判例紹介・GPS捜査が強制処分か否かについて判断した裁判例(最高裁大法廷H29.3.15判決、H28(あ)442号)

はじめに

 ニュースなどでも取り上げられているとおり、GPS捜査が強制処分に当たるかどうかという点について、最高裁の判断が初めて示されました

 問題となった刑事事件は、複数件の窃盗や建造物侵入の被告事件でした。その捜査過程における捜査手法が適法なものだったかという点で、大きな争いになりました。

 結論としては、当事者の承諾なく、かつ、令状なくGPS端末を取り付ける捜査方法については、法律上特別な根拠規定がなければ許されない、令状がなければ行いえない「強制処分」であるとの判断でした。

 なお、判決文全文については、最高裁判所のホームページで公開されています(別ウィンドウが開きます)。

事案の概要

事件名 窃盗、建造物侵入、傷害(有罪)
争点 GPS捜査の適法性等
GPS捜査の態様 約6月半の間、19台の車両にGPS端末を設置して、車両の移動状況を把握した
特記事項 GPS捜査の承諾なし、令状なし

判決要旨抜粋

GPS捜査の特性について

 GPS捜査は,対象車両の時々刻々の位置情報を検索し,把握すべく行われるものであるが,その性質上,公道上のもののみならず,個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて,対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は,個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴うから,個人のプライバシーを侵害し得るものであり,また,そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において,公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり,公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである。

GPS捜査の法的な位置づけについて

 憲法35条は,「住居,書類及び所持品について,侵入,捜索及び押収を受けることのない権利」を規定しているところ,この規定の保障対象には,「住居,書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。そうすると,前記のとおり,個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は,個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして,刑訴法上,特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる(最高裁昭和50年(あ)第146号同51年3月16日第三小法廷決定・刑集30巻2号187頁参照)とともに,一般的には,現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから,令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである。

現行法上GPS捜査に関する令状発布が可能かどうかについて

 GPS捜査について,刑訴法197条1項ただし書の「この法律に特別の定のある場合」に当たるとして同法が規定する令状を発付することには疑義がある。GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査手法であるとすれば,その特質に着目して憲法,刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい。

判決についてのコメント

GPS捜査の法的な位置づけについて

 端的に、一般人の感覚に合った法的判断であるように思われます。GPS端末につき、犯行時の挙動についてはまだしも、それとは無関係な車両の移動状況まで逐一把握することまで、捜査機関に許容されているとは考えにくいところです。

 新たな捜査手法に関する評価は難しいものでしょう。とはいえ、憲法上の原則に立ち返って、「強制処分である以上、令状が必要、令状がない捜査だった以上、違法である」という判断に踏み込んだことは、特筆すべきものと解されます。

 このような判断枠組みは、今後も開発されるであろう新しい捜査手法にも影響を与えるものと思われます。

立法措置について

 捜査機関による私的領域への侵入度合いは大きく、通信傍受が特別法により初めて許容されている状況と比較すると、これを刑訴法上で許容させることには無理があるといえます。とはいえ、立法措置についてまで裁判所が踏み込んで判決文中で示すことは、かなり異例と解されます

 なお、判決の補足意見では、「立法化されるまでの期間中にGPS捜査を行うことが全否定されるべきものではない」という趣旨が述べられています。「極めて例外的な状況下でのみ許容されるべき」という言及の仕方は、日進月歩で進化する犯罪手法に対応すべき捜査手法につき、後追いの判断となるしかなく、その判断により既成事実となっている実務に大きな影響を与えてしまう司法の、微妙な立ち位置が示されているようにも感じられます。

補足

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