このサイトの執筆を担当する斉藤は弁護士ですが、歌を歌うことも聞くことも好きです。また、著作権法のことも知っています(弁護士紹介のページはこちらです)。
スマートフォンの普及により、誰でも動画をアップロードできる時代となっています。そのような動画には、歌や音楽が含まれることが、しばしば起こります。そうした楽曲の使用は、すべて著作権法違反になってしまうのでしょうか?あるいは、動画投稿者が著作権者に高いお金を支払っているのでしょうか?
結論から言えば、そうではありません。現在の日本国内の法律や運用では、適法に、また、投稿者の金銭的負担もなく、カラオケ動画を動画共有サイトにアップロードする方法は存在します。
そのような内容について、分かりやすく説明します。なお、以下では、具体例で名前を使用する場合には、敬称などは省略しています。また、ある楽曲の歌詞が問題になる場合でも、これを直接引用していません。本記事での歌詞の引用は、著作権法32条1項により許されると考えますが、一応の措置です。詳細が知りたい方は、キーワード検索などを行ってください。
目次
結論:ルールを守れば「歌ってみた」の配信は可能
本記事のまとめです。
- インターネットにアップロードなどせず、私的に楽しむ分には、カラオケ動画撮影は原則自由である
- カラオケ動画をインターネット上にアップロードする場合には、「youtube」、「tiktok」、「ニコニコ動画」などの大手サイトの場合には、「演奏部分」と「歌唱部分(ボーカル)」を自前で用意すれば可能である、ただし、JASRACやNexToneといった管理団体の利用規約に従う必要がある
- 2の場合でも、過度な替え歌など、著作者の意図に反する楽曲の改変は控えるべきである
- 「X(旧twitter)」、に「歌ってみた」動画、カラオケ動画を公開することは、著作権法の観点からは控えるべき(JASRAC/ NexToneと許諾契約を締結していないため)
- カラオケ動画を手っ取り早くインターネットにアップロードする場合は、カラオケ会社のプラットフォーム(「DAM★とも」や「うたスキ動画」など)を利用することが無難である
歌ってみた動画をYoutubeやTikTokにアップロードしてもルールを守れば著作権侵害にならない
著作権法の概略
音楽は、著作物とされます(著作権法2条1項1号)。音楽の作曲者や作詞者は、著作者といわれます(著作権法2条1項2号)。
著作者は、自身の著作物を自由に処分することができます。作曲者であれば、自分の作った曲を誰かに歌わせることもできますし、気に入らなければ歌わせないこともできます。平成27年5月ころには、「おふくろさん」という楽曲につき、歌手が作曲者に許可を得ないまま冒頭に語りを入れたために、作曲者が仮称禁止を求めたという事案がありました。
別の表現をすると、著作者でない者が、勝手に楽曲を使用して、これを発表することは許されません。インターネットに動画を公開することも、著作者の許可がなければ許されません。
JASRAC・NexToneによる一括管理
日本の楽曲の著作権の多くは、JASRACかNexToneが一括して管理しています。
このため、通常、楽曲や歌詞の一部などを使用する場合には、JASRACやNexToneに所定の使用料を支払う必要があります。漫画の登場人物が童謡の歌詞を口ずさんだ場合などに、ページの欄外に許諾の番号が書いてあるのを見たことがある人も、多いのではないでしょうか。なお、申請しても、不適切などと判断されれば、使用自体が許されないこともあります。
