勝手に撮られて無断でYouTubeに・・・「肖像権侵害」「プライバシー権の侵害」を弁護士が解説

勝手に撮られて無断でYouTubeに・・・「肖像権侵害」「プライバシー権の侵害」を弁護士が解説

 スマートフォンの普及により、動画や写真(以下、「動画等」とします)を撮影することが容易になりました。また、撮影された動画等がSNSに投稿されるということも、しばしばみられる現象になったといえます。そうした中で、無断で撮影された動画等で、無断で自分の顔などが動画サイトにアップロードされてしまうというケースも増えているといえます。

 このような場合、法的にどのような対応が可能といえるのでしょうか。関連する「プライバシー権の侵害」や、「肖像権の侵害」といった法的な見地にも触れながら説明します。

勝手に動画を撮ると罪になるのか?「プライバシー権の侵害」「肖像権侵害」にあたる可能性はある

 勝手に動画等を撮られて無断で動画サイトにアップロードされた場合には、「プライバシー権の侵害」と「肖像権の侵害」にあたる可能性があります。それぞれ見ていきます。

 なお、以下の画像は、おおまかなイメージとなります。「肖像権」自体が法律上確定した概念ではないため、必ずしも法的に厳密な図ではないことをご了承ください。

プライバシー権・プライバシー権の侵害とは?

 プライバシー権とは、「個人情報や私生活の情報を無断で公表されない権利」と説明される権利のことです。具体的な対象としては、氏名、住所、勤続先、電話番号といったものが挙げられます。「プライバシーの保護」となると、無断で撮影された動画等が第三者に暴露されて、精神的な苦痛を被ることのないよう保護されるべき、ということを指します。

 現状、プライバシー権の侵害については、これを直接処罰する刑事罰の規定はありません。例えば、動画等の撮影のために無断で第三者の土地に立ち入れば、不法侵入ということはあり得ます。とはいえ、これは、プライバシー権を直接保護する趣旨の刑罰ではありません。

 このため、プライバシー権が侵害されたという場合に被害の回復を目指すとなると、損害賠償請求などの民事的な請求を相手に行っていくべきということになります。他人のプライバシー権を侵害するような動画が公開された場合に、その内容が不法行為であることを立証のうえ、損害賠償請求を行うという手続になります。

(不法行為による損害賠償)
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

 要するに、他人のプライバシー権を侵害するような動画等の投稿者は、民事上の責任を請求される可能性があるということです。

 なお、これとは別に、インターネット上の著名な動画サイトである「YouTube」では、氏名、住所、電話番号、個人情報、隠しカメラによる撮影など、個人のプライバシーを侵害する動画であるとされた場合には、当該動画の削除や、場合によってはアカウントの停止などの規制を行っているようです。これは、法律上の規制というわけではなく、YouTube側の自主的な規制となります。

肖像権・肖像権侵害とは?

 肖像権とは、「誰しも無断で写真や動画を撮られたり、それを公開されたり利用されたりしない権利のこと」と説明されます。芸能人・有名人に限らず、一般の人も有する権利です。

 肖像権は、プライバシー権のひとつとされます。

 肖像権の侵害についても、プライバシー権と同じく、これを直接処罰する刑罰規定はありません。ただし、肖像権の侵害が認められた場合は、その媒体の公開の取りやめを求めたり、損害賠償請求など民事上の請求を相手に求めることができるとされます。

路上で承諾なく全身の写真を撮影されてサイトに掲載された|精神的苦痛の賠償義務が認められた判例

 過去の判例としては、東京地裁平成17年9月27日判決があります。この事件は、路上にいるときに承諾なく全身の写真を撮影された方が、ファッションを紹介する目的でこの写真を撮影及び掲載した法人を提訴した事案です。

 判決において、裁判所は、肖像権が法律上保護される利益であることを明示しています。そして、写真撮影の方法などを考慮したうえで、「原告(被撮影者)は、本件写真が無断で撮影され、本件サイトに掲載されたことにより、屈辱感、不快感、恐怖感等の精神的苦痛を被ったことが認められる」として、合計で35万円の賠償義務を、写真撮影した法人に認めています。

プライバシー侵害と名誉毀損の判例

 名誉棄損や肖像権のほか、プライバシー権侵害による慰謝料の支払義務を認定した裁判例としては、東京地方裁判所令和4年4月13日判決が挙げられます。この事案は、ツイッターの投稿で、概略以下の情報を記載したことにつき、800,000円の慰謝料支払い義務を認定したものです。

