常に高い信頼がおけるといえます。
今後、過疎化の進行や地方の高齢化で、土地需要はどうしても低下していくといえます。多くの土地について、所有者による適切な管理が困難になることが想定される中で、所有権それ自体を処分することを実現するために制定された制度ということになります。
どのような者がこの相続土地国庫帰属制度を利用できるの?
土地の所有権を持つ「相続人」であれば申請可能です。他方で、法人や(相続ではなく)売買によって土地の所有権を得た者は、この制度は利用できません。また、土地が共有地の場合は、すべての相続人(共有者)にて申請する必要があります。
なお、この制度が開始する前に土地を相続した方も、申請は可能です。

相続土地国庫帰属制度については、法務省のホームページにも説明のためのパンフレットがアップロードされています。以下のリンクのとおりです(5ページ目をご覧ください)。
法務省HP
このパンフレットのうち、「よくある疑問」中のQ&Aの一部を、以下に転載します。
qだれでも申請できるの?
a基本的に『相続や遺贈によって土地の所有権を取得した相続人』であれば、申請可能です。制度の開始前に土地を相続した方でも申請することができますが、売買等によって任意に土地を取得した方や法人は対象になりません。
また、土地が共有地である場合には、相続や遺贈によって持分を取得した相続人を含む共有者全員で申請していただく必要があります。
qどんな土地でも引き取ってくれるの?
a次のような通常の管理又は処分をするに当たって過大な費用や労力が必要となる土地については対象外となります(要件の詳細については、法務省HPをご覧ください。)。申請後、法務局職員等による書面審査や実地調査が行われます。
<国庫帰属が認められない土地の主な例>
- 建物、工作物、車両等がある土地
- 土壌汚染や埋設物がある土地
- 危険な崖がある土地
- 境界が明らかでない土地
- 担保権などの権利が設定されている土地
- 通路など他人による使用が予定される土地
q手続にはお金がかかるの?
a申請時に審査手数料を納付いただくほか、国庫への帰属について承認を受けた場合には、 負担金 (10年分の土地管理費相当額)を納付いただく必要があります。具体的な金額や算定方法は、法務省HPをご覧ください。
相続土地国庫帰属制度を利用する際に弁護士に依頼するメリット
国庫帰属させることを希望する土地が共有地の場合には、すべての相続人(共有者)が同意し、申請する必要があります。また、現況確認や書類作成・申請など、手続はそれなりに複雑です。用途を見つけることが難しい土地を国に引き取ってもらうという制度の性質上、どうしても申請のために負担がかかることは、やむを得ないといえます。
弁護士であれば、申請のための書面作成について、助力することができます。また、現況の報告のために写真撮影などの資料収集が必要となりますが、重要になる資料について、法の求める要件に沿って助言することが可能です。実際の資料収集の局面では、どうしても所有者の方に対応してもらうことも多くなりますが、できるだけ実際の手間を軽減できるように、代理人として動くことが可能といえます。
少子化や人口減少が進む中、土地相続や管理のあり方が問われています。当事者の方は、新たな国の制度などを知った上で、なるべく負担なく、適切に対処していくことが望ましいといえます。