このような手続を踏まずに、楽曲を「無断利用」すると、場合によっては後からJASRACやNexToneからクレームを受けるなり、請求書を送付されるなりといった展開になることが予想されます。令和4年10月24日には、最高裁判所の判決で、「音楽教室の教材として楽曲を使用する場合に、教室がJASRACに使用料を支払う必要があるかどうか」という争点についての判断が出ました(著作権法35条)。裁判所の判断の詳細には立ち入りませんが、音楽教室の生徒の演奏については、JASRACは著作権料を徴収できないとされました。他方で、音楽講師の演奏については、JASRACに請求権があるとしています。
カラオケ映像の法的位置づけ
第一興商などの会社(以下、便宜上、「カラオケ会社」とします)は、作曲者などに使用料を支払い、カラオケ用の映像(以下、便宜上、「カラオケ音源」とします)を作成しています。カラオケに行ったことがある人ならばわかるであろう、カラオケを歌うときに流れる、ボーカル部分がない映像のことです。ああいったカラオケ音源は、実はカラオケ会社各社が独自に作成しています。
このため、カラオケ音源の権利は、第一興商などのカラオケ会社に帰属しています(著作隣接権)。
したがって、カラオケ音源を無断で使用することは、カラオケ会社の権利を侵害することになります。平成28年12月20日に判決があった裁判例では、第一興商(カラオケ会社)と自分が歌った映像をアップロードした個人が、当事者となったものでした(オリジナル曲の作曲者は、直接は関係ない)。
著作権違反にならない「歌ってみた」動画の利用法・アップロード方法
私的に使用する
カラオケの腕前を確かめるために、歌っている様子を録画する人もいるかと思われます。この場合は、インターネット上にアップロードはせず、自分や友人などの間だけで動画を見ていれば、何の問題もありません。
そのような私的利用の場合にまで、著作権法の規制がかかることはありません。
他方、そのような映像を多くの人に見てもらいたいと思うことも、あるかもしれません。その場合には、私的利用を超えた問題が発生するため、注意が必要となります。
JASRAC・NexTone管理楽曲を利用許諾契約に従って利用する
本来は、許可なく著作者の作成した楽曲のデータ(オリジナルのみならず、これを歌唱している動画も含む)をインターネットにアップロードすることは、すべて著作権違反になります。
ただし、大手の動画投稿サイトである「youtube」、「Instagram(インスタグラム)」、「TikTok(ティックトック)」、「ニコニコ動画」などに、条件が整った場合には、「歌ってみた」などの自作の歌唱動画を事前の契約・許諾なく、自由にアップロードできます。
これは、JASRAC及びNexToneが、YouTube、Instagram、TikTok、ニコニコ動画といった動画投稿サイトの運営会社のほか、Facebook(フェイスブック)などのSNSサービスの運営会社が、楽曲の使用許諾に関する契約を締結しているためです。
世間で聴かれる多くの楽曲がJASRACまたはNexToneという楽曲著作権管理会社が著作権を管理しているため、実際には「歌ってみた」でアップロードできる曲は非常に多いということが言えます。
ただし、一部楽曲はの著作権はJASRAC・NexToneが著作権を管理していても、許可されていない場合があるので、この次に案内する方法であらかじめ調べる必要があります。
また、X(旧twitter)はJASRAC/NexToneとも利用許諾契約を結んでいません(2024年2月15日時点)。このため、Twitterには「歌ってみた」などの歌唱動画を配信することはできません。
楽曲使用のガイドライン(別ウインドウが開きます)
JASRACと利用許諾契約をしている業者一覧(別ウインドウが開きます)
NexToneと利用契約を締結している動画配信サービス(別ウインドウが開きます)
JASRAC/NexTone管理楽曲ならどんな曲でも動画配信サービスにアップロードしてよいか?
