はじめに

問題の所在

 楽曲の作曲者には、著作権が認められます。この作曲者は、自身の楽曲の使用につき、許諾する権限を持ちます。

 第一興商などのカラオケ会社(以下、同様に「カラオケ会社」総称します)は、著作者から許諾を得て、カラオケ用の映像(以下、「カラオケ音源」とします)を作成しています。この映像には、カラオケ会社の権利が認められるため、無断でこの映像を使用することは許されません(著作隣接権)。

 カラオケの腕前を確認するなどの目的で、個人がカラオケを歌っている状況を動画撮影することがあります。昨今ではスマートフォンによる動画撮影も容易なため、動画撮影のみならず、この動画(以下、「カラオケ動画」とします)をインターネットにアップロードすることも、容易に可能です。しかし、このようなカラオケ動画にカラオケ音源の映像や音声が収録されている場合、カラオケ会社の権利侵害になり得ます

紹介する裁判例について

 今回紹介する裁判例は、大手動画共有サイトである「youtube」に自身のカラオケ動画を公開した個人に対して、カラオケ会社である第一興商が動画の取り下げを求めたものです。

 結論としては、第一興商の訴えを認め、動画公開を禁止しています。結論自体は、法律の解釈から当然に導かれるものです。とはいえ、マスコミなどで報道された裁判例であり、個人の動画アップロードのあり方にも影響する事案ですので、本サイトでも紹介することとしました。

事案の概要

当事者 原告:株式会社第一興商、被告:個人(男性)
問題となった行為 被告男性が、H28.9.7に、「youtube」に自身のカラオケ歌唱動画をアップロードした
原告の請求の内容 動画の公開禁止、動画データを記録媒体から削除すること、など
被告の反論 動画は削除済みである、動画は原告の利益を侵害していない
裁判所の判断 原告の請求認容
判断根拠 被告の行為は、著作権法96条の2に違反する
考慮要素 動画は裁判時点では公開されていなくとも、記録媒体から削除されたとは解されない
特記事項 被告には代理人がいない、本人訴訟の事案と解される

判決文(分量が少ないため、ほぼ全文を引用しました)

主文

  1. 被告は、別紙動画目録記載の動画を送信可能化してはならない。
  2. 被告は、別紙動画目録記載の動画の電磁的記録を、同記録が入力されている被告の占有に係るハードディスクその他の記録媒体から消去せよ。
  3. 訴訟費用は被告の負担とする。
  4. この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

 主文同旨

第2 事案の概要

 本件は、原告が、被告に対し、被告が原告の作成したカラオケ音源を用いてカラオケ歌唱を行っている様子を自ら動画撮影した動画の電磁的記録をインターネット上の動画共有サイトにアップロードした行為が、原告の上記カラオケ音源に係る送信可能化権(著作権法96条の2)の侵害に当たると主張して、同法112条1項及び2項に基づく上記動画の送信可能化の差止め及びその電磁的記録の消去を求める事案である。

1 原告は、請求原因事実として次のとおり主張した。

(1) 原告は、業務用通信カラオケ機器の製造販売等を業とする株式会社であり、業務用通信カラオケ機器「DAM」シリーズの販売を行っている。

(2) 原告は、平成28年8月17日に発売された女性ボーカルグループ「Little Glee Monster」のCDシングル「私らしく生きてみたい/君のようになりたい」に含まれる楽曲「私らしく生きてみたい」のカラオケ用音源(以下「本件DAM音源」という。)を作成した。原告は本件DAM音源につきその音を最初に固定したレコード製作者として送信可能化権(著作権法96条の2)を有する。

(3) 被告は、カラオケ店舗において、DAMの端末を利用して、上記楽曲のカラオケ歌唱を行い、その際に自身が歌唱する様子を動画撮影し、本件DAM音源の音が記録された動画(以下「本件動画」という。)を同年9月7日にインターネット上の動画共有サイトである「YouTube」にアップロードした(以下、この行為を「本件行為」という。)。

(4) 本件行為は、原告の本件DAM音源に係る送信可能化権を侵害する行為に当たる。なお、本件動画は既に「YouTube」上から削除されているものの、被告が他の動画共有サービスを用いるなどして本件動画の電磁的記録を送信可能化する可能性がある。また、被告による原告の送信可能化権侵害を防ぐためには、被告が管理する本件動画の電磁的記録を消去する必要がある。よって、原告は被告に対して本件動画の送信可能化の差止め及びその電磁的記録の記録媒体からの消去を求める。

