判例紹介・遺産分割にて、寄与分の評価を農地評価額の30%と認定した決定(大阪高裁H27.10.6決定、平成27年(ラ)908号)

はじめに

 相続事件で、遺産分割の際に、「寄与分」が問題になることがあります。寄与分とは、被相続人(死亡した人)の遺産形成への相続人の貢献度を示すものです。寄与分が認められれば、その人は、遺産を多く取得することができる性質のものとなります

 遺産分割で争いとなると、生前の特定の相続人の受益を指す、「特別受益」の主張が展開されることが多いものです(住宅建築資金の援助を受けていた場合などが典型)。これは、自身の相続分を増やすために、「他の相続人はこんなに優遇されていた」という趣旨の内容です。

 他方、特別受益とは逆方向で、「自分はこれだけ被相続人の財産形成に貢献した」と、「寄与分」の主張が展開されることとなります

寄与分の要件

 寄与分が認められるためには、以下の要件が必要とされています。

  1. 特別の貢献
  2. 無償性
  3. 継続性
  4. 専従性

 家業を手伝ったとか、被相続人の生活援助をしていたといった主張が典型です。とはいえ、寄与分については、被相続人の通帳などから根拠を探すことも可能な特別受益と比較しても、目に見えにくいものです。このため、寄与分の認定はハードルが高いうえ、裁判所の認定にも相当程度の裁量があるように解されます。

紹介する事案

 みかん農家の家業を手伝っていた長男の寄与分を、遺産の農地分の30%としたものです(判例タイムズ1430号142頁)。具体的な手伝いの状況などから、具体的な寄与分の割合を算出しています。

 なお、決定書の内容のうち、当事者の表記を適宜変更しています。

事案の概要

原審段階
申立人(長男)の相続分 約1,960万円
相手方(被相続人の妻)の相続分 約1,450万円
相手方(次男)の相続分 約720万円
寄与分割合 長男につき、遺産全体の30%
高裁段階
相手方(長男)の相続分 約1,520万円
相手方(被相続人の妻)の相続分 約1,880万円
抗告人(次男人)の相続分 約940万円
寄与分割合 長男につき、農地評価額の30%
評価
具体的な差異 高裁の方が、抗告人(次男)にとっては約220万円有利な判断
差異の要因 寄与分の対象となる財産範囲の変更
特記事項1 農業の手伝いについての評価
特記事項2 長男の生活費援助の主張は採用されず

決定の要旨

高裁相手方(長男)の稼働状況について

 長男の勤務形態は,基本的には,日勤(午前8時から午後8時まで),休み(午後8時から翌日の午後8時まで),夜勤(午後8時から翌日の午前8時まで),休み(午前8時から翌日の午前8時まで)のサイクルを繰り返すものであり,長男は,昭和55年ころ以降,休日の昼間には可能なかぎり農作業を手伝い,繁忙期には休暇を取って農作業を手伝っていた。

長男の手伝い状況について

 長男は平成21年に勤務先を退職して警備会社に就職し,余裕が出来たことから,より積極的に農作業に従事するようになり,平成22年には【遺産となっている農地の一部に】みかんの木を改植したり,新たに農機具を取得するなどした。

農業所得の状況について

 被相続人の農業による収入は,遅くとも平成19年分以降は長男の所得として申告されていたが,平成19年分から平成23年分までの確定申告書上の農業による所得は赤字であった。

寄与分の該当性の評価について

 被相続人が【遺産となっている農地を】みかん畑として維持することができたのは,長男が昭和55年ころから農業に従事していたことによるものであると推認される。  そして,【農地の一部は】宅地見込地として評価されるが,当面はみかん畑としての利用が考えられ,これを売却するとしても市場参加者としては○○市内の農業従事者が中心となると見込まれること,【農地の一部は】は山畑でありみかん畑以外の利用は考えにくいことからすれば,耕作放棄によりみかん畑が荒れた場合には取引価格も事実上低下するおそれがあるといえる。したがって,長男には,みかん畑を維持することにより遺産の価値の減少を防いだ寄与があるといえ,農業の収支が赤字であったことは上記判断を左右するものではない。

具体的な寄与分割合について

 その他の認定で寄与の有償性を否定しつつ、

「長男の寄与分については,【農地の】相続開始時の評価額の30パーセントとみるのが相当である。」

とした。

本決定に関するコメント

寄与分の具体的評価

 「家業手伝いに関する寄与分の具体的評価」という難題に取り組んだ決定例と解されます。原審では「遺産全体の」30%として寄与分が認められたのに対して、高裁では「農地価格の」30%との認定となっています。このため、長男にとっては、不利な変更となっています。

 長男の寄与につき、農業従事については上記の4要件が認められたことになります。とはいえ、その具体的評価という局面では、H19~H23の確定申告が赤字決算だったことが、長男にとっては悪い結論となる要因になったと解されます。「遺産全体を増加させた」という評価は、所得自体が専従的な関与により大きく増加したとか、農業が拡大路線にのったとかいった事情がなければ、難しかったのではないかと推測されるところです。

本決定の意義

 寄与分の算定は、難しいところです。本件では、長男により、「被相続人の生活援助をしていた」という主張もありましたが、裁判所には採用されていません。生計を一にしていると、細かい証拠を集めることは非常に難しいことが予想されます。そうであっても、通帳の動きなどで具体的な生活援助の状況が出てこないと、日々のやり取りなどから高額な寄与分を導き出すことは、困難なように解されるところです。

補足

 以下のページも、よろしければご覧ください。

相続

相続等に関する裁判例