  •  「被害者は反社会的勢力と関係がある」という趣旨の内容:名誉棄損
  •  「脱税による前科がある」というの趣旨の内容:名誉棄損
  •  公開を承諾したとはいえない顔写真:肖像権
  •  電話番号:プライバシー権
  •  住所:プライバシー権

 慰謝料は、すべての権利侵害をまとめて金銭評価したものです。このため、細かい内訳までは不明です。とはいえ、プライバシー権を侵害した場合には、慰謝料の支払義務が生じるという趣旨の判決といえます。

動画撮影とYouTubeへのアップロードが肖像権侵害と認められた判例

令和3年(ワ)第28420号 損害賠償請求事件(令和4年10月28日判決言渡)|東京地方裁判所

 いわゆるYoutuberが、撮影した動画をモザイクなしでYouTube上にアップロードした行為が問題となった事案です。判決では、名誉棄損と肖像権の侵害にあたるとされ、300,000円の慰謝料支払い義務が認めれました。

 その後、被告による控訴と原告による附帯控訴があり、手続は知財高裁に移りました。結論としては、知財高裁でも肖像権侵害などを認める判決の趣旨は変わらない一方で、賠償額が300,000円から400,000円に増額されています。

肖像権侵害に該当する場合、しない場合の基準

 肖像権は、法律上明文化された権利ではありません。よって、肖像権の侵害があったといえるかどうかについては、過去の裁判例なども参照して、総合的に判断する必要があります。

 裁判所が用いる表現としては、「社会通念上受忍の限度を超える人格的利益の侵害があったか」という基準があります。

 著名な和歌山毒物カレー事件に関連して、この被告人を法廷で無断で撮影したことについて民事上の賠償請求が問題になった事案として、最高裁第一小法廷平成17年11月10日判決があります。この判決では、以下のように述べられています。すなわち、「人は、みだりに自己の容貌等を撮影されないことについて法律上保護されるべき人格的利益を有し、ある者の容貌等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的・態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の前記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである」というものです。

 これを細かくみていくと、以下のように、「受忍限度超える人格的利益の損害があったかどうか」を検討するうえでの要件を分けることができるといえます。

撮影と公開の許可を得ていない

 撮影許可と公開許可を得ずに無断で動画や画像が公開された場合、肖像権侵害になる可能性が出てきます。

顔がはっきり判別でき、人物が特定されてしまう

 動画等に映り込んだ方の顔がはっきり判別できるかどうかも、1つの基準となります。別の表現をすると、動画等から被写体の顔がはっきり判別できない場合は、肖像権侵害には当たりにくいといえます。例えば、「遠くに通行人の顔が映り込んだ」というケースでは、肖像権侵害の可能性は低くなります。

撮影場所が室内や特定の場など私的な場所である

 撮影場所も、問題となります。歩道や繁華街など公共性の高い場所とは異なり、自宅や通院先、プライベートで訪れた場所など公共性の低い特定の場所で撮られたものである場合、肖像権侵害が認められる可能性が高まります。

 結局、私的な場での様子を撮影及び公開されることで、被写体となった方が精神的な苦痛を感じたり、経済的な損害を被ったりする可能性があるためです。

YouTube、SNSなど拡散力の高い場所に公開された

 インターネット上、例えば、YouTube、インスタグラムなど、多くの人にみられる可能性が高く、拡散力のある場所に公開されたとなると、肖像権侵害として認められやすくなるといえます。

 最近は、中高生などの若者を中心に、YouTubeやX(旧ツイッター)、インスタグラムに動画等の投稿が行われることが、多くあります。そのような動画等で、顔がはっきりわかるものであったり、本人に無断で撮影及び投稿されたとなると、肖像権の侵害の可能性が高まります。

コンビニや駅、住宅に設置された防犯カメラは肖像権侵害にならないのか?