2 被告は、陳述したとみなされた答弁書において、次のとおり主張した。

 被告は自主的に本件動画を「YouTube」上から削除した。そもそも、本件動画は主として被告自身の歌唱の様子を撮影したものであって、原告の利益を明確に侵害したとはいい難いものであるから、差止請求等の訴訟を提起することは適切でなく、原告は被告に連絡をとって被告が自主的に削除する機会を与えるべきであった。

第3 当裁判所の判断

1 証拠(甲1~5)及び弁論の全趣旨によれば、原告主張の請求原因事実を全て認めることができる。そうすると、本件行為は本件DAM音源に係る原告の送信可能化権の侵害に当たるから、原告は被告に対し本件動画の送信可能化の差止め及びその電磁的記録の記録媒体からの消去を求めることができる。

 これに対し、被告は上記のとおり主張するが、本件動画が「YouTube」上から現時点では削除されているとしても、本件の証拠上、本件動画の電磁的記録が被告の有する記録媒体から消去されたことはうかがわれないから、原告の上記請求につき差止め等の必要性を欠くとみることは相当でない。

2 以上によれば、原告の請求はいずれも理由があるから、これらを認容することとし、主文第2項についての仮執行宣言は相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

判決に対するコメント

裁判所の判断について

 著作権法を読めば、原告の請求が認容されることは明らかです。このため、判決は非常に簡素な内容で、原告の請求を認容しています。被告の反論は、利益侵害の程度が小さいといった趣旨のものと解されますが、著作権法の定める原則からすれば、原告の請求権を否定する根拠にはならないものと解されます。

 なお、動画データの電磁的記録を完全に抹消していれば、記録抹消の請求は棄却されることもありえます。この場合は、ハードディスクからデータを抹消した証明書などを添付するのかもしれません。とはいえ、業者に依頼すると費用がかかります。実際には、抹消の証明までは面倒だとなれば、本件にように裁判所の判断で、記録の抹消請求まで認容されることになるように解されます。

 本件の判断は、「youtube」などの動画共有サイトにアップロードされている動画の多くに該当するものと解されます。すなわち、実際には、カラオケ会社などが訴訟上の請求を行っていないだけで、請求がなされた場合には、ほぼ同じ判断になるように思われます

著作権法違反を回避する方法はないのか

 自分の好きな歌がうまく歌えた場合などに、動画共有サイトにアップロードするというのは、ファンの行動などとして、充分にありうるものと思われます。とはいえ、本来は、歌を公開する権利は、その作曲者などの権利者だけに認められるものです。このため、今回の裁判で問題にされた行為は、著作権法に違反しうるものです。

 この事態を回避する方法は、実は、いくつか存在します。この方法については、以下の記事でまとめてありますので、興味のある方はご覧ください。まとめ部分を抜粋すると、以下の通りです。

  1. インターネットにアップロードなどせず、私的に楽しむ分には、カラオケ動画撮影は原則自由である
  2. カラオケ動画をインターネット上にアップロードする場合には、youtubeやニコニコ動画などの大手サイトの場合には、音源と歌唱部分を自前で用意することが必要である(JASRACとの利用規約に従う限度でアップロードが可能)
  3. 2の場合でも、過度な替え歌など、著作者の意図に反する楽曲の改変は控えるべきである
  4. 「facebook」、「twitter」、「instagram」などへのSNSサイトにてカラオケ動画を公開することは、著作権法の観点からは控えるべきである(JASRACとの利用規約がないため)
  5. カラオケ動画を手っ取り早くインターネットにアップロードする場合は、カラオケ会社のプラットフォーム(「DAM★とも」や「うたスキ動画」など)を利用することが無難である

コラム・著作権法違反にならないカラオケ動画(「歌ってみた」等)について(youtubeへの動画アップロードが著作権法違反とされた裁判例(東京地裁H28.12.20判決)をもとに)(別ウィンドウが開きます)

 要するに、「youtube」や「ニコニコ動画」に動画をアップロードする場合には、前記サイトがJASRACと楽曲の利用許諾契約を結んでいるため、JASRAC管理の楽曲について一定の条件を満たす方法で行うことで、著作権法上許されるアップロードになる、ということです。その条件で主要なものは、音源と歌唱部分のいずれも自前で用意することです(音源の用意が難しければ、アカペラ版を作成すべきでしょう)

補足

 以下のページも、よろしければご覧ください。

インターネットをめぐる法律問題

最近の最高裁などの重要判例

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