判例紹介・60歳兼業主婦につき、家事労働の休業損害を割合認定したもの(神戸地裁H28.6.15判決,H27(ワ)493号)

はじめに

家事休業損害について

 損害賠償実務では、「家事労働者の休業損害の認定」という、困難な問題があります。家事労働は日額が高くなりがちである一方(裁判所基準で日額約1万円)、「家事を休んだ日」というのは認定が難しいものです。また、生活の一部が家事であることも多く、入院でもしていない限りは、「完全な休業」とは言いにくいためです。

 このような争点について判断した裁判例が、自動車保険ジャーナル1984号59ページより掲載されています。この内容について、簡単に紹介します。

 なお、判決文中、「原告」との表記を、便宜上「被害者」としています。

事案の概要

事故日 H24.1.27
事故態様 バスガイドの業務中の受傷
入院日数 160日
通院日数 558日
症状 右膝関節機能障害等
後遺障害等級 併合12級
特記事項 2年間に5回の入院

判決要旨抜粋

家事労働の可否について

 被害者は1回目の骨接合術で骨癒合が十分でなかったこと、両松葉杖、片松葉杖及びT字杖の使用は転倒防止目的であったことが認められることに加えて、実際の両松葉杖、片松葉杖及びT字杖の使用による日常動作の制限に照らすと、被害者のリハビリ期間中の家事労働が相当程度の制限を受けていたことは否定できない。しかし他方、これまで認定のとおり、被害者はD病院に頻繁に通院して歩行練習等のリハビリを受けていたことが認められる上、リハビリテーション総合実施計画書には、原告がリハビリ期間を通じて家事労働の全部又は一部を実施していた旨記載されていることによれば、原告は、リハビリ期間中、全く家事労働ができなかったということはできず、一定程度の家事労働を行っていたと認めるのが相当である。

家事労働の認定割合について

 入院日数(160日)は100%の制限を認め、平成24年9月6日から同年10月31日までの通院期間(56日)及び平成25年3月14日から同月31日までの通院期間(18日)は90%の労働制限を、平成24年6月3日から同年8月15日までの通院期間(74日)及び同年11月1日から同年11月30日までの通院期間(30日)は70%の労働制限を、同年12月1日から平成25年3月6日までの通院期間(96日)、平成25年4月1日から同年11月10日までの逓院期問(224日)及び同月15日から同月25日までの通院期聞(11日)は50%の労働制限を認めるのが相当である。

後遺障害について

 省略

判決へのコメント

家事労働の認定割合へのコメント

 入院中に家事労働ができないことは当然です(100%の損害)。他方で、リハビリ中の家事労働については、時期や病院作成の書面の記載(「家事一部実施」など)を基に、100%ではない割合を認定し、家事労働の日額にその割合を掛け合わせた金額を休業損害としています。

 割合は90%から50%まで変動していて、50%であれば、通常の半分程度の家事はできた、という評価になっているのでしょう。

認定割合についてのコメント

 病院が「家事一部実施」などと書面を作成している以上、裁判所もこれを無視することはできなかったものと推測されます。本件の被害者の損害は、相応に重大です。それにも関わらず、家事が一部できたという評価は、やや厳しいようにも思われます。

 とはいえ、額面通り通院期間に日額を掛け合わせる方法によると、家事労働はどうしても高額になりやすいものです。給与所得者の場合、一般的に多くの日数を休むことは少ない(休業損害も多くは発生しない)という実情に照らすと、あまり高額な家事労働の休業損害はアンバランスにもなります

 そのような実情をも考えると、割合的認定という方法も、やむを得ないように思われます。

一般的なむちうち症の事案への適用可能性

 本件のような判断に従うと、14級9号の後遺障害に該当するかどうかといったレベルの一般的なむちうち症の場合では、家事労働についての休業損害はあまり認められないことになるように思われます。重大でないむちうち症の場合で、家事を禁止するような医師の指導がなされるとも考えにくく、実際に家事労働が全く不可能ということも、考えにくいためです。

 家事労働の休業損害は、最大値(日額約1万円×入通院期間全日など)で計算すれば、100万円を越えることもありうるなど、相当の金額になります。とはいえ、症状が重大ではないような場合には、あまり最大値の金額にこだわらずに、示談交渉を進めていく方がよいようにも思われるところです

認定内容一覧表

  請求額(円) 認定額(円)
治療費(支払済) 0 0
文書料 119,780 119,780
後遺障害診断書料 4,000 4,000
入院雑費 240,000 240,000
通院交通費 661,075 661,075
休業損害 5,593,689 3,841,220
入通院慰謝料 3,800,000 3,700,000
後遺障害逸失利益 3,507,061 3,475,430
後遺障害慰謝料 2,900,000 2,800,000
小計 16,825,605 14,841,505
既払金 ▲11,580,732 ▲11,580,732
確定遅延損害金 ▲1,570,713 ▲797,157
弁護士費用 600,000 320,000
合計 7,415,586 4,377,930

補足

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交通事故

平成27年ころ以降の交通事故判例