バイクがかかわる交通事故の場合、普通車同士の事故と比較して、死亡事故や大けがをするといった重大事故になりやすいという傾向があります。なお、以下では、原動機付自転車、普通自動二輪車及び大型自動二輪車などを総称して、「バイク」と呼称します。
事故が重大になると、どうしても慰謝料や賠償金額を巡り、争点が拡大する傾向があります。ここでは、バイクが関わる事故の過失割合や、慰謝料、賠償内容、弁護士に依頼するメリットなどにつき、弁護士が解説します。
目次
バイク事故の危険さ
警察庁の統計によると、交通事故の致死率は、自動車乗車中より二輪車乗車中の方が約2〜4倍高くなる傾向にあるとされます。
バイク事故が重大事故になりやすい理由としては、以下のようなものが挙げられます。
- バイクは運転者が車体に覆われずにむきだしの体勢になるため、車両同士の接触による衝撃や、構造物に衝突した際の衝撃を受けやすい
- バイクは小さくて見つけにくいことがあり、四輪車などが充分な原則や回避行動をとれないことがある
死亡事故に至らない場合でも、重傷・重体となったり、後遺症を負うような事故になりやすいのがバイク事故の特徴といえます。
*出典:道路の交通に関する統計 (2004)
バイク事故で想定される争点、過失割合
過失割合の修正やバイク事故特有の過失類型があること
バイク事故の場合、四輪車同士の事故と比較して、過失割合に修正が加えられることがあります。この修正があると、基本的には、四輪車同士の事故と比較して、バイクにとって有利に扱われます。例えば、「四輪車同士の類似事故と比較して、バイクの過失を1割有利にする」といったものです。
これは、上でも触れたとおり、バイクの場合、四輪車と比較して事故による損害が大きくなりやすかったり、通常は四輪車より小さいため、他のドライバーから視認しにくいという特徴が踏まえられています。
他方で、バイク事故特有の過失類型もあります。典型的には、「バイクが車の間をすり抜けようとした際に、他の車両と接触した」といったものです。
ただし、具体的な過失割合の協議においては、双方の主張が対立するということも、少なくありません。感情的な対立などといった理由で、合意が難しいケースもあるためです。バイク事故の当事者からすれば、例えば、「損害がとても大きく、過失割合を主張されるのは納得いかない」ということもあるでしょう。四輪車の側からすれば、例えば、「横を走ってぶつかってきたバイクを避けることなんて不可能なのに、こちらの過失が大きいといわれるのは納得できない」ということもあるでしょう。
ドライブレコーダーの設置割合が低いこと
四輪車の場合、最近は、ドライブレコーダーの普及が進んでいます。このため、お互いの認識が異なり、過失割合が争点になる場合でも、映像により客観的な事故状況が確認できることが、多くあります。
他方で、バイクの場合は、ドライブレコーダーの設置率は普通車よりは低いというのが実情です(2025年時点までの調査だと、四輪車のドライブレコーダー設置率が5~6割であるのに対して、バイクは3~4割とされるようです)。
よって、事故態様や過失割合が争いになった場合に、客観的な情報が得にくいために、この解決が難しくなるおそれがあるといえます。
任意保険の加入率が低いこと
バイクの場合、任意保険への加入率が低いという問題もあります。この「任意保険」というのは、加入が法律で義務付けられている自賠責保険とは異なる、車両の保有者自身が契約する自動車保険を指します。
2025年時点までの調査によると、四輪自動車の任意保険の加入率が7~9割ほどとされる一方で、バイクの任意保険の加入率は、4~6割程度とされます。また、特約などの個別の補償項目によっては、加入率はさらに低くなるようです。
任意保険に加入していないと、事故の被害者となった場合、加害者となった場合のいずれにおいても、適切な補償を受けられないリスクが高まります。バイク事故の場合は、「損害が大きくなるリスクが高いにもかかわらず、保険による補償が不足している場合が多い」ということであり、望ましくない状況といえます。
ケガ(人身損害)の適正な評価が難しい場合があること
