侮辱罪について【弁護士が解説】厳罰化で禁固、懲役も

侮辱罪について【弁護士が解説】厳罰化で禁固、懲役も

 刑法の侮辱罪(231条)の規定が、改正されました。2022年7月7日から施行されています。その内容は厳罰化です。要するに、刑法改正により、侮辱罪で懲役刑(刑務所に入れられる)ということもありうるようになったということです。

 その背景には、インターネット、主にSNSをめぐる誹謗中傷の被害の深刻化があります。詳細は以下で改めて説明します。

SNS、ネットによる誹謗中傷の深刻化を受けて法改正

 インターネット・SNSによる誹謗中傷により、被害者が命を絶つという、痛ましい事件も起こっています。特定の個人や企業が標的とされる事件は後を絶たず、社会問題となっているといえます。

 このような背景もあり、2022年7月に侮辱罪が厳罰化されました。

 また、2022年10月には、「プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)」が改正されました。この改正により、インターネット上で誹謗中傷したとされる者についての情報開示手続が簡素化されました。従来と比較すると、情報開示までの期間が短縮される見通しです。

侮辱罪はどのように厳罰化されたか?

 2022年7月7日施行の刑法改正により、侮辱罪の法定刑に、「1年以下の懲役」、「禁錮」、「30万円以下の罰金」が新たに追加されました。これまでは、「拘留(30日未満)」または「科料(1万円未満)」との刑罰しかなかったところ、大幅な厳罰化といえます。

 また、法定刑に懲役刑などが加わったことで、捜査機関による身柄拘束(逮捕をイメージすると分かりやすいでしょう)が行いやすくなりました。従来は、拘留や科料の法定刑しかなかった侮辱罪の事案では、「定まった住居を有さない」などといった条件をクリアしなければ、身柄拘束ができませんでした(刑事訴訟法199条1項)。今後は、悪質な事案では、捜査機関による身柄拘束が行われる可能性が高まったといえます。

侮辱罪厳罰化法改正における懸念事項

 侮辱罪を厳罰化することで、憲法で保障された「表現の自由」を侵害するおそれがあるという指摘があります。

 また、政治家や財界人などいわゆる権力者を対象として批判的表現をした場合、その対象者が反論・議論することなく刑事告訴して、捜査機関がこれを摘発するという展開も想定されます。そのようなケースが増えれば、表現に対するいわゆる萎縮効果が生じることになってしまいます(出典:侮辱罪厳罰化に対する意見書. 2023年3月28日 東京弁護士会)

 また、侮辱罪は「公然と人を侮辱した」場合成立する罪です。この「公然性」については、従来の規定と変わりません。そうなると、「2ちゃんねる」などのインターネット掲示板での誹謗中傷は厳罰化できても、電子メールやインスタグラムのDMやLINEのグループチャットなど、2者や特定少人数間で起こりえる誹謗中傷には適用されず、被害者の保護が十分でない、という指摘もあります。

 このような問題は、「時代に合わせた法改正という局面」では、どうしても生じてしまう現象です。今回の改正では、施行後3年を経過したときに検証を行うことが附則に明記されています。今後どのような実務的な運用がなされていくかは、注視していくべきと考えるところです。