グルメンピックの事案をもとに破産手続の流れなどを検討する

はじめに

「グルメンピック」の事案

 「グルメンピック」の事案が、今年2月ころから話題になっていました。これは、大東物産という名前の法人が、平成29年2月開催のグルメイベントを企画し、全国の店舗から1店あたり数十万円の出店料を集めたものの、開催直前にイベントを取りやめた、というものです。その後に出店料の返還がほとんどなされなかったため、被害者の会が設立されるなどの動きがありました。

 なお、大東物産は、平成29年2月20日付で東京地裁にて破産手続開始決定を受けています。

刑事手続の動き

 この事案については、破産した大東物産の社長や、実質的な経営者とされる者4名が、平成29年6月3日に逮捕されています。罪名は詐欺で、約1億3000万円の出店料を騙し取った、というものです。その後、さらにもう1名の会社関係者も逮捕されたとの報道が出ています。

検討事項

 この事案では、以下の内容が問題になると思われます。

  1. 出店料は返還されるのか
  2. 法人に財産はあるのか
  3. 代表者などに金銭請求はできないのか
  4. 刑事手続はどうなるのか

 刑事手続のことは現在進行中であるため、わかりません。このため、その他の主にお金に関わる内容について、推測を交えて記載します。なお、本記事は、以下のサイト(東京商工リサーチ株式会社作成(敬称略))の情報を多く参照しています(別ウィンドウが開きます)。

「グルメンピック」を企画した大東物産(株)の「破綻の構図」

出店料の返還はあるのか

返還義務は法人にある

法律の原則

 出店料は、大東物産が企画したイベントのために支払われたものです。このため、この返還義務は法人にあります。法人は破産手続に入っていますので、破産管財人管理のもと、法人資産から出店料の返還を行うことになります

 なお、出店料を代表者らが保証している可能性もあります。ただし、これまでの経緯によれば、まず考えられないところです。

会社の財産状況

 報道によると、未返還の出店料は約1億3000万円である一方で、破産管財人管理の会社財産は約1,700万円とのことです。法人には出店料以外の債務も予想されるため、出店料をすべて返還することは、相当困難といえそうです。

代表者らの個人責任はないのか

会社財産を滅失させた場合には、個人にも責任がある

 会社関係者が会社財産を不当に使い込んだという場合には、その会社関係者は会社に対して賠償義務があります。他にも、無謀な計画で会社財産を失わせたとなれば、その経営判断による会社の損失について、代表者らの責任が問われることもあります。

 この請求の窓口になるのは破産管財人であるため、管財人は管財業務の中で、会社関係者に対する請求権の有無を検討することになるでしょう

管財業務は功奏するか

 管財人の追及が個人にまで及ぶかは不透明です。ただし、最初から会社を潰すつもりでお金を使い込んだといった事情があれば、管財人の請求権(会社から個人に対する使い込み金の返還請求権)が法律上認められるということは、充分にありうることです。

 しかし、一般的に、詐欺の意図でお金を取得しているのであれば、その金銭の流出先を特定することは、容易ではないように思われます。お金を騙し取るような者であれば、その先の流出方法についても予防線を張っている可能性が高いためです。

 例えば、会社資産が現金や金塊になってしまえば、資産を探し出すことは難しく、管財業務で資産を回収することには、困難も想定されるところです。

小括

  1. 会社資産から出店料の返金を求めることは難しいと解される
  2. 会社から代表者らに会社資産の返還請求をすることはありうるが、どこまで功奏するかは不透明

破産手続以外での請求はできないのか

破産手続の限界

 今回の件で、破産しているのは法人だけと解されます。破産手続は、財産の回収と分配が終われば、そこで終了となります。管財業務で会社から個人への請求を行う可能性があることは上記のとおりですが、管財業務は永遠には続きません。このため、金銭回収が不可能と判断された時点で、実際の回収ができなくても、会社から会社関係者個人に対する請求権を放棄するなどして、破産手続が終了することもあります

 この手続で出店料の返還など、充分な配当が無かった場合には、債権者としては会社関係者に個人責任を追及するしかありません

個人が債権者に責任を負うか

 原則として、法人の代表などの個人が各債権者に対して支払い義務を負うことは、ないというべきです。ただし、法人格を利用して債権者から出店料を騙し取って、会社から資金を流出させて逃げたとなれば、会社関係者に債権者に対する個人責任が認められる余地はあるでしょう(会社法429条)。

 言い換えれば、法人ではなく、個人が不法行為(詐欺)の主体であり、債権者に対して個人が直接出店料相当額の返還義務を負うことになる、といったところでしょうか。

請求権の存否は刑事手続による部分が大きい

 個人に責任追及する場合には、現在詐欺で逮捕されている会社関係者の捜査記録が重要になります。この記録から事件の全容が明らかになり、法人格をあえて利用して個人が私腹を肥やしていた状況が出てくれば、個人責任は追及しやすくなるといえます。

 債権者としては、警察や検察の捜査が功奏することを期待すべきでしょう。

会社関係者が破産する可能性もある

 会社関係者への請求権が認められたとしても、その時点などでその個人が自己破産する可能性もあります。この場合は、「非免責債権である」などとして、請求を行っていくことになることが予想されます。とはいえ、個人にまで破産されるとなると、実際にお金を回収することは、容易ではないことが多いものです。

小括

  1. 会社関係者の個人責任が発生する余地はある
  2. 警察などの捜査により今回の事案の全容が分かれば、個人責任が請求しやすくなることもある
  3. 個人に破産されるなどすれば、どのみち実際の回収は難しい

まとめ

  1. 出店料の返還義務はまずは破産した会社にあるが、実際の回収には困難が予想される
  2. 事案の状況によっては、会社関係者などの個人責任を追及することは不可能ではないと解される
  3. 個人から多額のお金を回収することは、困難が伴うことも多い