バイク事故の場合、骨折を伴う重大な被害事故となることも、多くあります。また、四輪車の事故の場合、その多くがむち打ち症に留まることと比較して、バイク事故の場合の怪我の内容は、事案によりかなりバリエーションがあります。
この症状につき、適切な専門職の関与がないことで、「関節の可動域の制限」や「下肢の短縮」など、本来であれば後遺障害として適切な認定を及び賠償を受けるべきであるにもかかわらず、これが見過ごされてしまう事案が散見されます。

具体的な対策
保険の活用
バイク事故の対策のため、まずは保険を活用するべきです。まず、自分に過失がある場合には、人身傷害保険を活用する方法があります。また、交渉に納得ができない場合や、自分に交渉を進めることに不安があるのであれば、弁護士に依頼することも検討すべきです。このときに、弁護士費用特約があれば、費用負担はかなり軽減できます。
このため、バイクに乗ることが多い方は、任意保険に加入することが必須といえます。また、「四輪車を持っているが、バイクにも乗る」という方の場合には、四輪車の任意保険にファミリーバイク特約を付けるだけに留まらず、その内容も精査すべきです。弁護士の視点からすると、最低限、「バイク事故の場合に弁護士費用特約の利用ができるか」という点と、「バイク事故の場合に人身傷害保険が使えるか、使える場合に、その限度額はいくらか」ということは、把握しておくべきです。
ドライブレコーダーの設置及び活用
昨今は、バイク用のドライブレコーダーも、多くの種類が発売されています。バイク本体ではなく、ヘルメットに設置するタイプのものもあります。まずはこのような機器を設置すべきです。
現在の交通事故の裁判実務では、事故態様に争いがある場合には、まずはドライブレコーダーによる映像記録の有無が確認されます。これほどに、裁判所も映像の有無を重くみているということです。
事故の被害にあってから、過去の映像を後から取得することは、容易ではありません。近隣店舗の防犯カメラの映像記録の取得等を検討するケースもありますが、うまくいくことは少ないというべきです。四輪車にも同じことはいえますが、ドライブレコーダーの普及率が低いバイクの場合は、よりこの設置を進めていくべきといえます。
専門職の活用
映像記録から事故態様がわかっても、具体的な損賠賠償の協議は、別途必要です。この協議において、例えば、自分の希望する過失割合が認められるとは限りません。
また、そもそもの損害額のところで、これが適正かという問題があります。バイク事故の場合、重大事故となると、後遺障害に該当するケースも相応にあります。他方で、適正な後遺障害認定を受けることは、実は簡単ではありません。医療記録をみて、「どのような等級に該当しうるか」という視点での検討が必須です。とはいえ、これは、医療(医師)の領域というよりは、法実務家の領域というべきものです。「医師の作成した後遺障害診断書で申請を出したら等級の認定があったが、弁護士が関与のうえで再度医師に診断書作成を依頼して異議申し立てをしたら、さらに上位の等級が認定された」というケースは、実際にそれなりの頻度で起こるものです。
また、どうしても賠償協議で合意できないという場合には、裁判手続も活用すべきといえます。このような点を考慮して、不足のない請求をするとなると、法実務家の助力が望ましいといえます。
この点につき、上記のとおり、任意保険の弁護士費用特約をうまく活用すれば、専門職に依頼した際の費用負担を軽減することも可能です。

弁護士に依頼するメリット
バイク事故のトラブルを弁護士に相談すると、上記のとおり、妥当な過失割合を導けたり、示談交渉などで慰謝料・賠償金額を増額できる場合があります。
他にも、弁護士に依頼することで、交渉の窓口としての対応を依頼することができます。特にケガをしている事案の場合は、弁護士に窓口対応を任せ、自身は通院に専念するということも可能ですので、メリットは大きいといえます。
弁護士への相談のタイミングは、事故直後から示談成立前までであれば、遅すぎるということはありません。とはいえ、悩みがある場合には、事故後の早い段階での相談が望ましいと考えます。