1票の格差に関して、トピックスとなっています。
去年の参議院選挙に関して、広島高裁岡山支部で選挙無効判決が出たことが、引き金となっているようです。
「判決を取り消して欲しい」などと言った国会議員もいるようですが、三権分立の建前からすると、踏み込み過ぎな発言に感じます。
そもそも、最高裁判決についても、最近の流れとしては、基本的に1票の格差に関しては違憲と認めています。
「事情判決」という手法で、違憲でありながら、選挙無効とはしないという判断をいているに過ぎず、現状を是認しているわけではありません。
この事情判決についても、やや厳密に述べると、以下のようになります。
まず、事情判決についての規定は、行政事件訴訟法31条にあります。ただし、公職選挙法は、219条で、事情判決の規定を明文で準用しないとしています。このため、本来は事情判決が出される余地はありません。
しかし、最高裁は、「事情判決の『法理』」を用いることで、違憲でありながら、選挙を無効としないという論理を示しています。
率直に言って、かなり無理な解釈で選挙を有効にしています。公職選挙法があえて事情判決の規定を準用していないにも関わらず、「法理」という理屈を用いることでその規定をかわしている点については、非常に批判が強いところです。
確かに、選挙無効がもたらす社会への悪影響を考えれば、事情判決もやむを得ないところはあります。裁判所の手に余る事項であるというのが、率直なところでしょう。
とすると、論じるべきは、このような無理な事情判決を出さねばならない現状を放置してきた立法府の責任であると思えます。
1票の格差が生じる最大の要因は、国会議員数の増員が難しい中で、都道府単位の一人別枠の縛りを実質的に維持してきた点にあります。
対策のオプションとしては、
① 少なくとも1人の都道府県代表がいなくなる選挙区が出る前提で、選挙区割りを変更する
② 議員大増員、比例代表制の強化などを含め、選挙制度を大幅に変える
③ 公職選挙法改正で事情判決の規定を準用する
④ 憲法改正を行い、都道府県代表の性質を国会議員に明確に付与する
⑤ 事情判決に甘え、制度を抜本的にいじることはせず、弥縫策をとり続ける
といったものが考えられます。とはいえ、⑤以外には、ほとんど実現に期待できません。
となると、いつか最高裁がしびれを切らして事情判決を出すことをやめるのを待つしかないのかもしれません。道州制が取り入れられ、現在の都道府県の境界が自明なものではなくなれば、あるいは抜本的改革もあるかもしれませんが、それも難しく思われます。
ただし、投票価値の平等をあくまで目指すのか、現状を維持するのか、裁判所は答えを出しているように思えます。あとは世論の高まりを待つしかないのでしょうか。
* 参考
行政事件訴訟法
(特別の事情による請求の棄却)
第三十一条 取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない。
2 裁判所は、相当と認めるときは、終局判決前に、判決をもつて、処分又は裁決が違法であることを宣言することができる。
3 終局判決に事実及び理由を記載するには、前項の判決を引用することができる。
公職選挙法
(選挙関係訴訟に対する訴訟法規の適用)
第二百十九条 この章(第二百十条第一項を除く。)に規定する訴訟については、行政事件訴訟法 (昭和三十七年法律第百三十九号)第四十三条 の規定にかかわらず、同法第十三条 、第十九条から第二十一条まで、第二十五条から第二十九条まで、第三十一条及び第三十四条の規定は、準用せず、また、同法第十六条 から第十八条 までの規定は、一の選挙の効力を争う数個の請求、第二百七条若しくは第二百八条の規定により一の選挙における当選の効力を争う数個の請求、第二百十条第二項の規定により公職の候補者であつた者の当選の効力を争う数個の請求、第二百十一条の規定により公職の候補者等であつた者の当選の効力若しくは立候補の資格を争う数個の請求又は選挙の効力を争う請求とその選挙における当選の効力に関し第二百七条若しくは第二百八条の規定によりこれを争う請求とに関してのみ準用する。