いいえ。一部の楽曲は、動画配信について、JASRACまたはNexToneが管理していない可能性があります。JASRAC/NexToneがその楽曲の「配信」を管理していれば、ルールに基づいた投稿を行っている場合には、動画配信者は利用料を払う必要なく、利用報告もする必要なく、利用できることになります。
このため、以下の検索サイトで自身が歌いたい楽曲名を検索し、配信「○」がついているかどうか確認する必要があります。「○」であれば、JASRACまたはNexToneが配信についても管理しているため、これらの団体の管理ルールが適用されることになるためです。
JASRAC:J-WID(https://www2.jasrac.or.jp/eJwid/)にて曲名などで検索。管理状況の「配信」が〇だったらルールに基づく利用が可能
NexTone:作品検索データベース(https://search.nex-tone.co.jp/terms?4)「配信」欄が◯だったらルールに基づく利用が可能
JASRAC/NexToneどちらかが○なら、ルールに従った方法で作成された動画であれば、YouTubeやTikTokで利用できます。
アップロードに求められる条件
前記サイトに歌唱動画をアップロードする場合に求められる主な条件は、以下のとおりです。ただし、この条件は更新される可能性がありますので、必ず自身で上記サイトで最新の条件を確認してください。
- 自分で作成した音源であること
- JASRAC管理楽曲・NexTone管理楽曲であること
- 動画の内容が特定の企業やサービスなどを宣伝するものではないこと
重要な点は、歌唱部分も演奏部分も、いずれも自前で用意する必要がある、ということです。歌唱部分だけ自分のものであればよい、ということではありません。オリジナルの楽曲(インストルメンタル版)を使用すればレコード会社などの権利侵害になり、カラオケ映像に含まれる音源を使用すれば、裁判になったこともあるとおり、カラオケ会社の権利侵害となります。
演奏部分がどうしても用意できない場合は、アカペラ版にするしかありません。ヘッドフォンから音声を聞いて、歌唱部分だけを録音するなどといった方法で動画を作成することなどを検討するべきでしょう。
合わせ技による方法
楽器の演奏が得意な人が、ある楽曲のインストルメンタル版を「youtube」などのサイトにアップロードしていることもあります(このアップロードは、「youtube」「tiktok」などのサイト上に条件を守って行っていれば、利用許諾の範囲に含まれます)。そのインストルメンタル版の演奏者に使用許可を得て、そこに自分の歌唱部分を乗せる、という方法もあるでしょう(録音などは大変かもしれませんが)。
Youtube、TikTokの動画をXなどへ投稿・埋め込みする場合の注意点
大手SNSサービスには、動画投稿機能や動画埋め込み機能が実装されているものも多くあります。ただし、2024年2月15日現在、これらの大手サービスの代表格である、「X(旧twitter)」は、JASRAC利用許諾契約を結んでいません(⇒2024年2月15日時点では、facebookとinstagramは利用許諾契約を結んでいます)。
よって、Youtubeの延長といった気分でXなどのSNSに動画を投稿すると、そちらは著作権法違反になるおそれがあります。「youtube」の動画を埋め込む方法でも、著作権法違反の可能性は残ります。動画埋め込みの場合、実質的に使用許諾契約のないSNSサイトに投稿している場合と同等の評価を受ける可能性があるためです。
JASRAC/NexTone管理でない楽曲の場合は、個別に許可が必要
JASRAC/NexTone管理でない楽曲の場合は、楽曲の著作者と直接交渉して、個別に使用許可を得る必要があります。JASRACに管理を委託していない著作者の場合、著作権についてはある程度のこだわりを持っている可能性もあります。しっかりと話をするべきでしょう。
なお、例えばJASRACは、お役所的な性格も大きな組織と解されます。他方で、個人で権利管理をしている人は、案外自分の楽曲使用には好意的かもしれません。
カラオケ会社のプラットフォームを利用して、カラオケ音源を使用する
カラオケ音声をアップロードする場合に、手っ取り早いのは、やはりカラオケボックスで録音された音声を使用することです。この場合は、再三記載している通り、カラオケ会社のカラオケ音源の使用が問題となります。
ただし、第一興商であれば「DAM★とも」、エクシング(Joysoundの運営会社)であれば「うたスキ動画」というサービスに投稿する場合には、それぞれの会社のカラオケ音源が含まれる動画であっても、アップロードが許容されるようです。カラオケ会社も、このサービスに関連して、JASRACと利用許諾契約を締結しているのでしょう。