 防犯カメラは、通行人や来店客の様子を自動で撮影しています。また、その撮影画像や映像が、一定期間データとして保存されています。撮影されている本人はとくに承諾しているわけではないため、これは「無許可」といえるところです。また、個人を特定できる形で撮影しているため、肖像権侵害にもあたりうるように思われます。

この点については、一般論として、「すべての防犯カメラが肖像権侵害と当たる」、あるいは「当たらない」と判断できるものではありません。ただし、コンビニや駅の防犯カメラについては、明確に防犯目的以外に利用されたという状況ではない限り、「社会生活上、受忍すべき限度を超えて客の肖像権を侵害するものではない」とされる可能性が高いと考えます。

SNSで動画をアップしたい・・・肖像権侵害・プライバシー権侵害にならないためのコツ

 スマートフォンの性能が上がり、また、さまざまな撮影機材も手軽に手に入るようになった昨今、「街や観光地で撮影したい」、「撮影したものをSNSにアップロードしたい」というニーズも多いものと考えます。

 そのような場合には、映り込んでしまった方の肖像権や、プライバシー権を侵害することがないように、以下のことに注意するべきと考えます。

遠景を活用

 遠くに小さく通行人が映る程度なら、その人を特定できるほど高画質な画像にはならないことが通常といえます。そうなると、肖像権侵害やプライバシー権の侵害となる可能性は、低くなるといえます。

 例えばスポーツイベントやお祭りなど、参加者が複数映り込むことが想定される場合には、近景ではなく遠景で撮影し、個々人を特定することが難しい範囲の映り込みに抑えるという方法が考えらえます。

許可を得る

 撮影やSNS投稿の際には、映り込んだ人に事前に許可を得ることができれば、問題は起きにくくなるといえます。その際には、「撮影してもよいか?」ということと、「SNSに掲載していいか?」ということにつき、両方の許可を得ることが望ましいと考えます。

モザイク処理

 映り込んでしまった人の顔が特定できるほど鮮明であるという場合には、画像編集でモザイク処理をするという対応が考えられます。人物が特定ができないようになっていれば、肖像権侵害に該当する可能性は低くなるといえます。

病院や他人宅などプライベートな空間での撮影を控える

 前述の通り、他人の住宅など、私的空間での撮影や公開は、肖像権侵害となる可能性が高まります。上記のように、撮影の許可を得るという方法もありますが、そもそもの対策として、そのような場所での撮影はしないということが考えられます。

人物が抱き合っている、など、一般に他人に見られたくないような場面は避ける

 人物が抱き合っている様子など、一般に「他人には見られたくない」と考えることが通常な場面については、そもそも撮影や投稿を避けるということも、対策として考えられます。

自分が映った動画を相手に取り下げてもらう方法

 自分が映った動画等につき、これを相手に取り下げてもらうには、いくつかの方法があります。以下では、インターネット上に動画等を公開された場合を念頭に、対策を記載しております。

当事者へ直接交渉する

 最も分かりやすい手段は、当事者に直接削除してもらうように要請するというものです。相手方がスムーズに削除に応じれば、動画等の公開による将来的な損害はなくなるといえます。

 他方で、それまでの公開により精神的な損害等が発生している可能性があります。そのような損害については、別途請求していくなど、検討の余地があります。

プライバシー権の侵害でYouTube動画の削除申請を行う

 例えばYouTubeには、個人のプライバシーを侵害する動画コンテンツを削除してもらえる仕組みがあります。被害に遭った当事者か、その代理人が申し立てを行い、Youtubeに検討を求めることになります。

 この申し立ての後には、YouTubeが画像や音声などに基づいて個人の特定が可能かどうかを判断して、コンテンツを削除するかどうか判断します。

 詳しくは以下をご参考下さい。

コンテンツを削除する基準

プライバシー侵害の申し立て手続き

 なお、YouTubeはコンテンツを削除するかどうかについては、以下のように記載しています。

公益性、ニュースバリュー、コンセンサスを最終決定要因として考慮します。

https://support.google.com/youtube/answer/2801895?hl=ja&authuser=0

弁護士に相談する

 当事者に直接交渉したのに公開した動画を取り下げてもらえなかった場合や、そもそも感情面で当事者と連絡を取りたくない場合には、弁護士に依頼して交渉などの窓口になってもらうという方法があります。

 依頼を受けた弁護士としては、まずは、肖像権の侵害が実際にあるのかということを検討します。そのうえで、公開の中止を求めることを検討します。場合によっては、すぐに損害賠償請求するということもあり得ます。

 動画等を公開した相手が分からない場合は、弁護士にて相手方の情報(IPアドレス、氏名など)を明らかにするように求める開示請求を行うことができます。