ご家族が亡くなった際に、避けて通れないのが相続の問題です。家族を失った悲しみや困惑の中でも、時間制限のある中で、相続について判断しなければなりません。
遺産には、預貯金や不動産といった「プラスの財産」だけでなく、借金やローンといった「マイナスの財産」も含まれます。よって、遺産の中で、マイナスの財産の方が明らかに多い場合は、相続をしないという対応も検討すべきです。これは、「相続放棄」という手続です。
以下では、家庭裁判所へのアクセスや、手続上の重要な注意点を、以下で解説します。なお、事務所の所在地の都合上、山梨県の場合を想定していることにつき、ご了承ください。
目次
相続放棄とは?
「相続放棄」とは、家庭裁判所へ申し立てを行うことで、亡くなった人(実務上、「被相続人」と呼ばれます)の財産を相続する権利を放棄することをいいます。
相続放棄により、相続人ではなくなります。このため、被相続人の負債を受け継ぐことを、免れることができます。もちろん、資産も取得することもできませんので、ご注意ください。
概要
相続が開始した場合,相続人は次の三つのうちのいずれかを選択できます。
裁判所ウェブサイト「相続の放棄の申述」:https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
- 相続人が被相続人(亡くなった方)の土地の所有権等の権利や借金等の義務をすべて受け継ぐ単純承認
- 相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない相続放棄
- 被相続人の債務がどの程度あるか不明であり,財産が残る可能性もある場合等に,相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ限定承認
相続放棄の注意点
相続放棄をするためには、家庭裁判所に不備なく書類を揃えて提出することが必要です。この際、注意すべき点がいくつかあります。
相続放棄できる期限は3ヶ月以内(申述期間)
相続放棄で最も注意すべきなのは、期限です(民法915条1項)。
申述期間
申述は,民法により自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければならない。
裁判所ウェブサイト「相続の放棄の申述」:https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内に行わなければなりません。この期限を過ぎてしまうと、法律上「相続を承認した(単純承認)」とみなされ、借金も含めて、被相続人の遺産をすべて引き継ぐことになります。
なお、どうしても3か月で間に合わない場合には、裁判所に申請をすることで、さらに3か月の期間の延長を受けることができます。
遺産に手を付けると相続放棄できない場合がある
被相続人の遺産に手を付けてしまうと、相続放棄が認められない場合があります。例えば、以下のような場合が考えられます。
- 実家を片付けて高額な品を持ち帰った
- 被相続人名義の預金を引き出し遺産の預金の一部を葬儀費用に使った
- 不動産を売却した
このようなことをすると、法律上「相続を承認した(単純承認)」とみなされ、後から相続放棄をしたくてもできなくなる場合があります。
ただし、わずかな遺品の持ち帰りや仏壇の引き取りといった場合には、これに当たらないこともあります。お悩みの場合は、弁護士に相談することをお勧めします。
提出書類の不備・収集が間に合わない
提出書類の不備によって、相続放棄が認められない(申請が却下される)ケースもあります。単なる誤字脱字といった形式的なものではなく、相続放棄の要件や、期限に関わる重大な不備があるという場合に、そのような事態となることがあります。
上記の「3ヶ月の期限に間に合わなかった」とか、「財産の一部を処分してしまった」といったケース以外であり得るケースとしては、戸籍の不足ということが想定されます。相続放棄に必要な被相続人の出生から死亡までの戸籍や相続人の戸籍が揃わず、相続が証明できないという場合です。
書面に不備があると、家庭裁判所から補正指示が出ます。しかし、転籍の繰り返しや古い戸籍、隠し子がいる、戦災で戸籍が消失したなどといった事情で戸籍が集められず、裁判所から却下されるということは、どうしてもありうるところです。
以上より、相続放棄をする可能性があるという場合には、早めに動き始めることがとても重要です。
遺産分割協議との混同
遺産分割協議書に『私は相続財産を相続しない』と書いたから、相続放棄した、と思い込んでしまうケースもあります。しかし、遺産分割協議をしても、法的に有効な相続放棄とはなりません。あくまで、家庭裁判所に対して手続をしなければなりません。
当然、債権者から請求が来たときに「私は財産をもらわない合意をした」と主張しても通用しません。債権者からすれば、客観的な証明もできない勝手な合意で請求ができなくなることは認めがたいであろうところ、法制度もそのようになっています。仮に、債権者から請求を受けた時点で期限の3ヶ月が経過していたとなると、その後に改めて相続放棄を申し立てることは、原則としてできなくなります。
相続放棄の流れ|手続
自身が相続人であることを知ってから、裁判所に相続放棄の申述書を提出するまでに、3ヶ月の期限があります。
この間に、「相続放棄の検討」、「相続人・相続財産の調査」、「必要書類の収集」、「申述書の作成」といった手続をこなしていく必要があります。これらのどれかが滞って、3ヶ月以内に申述書を提出できなければ、期限切れということになってしまいます。

限定承認とは?
以下の相続の方法を、「限定承認」といいます。
被相続人の債務がどの程度あるか不明であり,財産が残る可能性もある場合等に,相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ。
裁判所ウェブサイト「相続の放棄の申述」:https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
亡くなった方がどれくらい借金をしていたか分からない、本人の申告よりも実際にはもっと多いかもしれないとご不安を抱く相続人も多いところです。そのような場合に、限定承認手続が利用されることがあります。結果として、プラスの財産が負債よりも多いことが判明すれば、それらの財産を処分して借金を返済し、残った財産は取得できるということになります。
限定承認は、一見すると合理的な制度にみえます。しかし、実務上は、この限定承認を行うケースはごく一部にとどまっています。
この理由としては、手続の複雑さが挙げられるといえます。まず、相続人が複数いる場合、原則として相続人全員での共同申立ての手続を行わなければなりません。このため、1人でも反対する人がいると、利用できないことになります。また、プラスの財産とマイナスの財産をすべて漏れなく調査して、財産目録を作成・提出する必要があります。実務的なハードルが高く、使いやすい制度とはいいにくいのが実情であるところ、利用者も少ないものと思われます。
弁護士に相談するメリット
相続放棄について、まずは専門家へ相談するということも、有効な選択肢の一つです。
相続放棄ができるのは、自身が相続人であることを知ってから3ヶ月という期限があります。この期間は、決して長いものではありません。相続放棄するためには、申述書を正確に作成し、裁判所に提出する必要があります。この書類の作成のために、戸籍など必要書類の収集も必要です。
「相続放棄することは決めているけど、ちゃんとできるか心配だ」などといったご不安があれば、早めに弁護士などの専門家に相談することをご検討ください。
山梨にお住まいの方|甲府の家庭裁判所へのアクセス
手続のために裁判所へ行く際には、期限や日程に十分な余裕を持って準備しましょう。
甲府市、山梨市、韮崎市、南アルプス市、甲斐市、笛吹市、北杜市、甲州市、中央市などにお住まいの方が相続放棄の手続を行う場合、窓口となるのは「甲府家庭裁判所」(甲府市中央)です。
所在地
〒400-8520 山梨県甲府市中央1-10-7
- 電車の場合:JR甲府駅から徒歩約15分〜20分
- バスの場合:甲府駅バスターミナルから山梨交通バスを利用し、「甲府市役所」等で下車、徒歩1、2分
- お車の場合:裁判所の駐車場を利用できます。
大月市や上野原市、富士吉田市方面にお住まいの方は「甲府地方・家庭裁判所都留支部」が管轄となります。