手っ取り早く音声をアップロードしたい方は、このようなサービスの規約に従えば、楽で確実でしょう。
DAM★とも(別ウィンドウが開きます)
うたスキ動画(別ウィンドウが開きます)
音源と歌唱を自前で用意しても、楽曲使用は自由ではない
著作者人格権の問題
大手動画サイトである「youtube」や「tiltok」や「ニコニコ動画」へのアップロードの場合は、音源と歌唱を自前で用意する必要があります。これらを用意できた場合でも、楽曲使用が完全に自由というわけではありません。
これは、「著作者人格権の問題」と総称できると解されます(著作権法20条など)。
替え歌の問題
著作権法20条によると、「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けない」とされます。これに反して、妙な替え歌の歌唱で、著作者の不興を買うことがあります。過去には、「会いたい」という楽曲の替え歌が問題になりました。
もともとの著作者の意図に反するような替え歌であれば、音源を用意しようと、自分で歌おうと、著作者人格権に反することは避けられないでしょう。その場合は、著作権法違反ではなく、著作者人格権の違反により、動画の公開差し止めや損害賠償などの請求を受ける可能性があります。
すでに替え歌になっている歌の場合
替え歌で著名なのは、嘉門達夫です。ある歌を歌っているときに、原曲の一説を嘉門達夫の替え歌の歌詞にするという場合は、どのように考えるべきでしょうか。
なにやらややこしい問題ですが、原曲者としては嘉門達夫の歌であるから替え歌を許諾しているものと解されます。それを個人が原曲に持ち込むとなると、著作者人格権に反する可能性がありうるというべきでしょう。
過不足ある歌唱の場合
アニメ「キン肉マン」の最初の主題歌で、掛け合いになる部分があります。この掛け合いの部分も込みで構成されているコミックソングですが、この部分を省略すると、単なる主人公の自画自賛の歌になります。このように、楽曲のうち、ある部分を歌わないなどとすることで、歌の趣旨が変わるということもあります。
この場合も、程度がひどいと、著作者人格権に反するおそれがあります。
カラオケ音源に関する裁判例について
裁判例の概略
2016年12月24日に、カラオケ大手会社の第一興商が提起していた裁判の判決が出ています。概略、以下の経緯です。
- カラオケ動画を「youtube」にアップロードした男性がいた
- 上記のカラオケ動画には第一興商作成のカラオケ音声が含まれていた(カラオケ店で歌っているところを動画撮影したものと解される)
- 第一興商は、自社作成の音声が含まれる動画の取下げを求める裁判を提起した
- 裁判所は、判決で、第一興商側の請求を認め、被告に対して、動画の取り下げ、データの削除、訴訟費用の被告による負担の判決を下した
なお、問題となったカラオケ動画は、現在では公開されていません。
この裁判例の原文や解説については、下のリンク先にて紹介しています。よろしければご覧ください(別ウィンドウが開きます)。
判例紹介・youtubeに自身のカラオケ動画をアップロードした個人に対して、カラオケ会社が動画の公開差し止めを求めた事案(東京地裁H28.12.20判決(H28(ワ)34083号)
裁判での判断根拠
裁判所が、第一興商の請求を認めた根拠は、「第一興商が著作者(作曲者)から許可を得て作成しているカラオケ用の音声を、第一興商に無断で送信する(著作権法96条の2)ことは許されない」ということです。カラオケ動画にも著作権(厳密には著作隣接権)があることは当然ですので、結論としても法律通りのものです。
レコード製作者は、そのレコードを送信可能化する権利を専有する。
著作権法96条の2(送信可能化権)
以上、「歌ってみた」を著作権違反に当たらずに配信できる場合を解説しました。ルールを守れば、動画投稿で楽曲を使用したとしても、著作権侵害にならないということをご理解いただけたかと思います。ポイントとしては、音源も歌唱も自分で用意するということ、商業的な宣伝目的でないということと、過度な改変をしないということ、です。また、youtubeなどの、Jasrac及びNextoneが利用許諾をしているサイトに投稿するということです。
このようなルールの枠組みは、考えてみれば常識的な内容といえます。ただし、世の中の常識が変わっていけば、今後さらに楽曲使用のルールが変わっていく可能性はあります。
技術発展の速度と比較すると、法規制や実務運用は、いつも遅れがちです。とはいえ、「好きな歌を歌い、それを撮影した動画をインターネットで全世界に向けて投稿する」という、現代ならではの娯楽について、法律や実務は、これをすべて否定しているわけではないということです。