平成27年6月の道路交通法改正により、悪質な自転車運転者に講習が義務化されました。
具体的には、自転車の運転者が飲酒運転や信号無視などといった危険行為(違反行為)を、『3年以内に2回以上』行った場合、自転車運転者講習の受講命令を受けることが義務付けられました。
また、受講命令に違反した場合には、5万円以下の罰金に処せられることがあるという規定になっています。
免許も不要で、だれでも身近に乗れる自転車だからこそ、危険運転について知っておくことが重要といえます。ここでは、違法な飲酒運転について、実際の事例・判例を交えて弁護士が解説します。
取締り対象は16歳以上の自転車運転者を想定。信号無視やスマホながら運転、イヤホンをした運転、一時不停止、整備不良自転車の運転(ブレーキが利かないなど)、歩道での通行など、「事故につながりかねない重大な違反」が対象となります。
反則金は5,000〜12,000円ほどが検討されています。
目次
そもそも飲酒運転とは?
『飲酒運転』とは、広い意味では、お酒を飲みアルコールが体内に残っている状態で車両を運転する行為のことを指します。
アルコールの影響で、判断能力が減退し、道路の危険な状態を適切に把握できないことが起こりえます。また、アルコールの影響により、危険と判断できた場合でも、適切にハンドル操作ができないということが起こりえます。これらの事情は、すべて危険な交通事故を誘発するものです。このような事態を避けるため、飲酒運転は禁止されています。
飲酒運転を禁止する規定のある法律は、道路交通法です。これに違反して飲酒運転を行った場合には、厳しい処罰を受けることになります。
自転車の飲酒運転は違法。罰金・罰則について
飲酒運転が禁止される『車両』には、自動車・バイク・自転車が含まれます。
このため、平成26年の道路交通法改正以前から、飲酒状態で自転車を運転することは違法でした。法改正前から、自転車で飲酒運転をした場合、道路交通法により「5年以下の懲役又は100万円以下の罰金」の刑罰が定められています。
第二条八 車両とは自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバスをいう。
(中略)
第二条十一 軽車両とは次に掲げるものであつて、移動用小型車、身体障害者用の車及び歩行補助車等以外のもの(中略)
イ 自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽引され、かつ、レールによらないで運転する車
(中略)
第六十五条 何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
(中略)
第百十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等を運転した者で、その運転をした場合において酒に酔つた状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう)にあつたもの
道路交通法
上記のとおり、アルコールを摂取した状態の場合、判断力が低化し、重大事故につながるリスクが高まります。これは、自動車のみならず、自転車の場合でも同じことです。
今回の道路交通法の改正で、飲酒運転を含む危険な自転車運転の罰則が強化されたことになります。それ以外にも、社会的な制裁を受けるということも、充分にあり得ることです。
自転車運転者と歩行者の事故の過失割合【飲酒運転の場合】
酒気帯び・酒酔い自転車運転により物損事故・人身事故が起こった場合、飲酒運転をしていた側の過失割合は、通常の交通事故の事案よりも加算されるといえます。
交通事故の過失割合類型を掲載している「別冊判例タイムズ38号」によると、自転車と歩行者の典型的な接触事故についての基本的な過失割合は、以下のようにされています(下記の事例のカッコ内は、この書籍中の図表の番号です)。
この基本割合につき、飲酒運転の場合には、修正要素になるとされています。要するに、自転車側の非が、割合的にも増すということです。一般的には、酒気帯び運転の場合10%が、酒酔い運転の場合20%が以下のように過失割合に加算されると考えられています。
信号機のない横断歩道上の事故の場合(【68】図)
自転車運転者:歩行者=100:0
信号機のない交差点の場合(【84】図)
自転車:歩行者=85:15
自転車の飲酒運転で、懲戒処分や解雇になる?
自転車で飲酒運転をし、事故を起こしたり逮捕されて処罰などを受けるなどすると、会社判断で解雇される可能性があります。
実際、以下のニュースのように、自転車の飲酒運転をした公務員が懲戒処分(停職処分、減給処分など)を受ける例があります。高い信用を求められる公務員を中心に事例が見られますが、今後は企業にも広く浸透していくものと思われます。
https://news.yahoo.co.jp/articles/f0f889270dfc009f0ab3231b5fd4539577176cee自転車の酒酔い運転で実際に捕まった人は?判例など
自転車運転者が、高いアルコール分が検出され、著しく運転能力が障害されている「酒酔い運転」で逮捕された例があります。自転車で蛇行運転していた者をパトロール中の警察官が現行犯逮捕したという事案であり、何か具体的な交通事故から飲酒運転が発覚したという事案ではありません。
・基準値の6倍、自転車の酒酔い運転で36歳の女を逮捕(福岡県)
本来、自転車は正しく乗らないと『凶器』になりうるもの
自転車は、免許なしにだれでも気軽に乗れる乗り物です。とはいえ、乗り方によっては重大な事故につながることもあります。また、電動機付きのものや、性能上高速度が出るような仕様になっているものもあります。歩道や歩道付近を走ることが多い自転車は、歩行者との接触リスクが高い乗り物ということができます。
実際、自転車関連事故で毎年、300人以上の方が亡くなっています。
2022年の自転車関連交通事故件数は、69,985件*1、自転車乗用中死者数は336人*2,自転車対歩行者事故における歩行者死者・重傷者数は312人*2でした。
*1 出典:警察庁HP「自転車関連交通事故の状況」https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/img/jitennsyar4dlc1.pdf
*2 出典:警察庁HP「令和4年における交通事故 の発生状況について」https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bunseki/nenkan/050302R04nenkan.pdf
統計に照らしても、自転車乗用中死者数は年々減少しています。「自転車乗用中死者」というのは、「自転車と自動車の接触事故」が多くの割合を占める事故類型といえます。そうすると、自動車の安全性能が高まったことや、交通法規の遵守など、交通安全教育が浸透したことが、死者数の減少に寄与したと考えられます。
また、過去10年間で、『自転車が関連する事故件数』自体も、約5割減少しました。
これに対して、『自転車対歩行者の事故』は約1割しか減少していません。「自転車が交通事故の加害者になりうる」ということは、まだあまり浸透していないということの表れのようにも思われます。
お酒を飲んだら自転車はどうすればよいか
自転車で飲み会などに参加し、アルコールが残っている状態ということであれば、自転車は運転すべきではありません。自転車は残しておいて後日回収するか、手で押して帰るといった方法を検討すべきです。自動車で飲み会に参加した場合に、運転代行を利用するのと同じようなことです。