はじめに

「損害拡大防止義務」が問題となる事案

 交通事故の被害者がケガをした場合には、加害者側に、ケガの状況などの事故被害に関する情報を、ありのままに伝えるべき信義則上の義務があると解されています。この義務に反して、虚偽を述べるなどして事故と関係ない賠償金を取得したような場合は、「損害拡大防止義務に反した」との評価を受けることがあります

 「事故被害が初めてで、痛みが激しく感じられて、一般人と比較して強く痛みを訴えた」といった程度であれば、被害に関する認識の問題であり、「義務違反」とまでは言われないと解されます。他方で、「事故直後に長時間の重労働をした」とか、「負荷の大きいスポーツに打ち込んだ」といった場合には、そのようなことが可能でありながら治療を継続していたという事情があると、損害拡大防止義務違反とされるおそれが出てきます。

紹介する裁判例について

 今回紹介する裁判例は、被害者が事故翌日に草野球の試合に出ていたなどの事情から、保険会社側から損害額代防止義務違反の主張を受けた事案です(自保ジャーナル1997号146ページ、判例タイムズ1439号185ページ)。

 結論としては、事故後2週間までの治療に限り、交通事故と相当因果関係が認定されることとなりました。

 そして、この期間を越えた分の支払い治療費の約70万円につき、被害者に返還義務を認める判断となっています。

事案の概要

事故日 H26.11.2
事故態様 自転車と自動車の交差点内での衝突
主張された通院期間 整形外科3日、整骨院125日の通院
主張された症状 腰椎捻挫、左膝打撲など
争点 事故と相当因果関係がある被害者の損害、など
裁判所の認定 事故後2週間の治療に限り、因果関係を認めた
裁判所の認定2 治療費の過払い分につき、約70万円の返還義務を認定した
考慮要素 事故翌日からH27.2.22までに、4回は草野球の試合にフル出場
考慮要素2 整骨院での治療の有効性を認める医師の意見書を重視せず
特記事項 施術を受けた整骨院は、被害者の勤務先である

判決の要旨

損害拡大防止義務違反についての一般論

 交通事故被害者は、当該交通事故による傷害の治療費を、加害者に対して損害賠償請求によって受けようとする場合、当該加害者に対し、当該傷害の症状の存否、内容及び程度並びに日常生活への支障の程度等をありのままに申告すべき信義則上の義務を負っており、殊更に不実の申告をすることにより当該加害者から当該交通事故と相当因果関係のない損害の賠償を受ける行為は、不法行為を構成する。

被害者が草野球等に打ち込んでいた状況

 詳細略、判示内容を下で表にした。

被害者のケガに関する評価

 【草野球への出場状況などを受けて】

 以上のような病院外での原告の活動状況に照らせば、原告には、被告が認める平成26年11月15日までの期間を超えて、本件事故での傷害による痛み等の症状が持続していたとは認められない。

医師の意見書に対する評価

 丙川医師が作成した平成28年5月17日付意見書には、「平成27年4月14日の診察時に左足関節捻挫及び左殿部打撲傷と診断し、その際まだ加療を続けるのが望ましい旨記載したが、原告の症状からすると、この程度の期間延長はやむを得ないし、平成26年11月4日から平成27年5月7日までの間C整骨院への通院をしているようであるが、医学的には、有効かつ相当であったと判断できる」旨の記述がある。しかし、この所見は、原告の左足関節痛が強いことを前提としているところ、その痛みの存在が認められない以上、この所見の裏付けはない。また、この所見には、「(原告の受傷に関する)施術を受けることを目的とし、かつ、効果があったということであれば」との留保が付されているのであり、C整骨院における施術に効果があったことを医学的に認めたものではなく、効果があったと仮定した場合の一般論を示したに過ぎない。

損害拡大防止義務違反についての判断

 原告は、明らかに加療の必要がなくなった平成26年11月16日以降も、C整骨院で施術を受け続け、C整骨院をして、被告の付保するD保険会社に施術費を請求させ、被告に対し、賠償義務を負わない施術費を、自動車保険金をもって支払わせたのであるから、原告は、上記の信義則上の義務に違反し、被告に賠償させたことについて不法行為責任を負うというべきである。

判決に対するコメント

被害者が草野球等に打ち込んでいた具体的な状況

 判決で指摘された内容を表にすると、概ね以下のとおりです。

日付 運動の態様 特記事項1 特記事項2
H26.11.3 投手、4番打者で軟式野球の試合にフル出場 安打、バント出塁あり 6回完投、自責点1の投球
H26.11.16 サード、3番打者で軟式野球の試合にフル出場 4安打(本塁打1)
H27.2.5 ランニングを行った フェイスブックに掲載  
H27.2.15 投手、5番打者で軟式野球の試合にフル出場 2安打 5回完投
H27.2.22 投手、5番打者で軟式野球の試合にフル出場 7回完投

交通事故による受傷に関する評価

 裁判所が認定したほどにスポーツに打ち込んでいるとなると、事故後2週間で痛みがなくなっていると判断されても、やむを得ないといえます。

 他方、事故後に激しい運動をしていたとなれば、損害拡大防止義務違反の問題のみならず、「被害者の訴える痛みは、事故後の激しい運動によるものである」との評価となることも考えられます。いずれにせよ、事故後に激しい運動をしていたというのは、事故とケガの因果関係を否定する方向の事情といえます

 なお、裁判所の判断によると、被害者が自身の勤務先の整骨院で施術を受けていたことも、因果関係の判断にはマイナスに働いているように読めます。

医師の意見書について

 今回の判決に照らせば、医師が整骨院での施術の有効性を認めても、万能ではないということになります。

 「被害者には痛みがあった」といった、意見書の前提となっていた事実がそもそも違うと判断されてしまえば、医師の意見書をもってしても、すべて事故と治療の因果関係を立証できるわけではないということです

望まれる対応について

 本件の判示からすれば、交通事故被害者が取るべき対応は、以下のとおりです。実際に痛みがあるならば、「事故と通院に因果関係がない」と判断されることは、望ましいことではありません。症状がある場合には、痛くもない腹を探られないような対応が求められることもあるといえます。

  1. 整形外科に継続して通院する
  2. 整骨院での施術については、整骨院の医師の同意を得ておく
  3. 事故後に激しい運動をせず、痛みがあれば安静にしておく

補足

 以下のページも、よろしければご覧ください。

交通事故

平成27年ころ以降の交通事故判例

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